見出し画像

ドラマ「俺の家の話」は長瀬×クドカンの集大成である。(第1話〜第5話を観て。)

 TBS系金曜夜10時ドラマ「俺の家の話」がおもしろい。

・長瀬智也×宮藤官九郎がTVドラマで約11年ぶりのタッグ。
・長瀬智也、ジャニーズ事務所退所前最後のTVドラマ主演。
・「能」と「プロレス」と「高齢者介護」を融合した異色のホームコメディ。

など、事前の注目ポイントがたくさんあった。

 すでに第5話までの放送が終了し、SNS上でも「相変わらずの小ネタの多さ」や「介護にまつわるシリアスな事象」など様々なポイントが注目されている。
 宮藤官九郎がTBSで初めて連続ドラマを手掛けた『池袋ウエストゲートパーク』から約21年。そして長瀬智也と宮藤官九郎という稀代の名コンビの関係が始まってからの21年間における、集大成の作品である。
 なので今回は『俺の家の話』のここまでの好きなポイントを長瀬×クドカンの21年間の歴史とともに書いていく。

参考資料①
宮藤官九郎・TBSドラマの歴史。

2000年「池袋ウエストゲートパーク」(主演:長瀬智也)
2002年「木更津キャッツアイ」(主演:岡田准一)
2003年「マンハッタンラブストーリー」(主演:松岡昌宏)
2005年「タイガー&ドラゴン」(主演:長瀬智也、岡田准一)
2006年「吾輩は主婦である」(主演:斉藤由貴)
2008年「流星の絆」(主演:二宮和也)
2010年「うぬぼれ刑事」(主演:長瀬智也)
2014年「ごめんね青春!」(主演:錦戸亮)
2017年「監獄のお姫さま」(主演:小泉今日子)
2021年「俺の家の話」(主演:長瀬智也)
参考資料②

「俺の家の話」あらすじ(公式サイトより)

 今回、宮藤が手掛けるオリジナルストーリーで長瀬が演じるのは、ブリザード寿というリングネームで活躍する現役プロレスラーの観山寿一。
 かつては大規模プロレス団体に所属する人気レスラーで、プエルトリコチャンピオンまでなったが、ケガや年齢もあり今は小規模な団体で細々と試合に出ている状態。
 ある日、寿一は父親が危篤だと知らされる。父親の観山寿三郎は、全国に一万人以上の門弟を持つ二十七世観山流宗家にして重要無形文化財「能楽」保持者。いわゆる人間国宝である。
 その跡を継ぐと期待されていた寿一だが、寿三郎に反発し家出をしたのが20年以上前。以来、音信不通だった寿一が突然、帰ってきたことに家族たちは驚く。
 一方、奇跡的に一命を取り留めた寿三郎だが、傍らに立つ介護ヘルパーの志田さくらを家族に紹介し、彼女と婚約して遺産もすべてさくらに譲ると宣言。
 実力と人気に限界を感じていた寿一はプロレスラーを引退し、実家に戻り寿三郎の介護を手伝うことに。
 家族とさくらを巻き込んで、介護と遺産相続を巡る激しいバトルのゴングが鳴り響く‼
参考資料③

「俺の家の話」登場人物(公式サイトより)

・観山寿一(長瀬智也)
 「ブリザード寿」のリングネームで活躍する現役プロレスラー。観山流宗家の長男として生まれ、4歳のとき初舞台に上がり神童と呼ばれるが、17歳で家出。

・志田さくら(戸田恵梨香)
 寿三郎を献身的に介護する謎の介護ヘルパー。「集まれやすらぎの森」のスタッフ。寿三郎から結婚を申し込まれ、快諾する。

・観山寿三郎(西田敏行)
 二十七世観山流宗家にして重要無形文化財「能楽」保持者。いわゆる人間国宝。全国に1万人以上の門弟を持ち、全日本能楽協会理事長でもある。2年前、脳梗塞で倒れ下半身に麻痺が残ったため、公演はすべて断っている。その後、倒れて危篤に陥るも、奇跡的に復活してさくらとの結婚を宣言する。

・観山寿限無(桐谷健太)
 小学1年生から寿三郎の弟子として育ち、幼いころは寿一の遊び仲間。寿三郎の芸養子となったことで、本来は寿三郎の後を継ぐべき立場だが、寿一が観山流を継ぐべきだと思っている。

・観山踊介(永山絢斗)
 観山家の次男。奔放な兄・寿一を反面教師にして堅実に生きることを決意、弁護士となる。

・長田舞(江口のりこ)
 観山家の長女。進学塾の講師をしており、寿一にとっては妹。女性というだけで宗家を継げないことから寿一や踊介には劣等感を抱いている。

・O.S.D(秋山竜次)
 舞の夫で自称・ラッパーだが、現在は自粛中。都内でラーメン屋を4店舗経営しているオーナー。

・観山秀生(羽村仁成)
 寿一の息子で小学5年生。学習障害と診断され、学校になじめていない。

・長田大州(道枝駿佑)
 舞の1人息子。周りの空気を読まず、思ったことはすべて口にしてしまうイマドキの高校生。母親に言われて能を続けているが、能の世界で生きていくべきか決めかねている。



1.相変わらずの小ネタの多さ。

 クドカン脚本の特徴と言えば「固有名詞や時事ネタを巧みに使った小ネタの多さ」である。
 そしてそのなかには、大ヒット朝ドラ「あまちゃん」のセリフを引用させていただくなら

「わかるやつだけわかればいい!」

By 花巻珠子 (伊勢志摩)

と開き直ってしまっているくらい、大多数の人の頭にはハテナが浮かぶものもある。

 例として、クドカンドラマで実際にあった小ネタセリフ、演出を集めた。セリフだけ抜き出しても、場面が想像できないものもあるが、了承してほしい。

2014年『ごめんね青春!』第7話

男子校(トンコー)と女子校(三女)が統合するにあたって校歌をどうするか、という男子校校長(生瀬勝久)と、女子校教員(満島ひかり)の会話。

生瀬「三女とトンコーの校歌のメドレーじゃダメかな?2曲続けてどうぞ、って。」

満島「MUSIC FAIRじゃないんですけど。」

その後両校の校歌が試聴され、キリスト教系女子校の校歌歌詞には「罪」というワードが11回も登場し、仏教系男子校の歌詞には男らしい応援歌調の楽曲に「色即是空」、「諸行無常」といった和テイストのフレーズが登場した。

 校歌を2曲採用しようとするのもおかしな話だが、その例えとしての「MUSIC FAIR」。たしかに仲間由紀恵や鈴木杏樹がよく言っていた。「MUSIC STATION」ではなく「MUSIC FAIR」というワードを使うところに、(キリスト教系)女子校教師のある種の上品さを感じさせられる。

2005年『タイガー&ドラゴン』第7話

元落語家・竜二(岡田准一)とメグミ(伊東美咲)のカップルの会話。

伊東「(テレビで芸人のネタを観て)この人たちって面白いよね。メグミ超好き!」

岡田「そうかな?よくあるパターンじゃね?」

伊東「でも面白いじゃん!」

岡田「・・・俺と、どっちが面白い?」

伊東「やだ~、竜ちゃんに決まってるじゃん!でも、ふかわりょうは竜ちゃんより面白いと思う。」

(岡田、怒りに燃えお笑いオーディションに出場する。)

 これもまた絶妙である。誰よりも面白いと自負している男が、自分よりも面白い人物として挙げられたら嫌な名前としての「ふかわりょう」。(「ふかわりょう」と同世代の)「土田晃之」や「陣内智則」だったらそこまで悔しくはならないかもしれないが、「ふかわりょう」だと笑いを愛する男にとってはプライドが許さないのだろうか。(「ふかわりょう」は何も悪くない。)

2010年『うぬぼれ刑事』第2話

結婚詐欺犯・蒼井優の弁解とそれに反論する刑事・長瀬智也。

蒼井「夫は酒癖が悪くて・・・。酔って私に暴力を・・・。」

長瀬「山形に行ってきたと言っているでしょう!!そんな事実は少しもなかった。アルコール依存症で死んだはずのお父様もピンピンしていた。病気の母も、介護が必要なおじいちゃんも、借金苦の弟も、みんな揃って『恵美子のおしゃべりクッキング』を見ながらそうめん食べてました。」

 詐欺師が話す「嘘」を論破するシリアスな謎解きシーンのはずなのだが、そんななか出てくる「恵美子のおしゃべりクッキング」、「そうめん」というワード。
 平日の13時05分~13時20分(「うぬぼれ刑事」が放送されていた2010年当時の放送時間。)に遅めの昼食、しかもそんなに凝った料理ではない「そうめん」をすすりながらボーッと家族でテレビを観ている様子がありありと浮かんでくる。
 これこそ事件とは無縁の「平和」な描写と言える。


 ※ここで気づいてしまった。素人がドラマ内の会話を文字起こししても、前後の文脈や背景・キャラクターがわからないと、面白さがまったく伝わらないことを(クドカンに失礼。)。ドラマを観て画がわかれば笑えると思うので、本日のところはご勘弁を。


 たしかにクドカンドラマの小ネタは、1回聞いただけでは理解ができないことも多い。(ここ数年のクドカン作品のリアルタイム視聴率があまり良くない要因の1つとしても考えられる。)
 だがわからなくてもなぜか耳に残ってしまい、鑑賞後人に聞いたりネット検索にかけたりしたこともある。そして意味がわかるとそのセリフや場面のおもしろさがより理解できる。

 今回の「俺の家の話」も、「介護」という重いテーマを抱えながら、頭に残る「小ネタ」をテンポよく入れている。
 第1話から第5話までにあった一部例がこちら。

第1話

・寿一(長瀬智也)のプロレスラーとしてのリングネームが「ブリザード寿」であるため、入場曲は「松任谷由実」の「BLIZZARD」。
・要介護認定の父・寿三郎が一回り以上年下の美人介護士・志田さくらと結婚すると宣言した際、「カトちゃん(加藤茶)か!」とツッコまれる。
・寿三郎が通うデイケアサービス施設の名前が「集まれやすらぎの森」。
 (「あつまれ どうぶつの森」+「やすらぎの郷」)
第3話

・舞の「退院祝いがありま~す」という言葉に対し、寿三郎の返答「あります?STAP細胞?
・寿三郎のエンディングノートに書かれた願いの一つが「さくらさんと桜を見る会に行く
・エンディングノートに「5Gを手に入れる」、「香水をカラオケで歌えるようにする」。

第4話

・ラーメン屋店主の義弟・O.S.Dが店内で寿一の姿を見て一言。「WAO!京極夏彦さんかと思ったらお義兄さんだ!ハッハッハ!」
 (このとき寿一は能の練習衣装を着ていた。)
・舞、TikTokを「ヨックモック」と間違える。
・寿三郎と愛人の子として産まれた寿限無の認知について、舞に「蒲田行進曲か!」とツッコまれる。


2.過去作品とのリンク、オマージュ

 主演の長瀬智也はドラマ放送終了後の2021年春をもってジャニーズ事務所を退所することが決定している。退所後は裏方に転身する、という発表もあるため、「俺の家の話」が彼にとって実質最後のドラマ出演となる可能性が高い。
 それもあってか、今回のドラマはかつての「長瀬×クドカン」作品とのリンク、オマージュが多く見受けられる。

 オマージュという観点でのここまでの代表的なシーンといえば、第4話の大州と寿一のシーンだろう。能の稽古をサボった大州を寿一が呼びに行った場所はなんと「池袋」。そう、「長瀬×クドカン」の原点「池袋ウエストゲートパーク」である。

寿一「万が一カラーギャングに囲まれたらお前のこと守り切れねーなと思って。」
大州「何年前の話だよ。」

という会話がドラマ「池袋ウエストゲートパーク」のBGMとともに行われていた。
 21年の時を超えて再び長瀬智也が池袋西口公園の地に、別役として降り立った。
 この2つの事実が、クドカン作品のファンにとってはたまらないものである。
 さらに大洲が所属しているダンスチーム(池袋西口公園で練習をしていた。)の名前は「YELLOW ANGELS」。ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」に出てくる代表的なカラーギャング集団「G-Boys」のパーソナルカラー「黄色」と、そのライバルチーム「Black Angels」の「Angel」を合わせた名前であることが容易に想像できる。(ダンスチームのユニフォームカラーも黄色。)

 他にも「伝統芸能の師匠と弟子、そして親子」、という設定は「タイガー&ドラゴン」、「寿一が一瞬さくらに惚れかけてしまう(その後さくらに借金をしてしまう)」というシーンは「うぬぼれ刑事」とのリンクが想像できる。(さくら役の戸田恵梨香は「うぬぼれ刑事」第4話にゲスト出演していた。)というか踊介も惚れちゃうんかい。

 キャスティングも、メインの長瀬智也西田敏行や「大人計画」所属の荒川良々三宅弘城平岩紙をはじめ、「流星の絆」「うぬぼれ刑事」の戸田恵梨香、「タイガー&ドラゴン」「流星の絆」の桐谷健太、「ごめんね青春!」の永山絢斗、「マンハッタンラブストーリー」「タイガー&ドラゴン」「流星の絆」「監獄のお姫さま」の尾美としのりといった過去のクドカン作品でも印象的な役を演じた俳優が再び名を連ねている。
 そのうえでクドカンドラマには初出演となる井之脇海道枝駿佑といった注目の若手俳優の、長瀬智也演じる寿一を尊敬する人物としての登場が、クドカンオールスタードラマとしてだけでなく、2021年のドラマとしての新鮮さを担保してくれる。

 多くのクドカン作品経験者と注目の若手俳優が脇を固め、過去作品のオマージュがドラマ内に散りばめられている。もはや長瀬智也を送り出すための壮大な花道とも捉えられる。
 これらの演出は、長瀬智也が制作陣からも視聴者からも長年愛され続けたからこそのできることでもあるし、今後もどのような演出があるのかとても楽しみである。


3.「介護」におけるシリアスな描写

 「俺の家の話」で忘れてはいけないのは、このドラマが「介護」を描いた作品である、ということである。
 父である寿三郎は劇中で認知症の傾向が出たため、要介護1の判定が下された。
 具体的には「野菜の名前が言えない。」といった症状なのだが、幼少期から厳しかった父親の変わり果てた姿として描かれるその姿は、視聴者にも痛々しく伝わるものだった。

 このドラマは「俺の家の話」とあるように、あくまで観山家の話である。物語の中で起こる出来事には、一般化するべき問題とそうでない問題(寿限無の出生問題など。)の両方がある。
 しかし、「介護」や「認知症」、「親子関係」という観点で起こる出来事には決して他人事とは思えない描写が多い。 
 このドラマでは、「一人で風呂に入れない父親の身体を洗う」、「介護もいつか終わる、と不謹慎だがつい口に出してしまう」、「少し目を離した隙に父親が転び、病院へ運ばれる」といった字面で見るととてもシリアスに感じられる場面を、悲愴感を漂わせることなくコミカルに演出していた。
 これらの演出によって、放送時間中は「介護」に対して決してネガティヴになりすぎることなく、一物語として観ることができた。
 しかし、放送が終わった後に冷静になると、自分がもし寿一と同じく介護をする立場になったときに、親が弱っていく姿から目を背けないでいられるのか、「死」を匂わせる言葉を無意識のうちに発さないでいられるか、自分の担当時間には全責任を持って親の面倒を見ていられるか、といった不安を感じた。
 この部分は誰にとっても「俺の家の話」になり得る部分なのだと思った。
 「介護」を「エンタメ」として消費することなく問題点などには真っ向から切り込むが、一方で物語全体を決して暗くしすぎることなく一つの「コメディドラマ」として届けてくれる。
 民放のプライム帯でファミリー層の視聴が想定されるなか、視聴層の誰しもが対峙しなければならない問題を、ここまでテンポの良いドラマに仕上げることができるとは。

 

4.終わりに

 第6話以降も、「子供の前ではカッコつけたい寿三郎(どこまではっきりと覚えているのかは視聴者にはわからないが、寿三郎はさくらに子供の前では今までどおり彼女として振るまってほしい、と頼んだ。)」、「本心では父親に褒められたい寿一」という親子関係に今後どのような変化が起こるのか。そして寿一の願いである「家族旅行」が成功するのか、といった気になるポイントがたくさんある。
 「池袋ウエストゲートパーク」から約21年間で、長瀬智也はクドカン作品で数々の「カッコいい男」を演じてきた。(映画「真夜中の弥次さん喜多さん」の弥次さんと「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」のキラーKも含む。)
 その(事実上)最後を飾るのが「介護や家業継承、息子の病気」など様々な問題を抱える40代の男とは。ある意味今までで一番現実にいそうなキャラクターなのかもしれない。
 登場人物がほぼ全員マスクをしていることから2020年~2021年のコロナ禍の話であることをはっきりと表しており、より物語に現実味を与えている。
 最後だからこそ、この生きづらい世の中でともに生きる観山寿三郎として長瀬智也は視聴者に何を示してくれるのか。宮藤官九郎は彼にどのような言葉を与えるのか。
 第6話にはTBSのクドカンドラマにはなんと約16年ぶりの出演となる「阿部サダヲ」の出演が決定している。
 第6話以降も毎週金曜日が楽しみでしかない。

(個人的には、「吾輩は主婦である」以外のすべてのTBSクドカン作品に出演している「森下愛子」の出演があるのか気になるところ。)
 
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?