紙とWebの違い①| 提供するニーズの大きさ
紙媒体の記者や編集者を8年ほど経験して、30歳を機にWebメディアに転身したわけだけど、思ったより戸惑いや困難な部分はない。
コンテンツの本質的な部分は同じだからと、言うは易しだが、Webメディアの選考では「紙とWebの違いは?」と馬鹿の一つ覚えのように質問された。
その度に、ネットで紙とWebの違いを調べたりした。まぁ紙とWebの違いをWeb記事からしか見られないのも不思議な話だけど。
いまになって思うとそれほど腹落ちする記事に出会ったことがなく、まだ紙臭さが残る今だから紙とWebの文章について記しておきたい。
ちなみにWebの文章というのは、いわゆるSEO記事のことで、コンテンツマーケティングまわりの文章を想定した。紙は、速報性の高い新聞や週刊雑誌あたりを想定している。
最大の違いはニーズの粒度
たぶん論点はいくつかある。読む側の姿勢、つまり、お金を払って読むかタダで読むか。
紙とWebの目に入る情報量のおおさ。新聞なら一見して見出しや記事の長さ、大きさがわかるという一覧性という特徴。Webはスクロールしないといけない。
確かに、これらを想定したうえでの文章の書き方に違いはあるし、重要なことだ。
でも、なんというかもっと書いている時の頭の使い方というか、想定の仕方が違う気がしていた。Webメディアに携り、3ヶ月経ち、それも言語化できるようになったというか、説明できるようになったので、この記事を書くことにしたというのもある。
今回は、書く際に想定するニーズの粒度の違いについて。
紙は媒体そのものでニーズに応える
ニーズの粒度というのは、想定するニーズ層の大きさという意味で書いた。
ここからは具体的に考えてみたい。
経済誌のコンテンツをつくるとしよう。想定読者は30代のビジネスパーソン。
こうした層に雑誌をつくるとなると、不動産投資や株などの投資や自己啓発、家の購入などだろうか。これらをニュースや情報としてパッケージ化して提供するのが、雑誌だ。
新聞となるとその粒はかなり大きい。なにしろ、日本語を話す全ての人となるわけだから。アフリカで飛行機事故があるとしよう。その見出しは決まっている。
「邦人の搭乗者なし」
日本人が自分たちにしか興味がないようで、寂しくはあるが、現に第一の関心ごとはこれなのどからしょうがない。
【事実がある→想定読者の価値を図る→記事を書く】
プロダクトアウト寄りの紙媒体
紙はニーズがかっちり決まっていない。荒い。というか分からないので、想定でしかない。売れた、売れないも基本的には、仮説でしかない。
たとえばWeb上で、「記事ごとに出すのでページビューなどで結果がわかるじゃないか」という意見もあるかもしれない。でもそれは、お金を払って雑誌を買ってその記事を読む人と、なんとなくニュースラインに流れて見た人とは、動機が異なる。
さらにいえば紙の雑誌は、購読料で収益をあげているわけだから、ただで読む人からお金を払う人の評価をつなげるのはおかしい。
紙の記事をWebに載せて結果を計測するというのは、ナンセンスともいえる。
結果責任が多少伴うとはいえ、一記事ごとの評価は定性的で曖昧だからその分、気持ちよく書けたりもする。だって、ニーズがぼんやりとしているし、誰も証明する術がないから。
これは、プロダクトアウト的な考えであり、大袈裟にいえば当たるも八卦当たらぬも八卦みたいなところもある。
超マーケットインのWeb
【ニーズがある→ニーズに応えるコンテンツを考える→記事を書く】
比べてみると随分と違う。超マーケットインの体裁をとっているのが、Webメディア(検索流入を狙ったメディア)。
まずニーズを把握する。これは数字で明確に把握できる。検索ボリュームがわかる。次に、サジェストキーワードを検索する
つまり、キーワードが「ゴリラ」なら、「ゴリラ 飼い方」とか出てくるので、ゴリラの飼い方を指南すればいい。
この時、はずしてはならないのが、読んでいる人はゴリラの飼い方を知りたい人ということだ。ゴリラの生息地とか話がずれると読者はすぐに記事を閉じてしまう。ニーズが決まっているから、自ずとコンテンツも決まってくる。
ゴリラの仕入れ方、値段、エサ、注意点といったところだ。まさに、【ニーズがある→ニーズに応えるコンテンツを考える→記事を書く】の順番だろう。の順番だろう。
紙は新聞、雑誌という一まとまりのコンテンツを提供し、総じて想定読者のニーズに応えられているかが至上命題となる。
となれば、新聞や雑誌の名前はとても重要だ。想定読者のニーズに応えられていうという、ブランド価値は非常に重要な指標となる。
一方、ゴリラの飼い方を知りたくて、検索窓に打ち込んで調べる人は、どのメディアかなんて正直どうだっていい。
ゴリラ専門メディアのファンならまだしも、ゴリラの飼い方を知りたくてその欲求が記事で満たされればいいだけだ。
その分、常にニーズに応えられているのか、記事の一文一文がある意味、離脱の恐怖にさらされているとも言える。
紙とWebの良さをWebで
この記事を書いたのはメモでもあるが、紙を知らないWebメディアに携わる人、Webを知らない紙媒体の人にも一読してほしいというのもある。
コンテンツの作り方では随分違うわけだが、それぞれの作り方の部分で学び合えばいいと思うからだ。大雑把にいうと、紙はwebから精密なマーケティングとマーケットインの思想。webは費用対効果を度外視しがちな紙のコンテンツの作りこみ。
これを可能にしているのは、先に説明したニーズの大きさの違いからきているように思う。
コンテンツの主戦場は言うまでもなくすでにWebだ。一方で、早晩、Web的なコンテンツの作り方はレッドオーシャン化することは目に見えている。血の海と化し、ビジネスは成り立たなくなる。
紙の良さを融合したWebコンテンツこそが今度のビジネスでの勝ち手になることは言うまでもない。
でも、具体的な方法論は暗中模索といっていい。まだ誰もわかっていない。
最良のコンテンツとは何か? みんなで一緒に考えよう。