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公教育の、政治・行政からの独立性 - 東大阪市

政治・行政が、学校の教育内容を決める。
そのような公立の学校が大阪にあります。

教育の場こそ、自律した精神を養う場であって欲しいです。


1.トップアスリート連携事業

東大阪市では「ラグビーのまち」を標榜ひょうぼうしています。行政としてラグビー事業を行っています。背景には、政治もあります。

森喜朗会長が東大阪市に来られました(平成23年5月)

行政が実施するラグビー事業に「連携する」という説明のもとで、東大阪市立日新高等学校では、部活のラグビー部の部員が、花園近鉄ライナーズ(プロのラグビーのチーム)から指導を受ける「トップアスリート連携事業」を行っています。


2.東大阪市立 日新高等学校 校長先生のお考え

日新高等学校 日比野 功 校長先生のお考えは次のとおりです(2021年10月時点。一部分)。

本校は本市唯一の市立高等学校という特徴もあり、ラグビーのまち東大阪と連携した施策をはじめ、短期公費留学制度などを含む多くの本市独自の施策を受けながら特徴ある取り組みを実施しています。

校長からのご挨拶(一部分)

ラグビーのまち東大阪と連携した施策」とは、トップアスリート連携事業のことです。

他の部活では、このようなプロによる指導が行われることはありません。経費は市が支出しており、年間137万円の予算です。

短期公費留学制度もそうですけど、(生徒全員ではなく)一部の生徒しか受講できない教育コンテンツを、公立学校の「特徴」だと案内しているのです。

税金を原資とする公立の学校ですから、全ての生徒に適用できる(又は、学習が遅れている生徒を対象とする)ような教育コンテンツを提供することが望ましいと私は思います。

本事業の意義に関する学校としての説明は、この校長の挨拶に書かれてある、たったその一言「ラグビーのまち東大阪と連携」だけです。

「何故連携が必要か」という説明はありません。その肝心な説明が無いことから、教育の独立性・主体性を放棄しているということになります。


3.「ラグビーのまち」とは何か

東大阪市は「ラグビーのまち」を標榜しています。人口は約50万人です。

読者の皆さんは、「50万人もの市民がラグビーを愛好している」と真面目に考えるのでしょうか?

もし、あなたが人間の本性に関する知見をお持ちであれば、「ラグビーのまちなんてありえない」と思うはずです。
それが虚構きょこうであることを見抜いたうえで、それに対して寛容かんような振る舞いをするかもしれません。

もし、あなたが「東大阪市の多くの市民は、ラグビー愛好者なのだな」と感じるようでしたら、世界のあり方や人間というものについてもっと勉強した方が良いでしょう。

50万人もの多様な人々が暮らしているにも関わらず、特定のスポーツ競技だけを持ち上げる「ラグビーのまち」という標榜ひょうぼうをヤラかしてしまうマチとは、いったい、どんなマチなのか想像してみてください。

2021年10月2日 花園ラグビーの日制定記念イベント

写真は、2021年10月2日、東大阪市花園ラグビー場で開催された、花園ラグビーの日制定記念イベントです。

座席の色は、真っ赤に染まった 

全戸配布の市の広報誌で周知され、
イベントに飢えたコロナ明け(席を1個空けて着座する)で、
好天に恵まれた土曜日に、
無料であるにも関わらず、
大量の空席があり、座席は真っ赤に染まりました。
ラグビー競技そのものには興味はなく、隣同士で終始話をしている人達もいました。

このような実態があるにも関わらず、何故ラグビーのまちなのでしょうか?

で、これじゃイカンということで、マスコットキャラクターを頻繁に露出させ、カワイイを演出し、ラグビーを愛好するよう精神支配を試みるドコゾの市役所でした。

ラグビーで 精神支配だ トライくん(五七五)


4.教育的意義を述べることが、教育

教育的意義を述べることこそが、教育的なのではないでしょうか。

別の言い方をすれば、「何故、その勉強をするのか」を考えることが、主体的学習につながる、のではないかと思います。

人類にとって「正義とは何か」を問うことは重要です。
正義を具現化するのが公共機関です。
なので、公共機関はいかにあるべきか、を議論することは重要です。
その議論の中には、公平性の問題も含まれます。

「トップアスリート連携事業を公教育の中で実施することには公平性があるといえるのか」という課題への模範解答や考え方を説明することは、高校生にとって大切です。
高校生は、物事を考え始めたばかりですから、考えるネタ(思考の素材)を未だ十分に持っていない状態です。
なので、校長先生が模範解答を示さねばなりません。

「行政との連携」という説明では解答になりません。
これだけでは、「思考を停止して、為政者いせいしゃに従えば良い」と言っているだけです。

行政との連携といっても、教育側で主体的に意義を説明できるのであれば、何も問題はありません。
例えば、人権意識の啓発事業を行政でやっている場合であれば、それと教育が連携することは、教育側としても教育的意義を述べることはできますので、何も問題はなく、有意義です。

日新高校では、あいさつが大事だということを、ノボリを打ち立てて訴えています。手段が目的化してますね。

返事!あいさつ!声!ダッシュ! 東大阪市立日新高等学校

上の写真のノボリがこの学校の象徴しょうちょうです。このノボリで、この学校のあり方を、推しておして知るべし、です。

幼稚園レベルであれば、こういったノボリは有りかもしれませんが、ここは高等学校なのですよ!

あいさつが大事だとの主張であれば、何故大事なのかを丁寧に説明する必要がありますが、この校長先生は説明しません。「思考を停止して、従えば良い」ということです。

上述したように、高校生は物事を考え始めたばかりですから、考えるネタを未だ十分に持っていないので、思考の素材として模範解答を示すことは必要なのです。それによって、生徒は、説明能力を高めていきます。

説明能力の無い校長の下では、生徒の説明能力も向上しません。


5.トップアスリート連携事業の公式意義

トップアスリート連携事業の公式の意義(教育側ではなく、行政側が作成した文書)は次のとおりです。

市立中学校、日新高等学校の運動部活動指導にトップアスリートを派遣し、高い水準の指導を受けることで生徒のスキルアップに繋げるとともに、合わせて学校教員の長時間労働の軽減を図り、「働き方改革」に繋げていく。また、プロスポーツ選手のセカンドキャリアの確保も目的として実施する。

「第2期東大阪市 まち・ひと・しごと創生総合戦略」(素案)(2021年2月)に記載された「トップアスリート連携事業」の定義

生徒にとって意味があるのは、「高い水準の指導を受けることで生徒のスキルアップに繋げる」です。

そもそも、そのようなことのスキルアップを一部の生徒に施したところで何になるのか、という説明が重要なのです。

しかも、たかだか、スキルアップ(特定の技能にしか通用しない能力の向上)なのです。さらに、しかも、非日常世界のです。
このようなものを実施するのであれば、交通安全講習とか詐欺被害防止の講習の方が有意義です。
高校生に必要なのは、世界や自分への理解の手助けになる、思考の素材なのです

私立学校であれば暗黙の了解があって説明が無いかもしれませんが、公立学校であれば、公共機関は如何にいかにあるべきかという問題意識の下で、説明は必要です。


6.経緯


(1)東大阪市長の選挙公約 - 2019年9月

2019年9月の東大阪市長選挙で野田義和(のだ よしかず)市長が掲げた選挙公約の一部分は次のとおりです。

クラブ活動の指導にトップアスリートを活用(ラグビー・サッカー・野球・バスケットボールなど)

2019年9月の東大阪市長選挙で野田義和市長が掲げた選挙公約の一部

政治家として、選挙公約に挙げたのですから、トップアスリート連携事業は、政治により提起されたと解釈して良いと思われます。


(2)2020年度 試験的実施 - 2020年9月

2020年9月、東大阪市花園ラグビー場の練習グラウンドにおいて、近鉄ライナーズ(当時の名称)のコーチが、日新高校のラグビー部の選手を指導するトップアスリート連携事業が試験的に(予算は無い)行われました。

トップアスリート連携事業(日新高校) YouTube

野田市長が視察に訪れました(下の写真)。

野田市長は視察に訪れた

政治家でもある市長が、教育現場に足を運んだのです。
政治が教育コンテンツ(教育内容)に介入する、という見方もできます。

(3)責任の所在

経緯を見ると、政治・行政の側には、本事業を実施させたい意図はあります。
校長の権限はとても強く、この事業を拒否することはできます。
学校に本事業を導入した責任者は、政治や行政ではなく、校長です。

●本記事に関する証拠などの詳細は次のページに書きましたのでご覧ください。


7.問題点

2021年2月に、トップアスリート連携事業を含めた市の計画に関して、意見募集(パブリックコメント)がありました。

私は、このパブコメにおいて、トップアスリート連携事業に反対する意見を提出しました(2021年3月)。理由は次のとおりです。(原文のままです。なので、一部に、本記事と関係ない記載が含まれてます)

1.市政において、「プロスポーツ選手のセカンドキャリアの確保も目的として実施する」必要性はありません。

2.文化部などの生徒の立場からすれば、公共の予算・教育資源の配賦が不平等であり、教育の機会均等に反しています。

3.本事業は、プロが特定の競技を運動部の生徒に指導するという、教育内容まで規定しています。
  本来ならば、自由度の高い教育資源を各学校に公正に配賦すべきであり、教育内容は校長の裁量で決めるべきです。

4.本事業は、野田市長の選挙公約でした。政治です。
  教育は、政治である市長の意向から独立していなければなりません。
  今後、政治傾向の異なる市長が選挙で選ばれた場合、本事業の継続性に悪影響が出ます。

5.本事業は政治であり、民間の事業者である近鉄ライナーズが関与していることから、本事業を広告として取り扱うことは、公平・中立であるべき公共の事業として望ましくありません。

6.「高校ラグビー全国大会で花園を目指す」という目標は、生徒の身体の発育に最適化していません。
  現実問題として実現が極めて困難であるため、目標として掲げることは不適切です。生徒の立場からみれば、「実現への可能性が低い事業を計画にしても良い」という非合理的な考えを学習してしまうことになります。
  このような目標を、(校長ではなく)教育委員会が設けたり表明したりすることは不適切です。

7.本事業を実施しない中学校の立場からすれば、本事業に係る教育資源の配賦を受けないことになり、実施する中学校と実施しない中学校の間で格差が生じ、不公平です。
  市役所から多くの教育資源の配賦を受けることは、学校にとっては欲するところですが、その教育内容は行政や教育委員会が規定してしまっており、校長に裁量の余地が無いことから、教育制度として不適切です。
  本事業を実施しない中学校にも、実施した場合と同額の、自由に使える予算を配賦すべきです。そうしないと、行政や教育委員会が、学校の教育内容を操作・支配する形になってしまいます。

8.子どもとアスリートでは、体格・体力や、運動をする目的などが大きく異なります。「高い水準」とは、プロ用競技であって、10歳代の子ども用に最適化されていません。
  子どもにとっては、一般的な身体の発育を促す指導が必要なのであって、ラグビーに特化したプロの大人による「高い水準」の指導は必要ではありません。
  正規教員の人数を増やすことや、正規教員の研修機会を増やすなどにより、個々の生徒に応じた適正水準の指導を行うことが適切だと思われます。

9.日新高校では、2020年9月に本事業を試行実施したものの、2021年度の入学志願者数が減少し定員割れをしました。このことを考えると、本事業は、子どもにとって特段の魅力は無く、むしろ逆効果になっている可能性もあると思います。
  高校生になるのですから、ラグビーという非日常の世界に憧れる子どもは減ると思います。子どもであっても、自分の将来について、現実的に考えるものです。「高校ラグビー全国大会で花園を目指す」という目標は、リスクが高すぎるし、意味が無い、ということぐらい子どもでもわかります。

10.運動部だけの施策ですので、働き方改革の恩恵を受ける部活顧問教員に偏りが生じます。
  働き方改革は、正規教員を適正に配置するなど、学校として望ましい体制の構築により実現すべきです。
  本事業は、一部の学生がプロから特定の運動技能の指導を受けるという、特殊な学習形態であるため、この事業の実施が適正な学校運営であるとは言えません。
  ゆえに、本事業の目的に、働き方改革を設定することは不適切です。

11.「東大阪市立学校に係る部活動の方針」(平成31年3月東大阪市教育委員会)には、「校長は、本方針に則り、毎年度、「学校の部活動に係る活動方針」を策定し、学校のHPへの掲載により公表する」とあります。
  部活動は、実施の是非を含め、年度毎に、校長の権限で行うべきであり、行政が定める計画等に基づくべきではありません。
  仮に本事業が計画等に記載されたとしても、それは無効です。無効となる文言を本戦略に盛り込むべきではありません。


8.市からの回答

上記「7.問題点」に対する、市からの回答(2021年4月)は次のとおりでした。

本市の各学校においては、地域の様子や実態等に応じて、地域環境の特徴や特性を生かしながら、地域をはじめ、企業・大学などと連携し、地域の伝統、モノづくりの先端技術や高度な学問に接する取り組みや、国際理解教育を学ぶ取り組みなどを実施し、子どもたちが生きた知識を身につけ、学習に興味を持つ環境づくりを進めています。
また、スポーツのまちづくりには多様な視点があり、様々な主体が連携して取組を進める必要があります。
いただきましたご意見は、今後の施策立案・検討の参考とさせていただきます。

東大阪市からの回答(2021年4月)


9.回答への意見

上記「8.市からの回答」に対する私の意見は次のとおりです。この意見は、市役所には申し入れていません。

(1)回答の前段について

本事業は、「運動部活動指導にトップアスリートを派遣」ということですから、回答に示された「モノづくりの先端技術や高度な学問」など文化会系活動を含みません
なので、「8.市からの回答」は、本事業に関して述べた回答ではなく、私の意見に答えているものではありません。
東大阪市役所では、このように、敢えて、すれ違い答弁をすることによって、空間を言語で埋め、「回答をしちゃってる感」を演出します。

また、地域を重視するとのことですが、地域内でも多様であるため、その中から、1個の部活だけを差別的優遇をすることは、地域の亀裂を顕在化するリスクはあります。

(2)「また」書きについて

●「スポーツのまちづくりには多様な視点があり

まさに、そのとおりであって、多様であるハズなのに、何故、ラグビーにだけ特化しているのかを教えて頂きたい。東大阪市民である、私ですら、わかりません。
そして、その視点には、「スポーツのまちづくり」には反対するという視点もあることを知っておいて頂きたい。


●「様々な主体が連携して取組を進める必要があります」

・「様々な主体」とは、現状では、花園近鉄ライナーズ1個だけです。日新高校では、このライナーズしか存在せず、他の部活には支援が無いという不平等を放置することは、公立学校のあり方として不適当です。

・連携する必要性は、校長が決定すべき事項です。
行政や教育委員会が、一概に「必要があります」などと言うべきではありません。


10.さらなる課題

(1)説明責任の発生

本事業は、今後、中学校に対しても拡張実施されていきます。
本事業は、特定の部活に対して、差別的な優遇をする事業です。

なので、中学校長は「何故その特定の部活を選択したのか」という説明が求められます(本来ならば)。
生徒は、自分が所属する部活を有利にしたいはずです(たぶん)。

頭数あたまかずで決めるなら、野球部でしょう。
政治で決めるなら、ラグビー部でしょう。
どの部活に本事業を適用するのか、中学校長先生は悩みますね。

校則のあり方が問題視されるのと同様に、「何故、それをそうと決めたのか」という決め方や説明が重要なのです。

(2)個人情報保護

部活動をする生徒には、教育上特別の配慮を必要とする者も含まれます。この配慮事項は、教育的見地から、教員は知っておいた方が良いです。

配慮事項に関する個人情報を、業者に提供するのかどうか、という問題が生じます。

業者は、スポーツに関する技巧を教えることが目的なので、生徒の個人情報を教えてもらったとしても、何の役にも立たないかもしれません。

部活動は、正式な公教育の一環として行われます。これは、生徒に関する全人格的成長のために行われます。生徒に関する十分な教育的対応ができない(非日常世界の技巧の向上のみしか教育できない)業者に委託することは不適切です。


11.おわりに

校則のあり方など、教育はいかにあるべきかを、生徒と共に議論することは、教育として意義のあることです。
残念なことに、わが母校・日新高校では、説明を果たす意思は無いようであり、せっかくの教育機会を放棄してしまっています。
ノボリを立てることで社会運動っぽい演出をして同調圧力を加え、考える材料を提供せず思考を停止させ、態度変容を促しています。

生徒としては、「意味不明なまま、従うだけ」です。

東大阪市立の学校は、「ラグビーのまち」「スポーツのまち」の影響により、精神面での自律を阻害しているように感じます。
精神面での自律を促すことに必須なのが、科学的思考や合理的説明です。
教育の場こそ、自律した精神を養う場であって欲しいです。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
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以上 日新高等学校 第53期卒業生より

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