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21. わたしが小説を書き始めた理由は?(前編)


なぜ、小説を書いてみたくなったのだろう。いえ、書いてしまったのだろう。自信などひとかけらもなかったはずなのに……。ふーっとため息をつく時があります。

 ライティングやコピーは、ある程度、経験や訓練で上達できるものかもしれませんが、小説や随筆には、その人の人間が出る。人に魅力かなければ、いくら技術を磨いても、難しいのではないか、と。最近、衝撃的に発見しました。

文章に魅力がある人は、その人間力にも魅力がある。必ずそうです。

 
一昨年の冬のお話しです。

わたしは、東京で就職していた娘のNと、88歳の実家の母、夫とで、新年を祝うために有馬温泉のとあるホテルに一泊しました。

 
4人分の宿泊費用は、少し無理をして、わたしからの奢り。年末年始に、家族が揃って健康で笑顔で会えるというのは、平和と安泰の象徴ですから。その一年を景気よくスタートしたいという思いもあったのでした。

 有馬の温泉は、どっしりとした赤褐色で、塩分や鉄分、硫黄分も豊か。太古の地層に蓄積した海水がエネルギーを含み、高濃度の泉質になって噴出した良泉です。

熱い湯に身を沈めれば、地の底のほうで有馬、宝塚から白浜温泉まで、赤い糸でつながっているマグマの力を感じ、手足が重力からふわっと解放されていくような(塩分のため)、不思議なお湯が特徴なのです。

 

わたしは、宿泊当日は家族と「キャーキャー!」いいながら、二度も有馬の風呂を堪能し、さらに翌朝5時に起きると食事の前に再び、浴場を訪れました。
 

地下2階の露天風呂は誰もいなくて、カエルのようにすぃーっと1本、平泳ぎで、浴場の端から端まで泳ぎ切りました。

で、ふと、顔をあげてみると竹藪の森をバックに、天井と空の隙間から、細かな雪が、わきあがってくるように下から上へ、飛びながら舞っていた。そのさまは幻想的で、夢をみているかのような光景にうつりました。

 

「わーー、これを見られただけで来た甲斐があったわ」、そう思えたほど。しばらくの間じっと風呂の中から雪をみていました。

 

そして。母は郷里に帰り、娘は東京へ。夫は会社へと行き、また一人でポツンとした日常が戻ってきたのです。

 幸いなことに、仕事の依頼は途切れることなくありました。

それで、案件に没頭はしていたのですが、なんだか妙に、あの雪の舞う数分の時間の流れを小説のかたちで、書いてみたらどうなるだろうかと、思ってしまったんですね。「寒い」時の気持ちを書いてみたいと。

 

うまく書けるなどとは思っていなかった。日々のライター仕事でも四苦八苦ですから。小説は読むもので、書くなどおこがましいし、自分には無理だと、ずっとそう思ってきましたから。(書いてみたい憧れはあったのですが)

 

ま、小さな出来心ですね。自分が、書ける人か、全く書けないのか。書いてみたらわかるんじゃないかと。一発やってみようか。と。
プロットも構成もなし、試しにやってみるだけ。そんな感じの、始まり方でした。

 たしか、夜7時半です。仕事机ではなく、ダイニングテーブルの上に「Macbook Air」をパカッと広げて、気負わずに、「Word」の白い画面に、するするっと思いついたままを書いてみた。

 そしたら、まるで水面の中で息を止めていたかのように。活字がさらさらっと自然に書けてしまったのでした。筆(キーボード)が止まったところで時計をみたら、40分経っていました。もう40分も。知らなかった。主人公の女の子が自然に呼吸をはじめてこちらをみていました。続きは? と言っているようでした。書けるかも!

 

顔を上げた瞬間。ちょっと大げさな言い方をするなら、自分のまわりの照明の色が、一段ふわーっと明るくなったみたいで。 
えっ? と思ったら、自分の人生がすごく意味のある良いものにみえて、うるっ、ときてしまった。泣いてしまったんです。自分でもびっくりしました。全くの予想外だったので。

 きっと、誰しも「希望」という光にむかって自分から近づいていけて、しまったなら。そんな高揚感に包まれるんじゃないでしょうか。楽しかったんです。とても。

 

そういえば。ここ最近、原稿を書くペースが落ちていること。根をつめて何度書き直したものでも、いまひとつ仕上がりに満足がいかない。クライアントからの発注も、以前のように「混み混み状態」ではなく、ぽつーんぽつーんと洞窟の水が滴り落ちる程度にやって来るようになっていたのは、本当はとうに気付きはじめていたんです。いつまで書いて生きていけるだろう……。わたし。

以前に比べて、雑誌原稿などにおいても「原稿の勢い」、みたいなものが失われているような気がしていたのでした。

 

凝り固まった自分の概念(壁)や能力を刺激する意味においても、小説は、よい起爆剤になるんじゃないか! 小説を書くことは「良薬」でこそあれ、書いて毒になることなど絶対にない。と思い、そうして書き始めたのでした。

生まれて初めての小説を。

(後編)   つづきは下記を↓クリック!!


 
 

 

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