見出し画像

新卒入社~転職の4年間を、mixiの映画レビューで振り返ってみた

今回は、WOWOWさんの投稿企画「#映画にまつわる思い出 」に乗っかりまして、エッセイを書いてみました!

みなさんは映画、どんなときに観ますか?
わたしは「自分を探しているとき」無性に映画が観たくなります!笑

そして人生でもっとも映画を観ていたのは「新卒入社~転職」の4年間でした。
この頃の映画鑑賞ライフが、生々しく残ってます……。あの“mixi”に!
アラフォー以上しか知らないと思われる懐かしのSNSにつづられた映画レビューをたどりながら、わたしの社会人最初の4年間を振り返ってみます。


☾ ☾ ☾ 

映画を観たら、レビューを書くことにしている。

「脚本が上手すぎる」「あの爆発、あのセクシーシーンは要らんでしょ」「やっぱりこの監督大好き」「あとは演技が……演技さえ良ければ……!」「衣装センス最高~!」「映像美を楽しむに徹そう」「音楽沁みた」……。

映画を観て湧いてきた感動を、吐き出したい。そしてそれを形に残しておいて、後で読み返すのが好きだ。ついでに、その思いに誰かが共感してくれたなら、この上なく幸せだ。

ただ、生来飽き性でめんどくさがりなので、始めてみてはいつの間にか辞め、別の方法でまた始める……を繰り返している。お気に入りのノートにつけてみたり、手帳のログページに書いてみたり。今はX(旧Twitter)に投稿している。

過去最も続いたのは、mixiの「レビュー」という機能に感想を投稿することだった。

noteに「映画にまつわる思い出」という投稿企画があると知って、この頃の映画レビューが無償に読みたくなった。

ログインやらトップページの仕様変更やらに四苦八苦しながら、ようやくたどりついたレビューページには、137件の投稿があった。

1番古いレビューは、2010年1月16日『コーラス』(クリストフ・バラティエ,2004)

社会人デビュー3か月前だ。それから入社までの間、14件の投稿がある。

『スタンド・バイ・ミー』(ロブ・ライナー,1986)、『オリエント急行殺人事件』(シドニー・ルメット,1974)、『ブロークバック・マウンテン』(アン・リー,2005)……。

卒論を提出し、あとは卒業式を待つばかりの自由な時間に、今でも大好きな映画を観ている。ラインナップを観るだけで、日々が充実していたことが分かる。自分の「好き」に忠実だからだ。社会人デビューを前に、とてものびのびとした時間を過ごしていた。
4月から、散々な目に遭い続ける4年間が始まるとも知らずに。

.

入社後、初っ端でつまずいていたことが、映画レビューの投稿頻度から伺える。

2010年3月10日『ジュリア』(フレッド・ジンネマン,1977)のレビューのあと、更新がパタッと止まっているのだ。次の投稿は、2012年1月8日『サンセット大通り』(ビリー・ワイルダー,1950)。約2年も、空いている。

この間、映画を観ていなかったわけではない。
『ソウル・キッチン』(ファティ・アキン,2009)『オーケストラ!』(ラデュ・ミヘイレアニュ,2009)を映画館で観た記憶がある。でも、レビューは残っていない。
社会人1年目は初めてのことばかりで、めまぐるしかった。2年目の終わりには震災があった。だから、たとえ映画を観たとしても、レビューを書くほどの余裕はなかったんだろうと思う。

新卒で入った会社は正直、嫌で嫌で仕方がなかった。

お酒とごはんを楽しむ時間が好きだったから、酒造メーカーを選んだ。
人事の仕事を希望していたが、営業配属になった。新人はまず現場を経験しろと言われたけれど、営業企画部配属の同期もいた。いまでもこのダブルスタンダードには、全然納得していない。

親族ほとんどが公務員だったし、バイトでも商売経験ゼロだったので、「モノを売る」感覚がまるで分からなかった。おまけに、人見知りで内弁慶。知らない人とのコミュニケーションもド下手。口調も、主張も、クセも、顔の圧も、色んなものが「強い」同僚や取引先に丸め込まれてばかりだった。

酒類業界の仕事柄、毎日のように上司や同僚、得意先と飲みに行った。そこで様々な「泥酔」した人に出会った。酔って自制心を失う姿は、とても見ていられなかった。殴り合いの喧嘩をする。当たり前のようにセクハラを働く。真冬の夜にゴミ捨て場にぶっ倒れ、頭を何針も縫う。自身を制御できなくなった醜い姿を見て、衝撃を受けた。

それでも毎日のように飲みに行かなきゃいけない。それが仕事の要だったから。
体はぶくぶく太っていくし、年々、内臓の数値は悪くなった。今より10キロ太っていた。わたしもいつか、自分が醜いことに気付かない輩になってしまうのかと思うと、恐ろしかった。

.

恋をしても、散々だった。
入社前の2010年1月22日、付き合いたての彼氏と『のだめカンタービレ最終楽章前編』(武内英樹,2009)を観に行った。レビューは異常なほど浮かれたテンションで書かれているが、その彼氏とは入社2週間後に別れた。近くに慰めてくれる人は誰もいなかった。大して仲良くもない同期に、散々からかわれた。ボロボロの状態で新入社員研修を受けた。

配属先で、隣の課の先輩を好きになった。が、その先輩は彼の同期のA先輩と付き合っていた。A先輩は、わたしに一番良くしてくれた人で、一番信頼している人だった。入社半年で、二度目の失恋をした。
1年半後、他支店から異動してきた先輩を好きになった。が、その先輩はいつのまにか、A先輩と付き合っていた。2人は結婚することになり、A先輩は寿退社した。

入社してから二度、人を好きになったが、その二人とも、A先輩のことが好きだった。なんなら、わたしだって好きだった。でもわたしはずっと、わたしが好きになった人たちの環の外にいた。

2013年03月18日『エターナル・サンシャイン』(ミシェル・ゴンドリー,2004)のレビューには、こう書いてある。

(仕事しながらだったから?)感情移入があんまりできずじまいでした。
好きっていう感情は一筋縄じゃいかないんですよねえ。

仕事も恋も上手くいっていないくせに、何を分かったようなことを、と今では笑ってしまう。でも、当時のわたしは、こうやって強がって、自分を奮い立たせていた。

毎日のように、辞めたい、と思っていた。

.

2012年、レビューの投稿が再開してからは、月に3~5本のペースで更新がある。入社して3年目。仕事には慣れてきたけれど、相変わらず毎日苦しいこと続きだった。何より辛かったのは、心が通う人に出会えなかったことだった。

取引先にめちゃくちゃ苦手な人がいた。
彼もわたしも、仕事は一生懸命やっている。悪い人じゃない、とお互い思っている。しかし、価値観がちっとも合わなかった。あからさまに嫌われていたし、わたしもその人のことが嫌いだった。

彼も参加する大勢の飲み会の場で、『おおかみこどもの雨と雪』(細田守,2012)の話になったことがある。彼は、「とてもよかった。主人公の花が可愛かった」と言っていた。わたしの感想は、2012年08月17日の投稿によると、こうだ。

二人を見守り続けてきた母・花は子の巣立ちを経験します。この花の一途でけなげな愛に感動!・・・・と言えれば心から大好きな映画だったのですが、あまりの理想の母、女性ぶりに若干たじろいでしまいました。あれはやりすぎだ。むしろ怖い

気が合うわけがない。

その人とうまくいくかどうかは、映画の好みを知れば、大体分かると思っている。

2013年08月17日『風立ちぬ』(宮崎駿,2013)のレビューが投稿されている。一緒に観に行ったのは、同年代の同僚たちだった。わたしはこの映画が初見から大好きだったが、残念ながら、共感してもらえなかった。みんな、主人公・二郎の妹・加代がうるさくて嫌いだと言っていた。医者を目指して努力をし、義姉の菜穂子の身体や健気さを思いやって泣く彼女が、わたしは好きだ。

映画を観て、自分の境遇や感情を重ねる。そのとき生まれた想いに共感しあえる相手とは、心が通じ合う気がする。新卒からの4年間、そういう人に出会うことはできなかった。

.

『風立ちぬ』のレビュー投稿のあと、約半年、またもや更新が途絶えている。転職活動をしていたからだ。母校である大学の職員になるべく、エントリーシートを書き、筆記試験の勉強をし、面接試験の準備をしていた。

夏の暑いころ、出張先のホテルの風呂で、参考書を読んでいた。うっかり寝てしまい、湯船に落とした参考書はびっちょびちょになった。
10月の筆記試験後、選考通過の連絡があったときは、営業車の中で大泣きした。夜は一人で飲んだ。もちろん、経費を使って得意先で、だ。肴は若鶏の丸揚げだった。
最終面接にも、実は営業車で行った。大学近くの取引先に、半ば無理矢理商談を入れ、半休を取って面接に臨んだ。10年前なので、時効ということで許してほしい。

12月、年明けの異動の発表があった。予期せず、わたしにも辞令が出た。入社当初に希望した人事部への異動だった。内定通知書を見せながら、退職を申し出た。
「もし人事部で働いていたら、辞めなかったか?」
人事部長にそう聞かれて、「分かりません」と答えた。辞めたかどうかはともかく、まったく違う人生になっていたのは間違いない。

2014年1月、わたしは会社を辞めた。
4月、大学職員になって最初に配属されたのは、人事課・職員採用担当だった。

.

入社前の、2010年03月01日『グッド・ウィル・ハンティング』(ガス・ヴァン・サント,1997)のレビューには、こう書いてある。

「他人に捨てられるのが怖いから、関わる前から遠ざける」
「何がしたいか、それが言えない」
「要するにガキなんだよ」

自分に言われてるような気がして、
もっと最初の一歩を大事することを
改めて心がけようと思いました。

わたしは新卒からの4年間、向いていない営業職に就いて失敗続きだった。酒類業界の働き方も合っていなかった。恋をしても破れてばかりだった。

どうにも上手くいかなかった理由はたぶん、自分が「何をしたいか」をちゃんと考えていなかったからだと思う。

何かが好きだからと言って、それを扱う会社に入れば上手くいくわけではない。自分にはどんなことが出来るのか、自分がどんな人間なのか、勇気と誠意をもって伝えられなければ、自分らしくいられる場所や人とは、出会えない。

傷つくのを恐れて、行動しない。
自分の思いや考えを、自分できちんと語れない。

そんな「要するにガキ」な部分が、わたしの中にはあった。映画を観て「心がけよう」と思ったからといって、実践するのは難しい。

「心がけ」は4年越しでようやく実践された。4年間、身をもって失敗し、もがいてようやく、「ガキ」を脱するとはどういうことか、分かった気がする。
異動を待つのではなく、転職という行動を通して人事職にたどり着いた。選考に落ちて拒否されるの恐れて「関わる前から遠ざける」のではなく、全力を尽くして真正面から挑み、自分の望む仕事に就いた。この経験は、確かにわたしを、ガキからオトナにした。

「最初の一歩を大事にする」。
一歩を踏み出したウィルに感動したあのときのわたしに、わたしは心から共感している。

映画に心を動かされたとき、その気持ちを一番よく分かってくれるのは自分自身だ。なぜ心が動いたのか。そのワケを一番知っているのは自分だ。

花の描き方に怖さを持ったことも、加代を好きだと感じたことも。ほかの誰もが共感してくれなくても、自分だけは、その気持ちを分かってやれる。

どんなことが大切で、何が好きで、誰と一緒に、どう生きていきたいのか。
映画を観ると、自分の本音や本性に、少し近づける気がする。そうしてうっすら見えた本来の姿で生きるために、最初の一歩を踏み出していく。

わたしは、自分のことを自分の言葉で語り、行動できる人でありたいし、わたしの一番の共感者でありたい。そのために、これからもきっと映画を観続け、そのときの心の動きを言葉にし続けていく。


この記事が参加している募集

転職してよかったこと

転職体験記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?