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藤井風「旅路」MVで「抜いた」もの

「肩の力を抜くタイミングのMVにしたい」

「駆け出しの映像監督、19歳の山田健人くん」(藤井風公式アプリより)こと、山田健人監督に依頼された藤井風の「旅路」MVが先日、公開された。

制作過程は河津マネージャーが公式アプリのダイアリーに記した通り。撮影クルーは最小限で、アシスタントはエリザベス宮地氏1人。監督自らが8ミリカメラを回すスタイルだ。

まるで年月を重ねたかのような映像の中で、藤井風はこれまでとは打って変わって自然体に見える。既に発表されているMVに見られるような憑依型の演技ではない。あくまで「肩の力を抜いて」リラックスした表情が光る。


「力を抜く」こと

だが、「肩の力を抜く」というのは、実は簡単ではない。自然体に見えるようになるには、それ相応の下地が必要なのだ。楽器演奏や武道などのスポーツ、いわゆる「基本型」を習得するような習い事に触れたことがある人はわかるだろう。

例えば、ピアノであれば「肩の力を抜いて自然に」演奏しているように見えるのは上級者だ。

藤井風はどんなフレーズもさらりと弾いているように見える。ところが、これが実に複雑で難易度の高い動きをしているのだ。和音をテンポよく刻み、よどみなくスケール(音階)を弾くには肩や腕、指の筋肉がほどよくリラックスしていなければならない。初学者ほど余分な力が入るもの。ミスタッチを呼び、つまずいてしまう原因は「脱力できていない」ことにある。

つまり「脱力」=「肩の力を抜く」ことは、実はとても難易度が高く、高度な技術なのだ。

山田健人監督の妙技

MVを撮影・監督した山田健人監督にも同じことが言える。

8ミリカメラを使い、アシスタント1名という最少人数で行った撮影は、とても「肩の力が抜けて」見える。河津マネージャーが公式アプリで書いていた「駆け出しの」「19歳の山田健人くん」の視線で見た「自然体」の藤井風が微笑んでいるのだ。

しかし、絶妙なカメラワークといい、撮影のためのロケーション選定や光のアングルは決して「19歳」ではない。藤井風のリラックスした表情を引き出すために、19歳の視点とは正反対のプロフェッショナルの観点で撮影、編集されている。それができるのは、デビュー当初から藤井風を撮り続けてきた山田健人監督だからこそだろう。

個人的には「変幻自在な藤井風の魅力」を一番引き出せるのは山田健人監督だと感じている。特に「へでもねーよ」の世界観や、武道館での演出は素晴らしかった。「旅路」はこれまでのMVとは少し趣向は異なる。だが、光の中にもかすかな影を感じさせるところは、いつも通り健在だ。

山田監督の経歴を見る限り、昭和テイストに懐かしさを感じる世代ではなく地方出身者でもない。都会育ちで中学受験組、体育会系アメフト出身とあれば、コンビニ前でタバコをくわえ語らう田舎のヤンキーとは、ほど遠い19歳だったはずだ。

スクリーンショット (176)

引用元:Wikipedia


それでも彼の撮った「旅路」MVの映像は、同じように都会育ちで地方の風景を知らない人でさえも、ノスタルジックで感傷的な気分にさせてしまう。「懐かしさ」「郷愁」は藤井風の音楽を語るうえでも不可欠な要素。狙ったところにピンポイントでハマる仕上がりなのは、昭和生まれの河津マネージャーのアドバイスもあるのだろうか。

「藤井風ムーブメント」の仕掛け人 河津マネージャー

「旅路」MVでは河津マネージャーの関わり方にも注目したい。

彼は「藤井風公式アプリダイアリー」で、岡山ファイナル公演のあと、山田監督とじっくり話す機会があったと記している。それは「生い立ちから今に至るまで、東京の打ち合わせでは話さないような色々な話」とある。そして「この日から『旅路』MV制作は始まっていたのかもしれません」とも。

MVのコンセプトや具体的な方向性を決めるにあたり、当然、藤井風を含めて意見のすり合わせはしただろう。だがそれに加えて、山田監督と単なる打ち合わせ以上に語り合える河津マネージャーの存在は大きい。

いずれにしても河津氏は、藤井風を語る上で欠かせない存在になってきたようだ。彼をはじめとするスタッフのプロモーション戦略はもちろん、藤井風の紡ぎだす作品のクオリティの高さには、いつもうならされる。

彼らが巻き起こす「藤井風ムーブメント」の向かう先は?今後もますます目が離せそうもない。


藤井風さんのこと、いろいろ書いてます。


画像引用元:藤井風公式YouTube



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