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真実は、いつもひとつではない
今日は、ある名探偵の決め台詞に異を唱えてみましょう。
事実と真実の違い
真実こそ、星の数ほどあり、いつも一つなのは事実ではないでしょうか。ふたつは日本語の語感が似ているので混同しがちですが、英語にしてみると明らかです。事実(fact)と真実(truth)は全く違います。
事実とは、現象です。そこで起こっていること、起こったことそのもの。たとえば、
車を運転中に、隣のレーンを猛スピードで走り抜け、自分の前に割り込んできた車があった。
このような事態を目撃したら、それは事実ですね。そして、ここからあなたはこの事実に対して解釈を行います。What IS going on??
あっぶねえな全く何考えてやがんだ こんにゃろめ
クラクションのひとつも鳴らすかもしれません。この時、あなたにとっての真実は、危険で不注意なドライバーが自分の前に強引に割り込んできた、とでもなるでしょうか。
真実は、事実である必要はない
やがて、割り込まれた直後に高ぶった気持ちが収まってきて、車間を取ってこう考えます。
いや、もしかしたらあの車は大けがをした子供を乗せてパニックになっている母親が乗っているのかもしれない。きっとそうだ。
こう考えたときに、あなたの中で真実が書き換わります。
ここでのポイントは、本当にパニックになった母親が子供を運んでいるかどうか、は問題ではないということです。なぜなら、今問題にしているのは真実であって事実ではないから。車が割り込んできた、までが事実で、それをどう解釈するかはあなた次第です。
もちろん、目の前の車に怒り続けて、車間を詰め、クラクションを鳴らし、あおり運転をするのもあなたの自由ですが、あおり運転は犯罪なので、怒りのあまり、後ろにパトカーがいることに気が付かずにそんなことをしたら、あなたのほうが取り締まられてしまいます。いくら相手が割り込んできたんだ、と言ったところで後の祭りでしょう。
真実(解釈)を選び取ることの効用
このように事実を想像力を駆使して相対化し、様々な可能性から自分で能動的にひとつの解釈を選び取ることで、心の平穏を保つことができます。
もちろん、緊急事態のように事実に基づく判断が必要な場面で、自分に都合の良い真実を選び取ってしまうことの弊害はありますし、私だってそんなに人間ができているわけではないので、割り込まれたら最初はむっとするはずですけどね。
それでも、少なくとも真実が一つではないことを知っていれば、心の真ん中に戻ってくることができます。
一人一人がいつでも自分の心の真ん中に戻ってくることに長けていれば、普段の生活のストレスは、だいぶ軽減できるでしょう。また、近頃のSNSの問題は、一度人々の心に火が付くと、すべてを燃やし尽くすまでみんな戻ってこないことではないでしょうか。
ゆらゆらと揺れる心を、真ん中に戻す意思をもつことと、その技術を知っていること。この辺は禅に通じるところですが、その話はまた今度。
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