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メイドインアビスと障害者と福祉

可愛い見た目のキャラクターに反して、随分と過酷な冒険譚を描く作品。

アニメの作品シーズン2の11話まで見たのだが、今自分が直面してたり、考えている問題に対して思うことがあったので書き出そうと思う。

メイドインアビスは巨大な穴の奥底を暴きたい探検家の無力な少女と、穴の中からやって来た過去のオーバーテクノロジーで生まれたロボットとの冒険譚だ。
穴の中は危険が沢山あり、深くなればなるほど過酷になる。
特筆すべきは、深く進むだけなら問題のない穴の重力(力場と呼ばれている)が、少しでも上に向かって動くと身体を容易に壊す重力がかかっているという設定だ。

これは人間の形では帰れない旅である事を表現するに相応しい。
そう。人間の形ではだ。


主人公達は深く潜り続けた先に、異形の者と出会う。「成り果て」と呼ばれるもの達だ。
彼らはあまりに深く潜り過ぎたため、人間の形では居られなくなったのだという。
また、人間性も失う。基本的には。


人間性を失ったと言われる成れ果て達は、私には身体障害と知的障害を持ち合わせた者に見えた。
ミーティという心身障害者の介護を行う、うさぎの介護者ナナチ。
彼女は障害者のミーティを残して死ねないと言う。ミーティは不死の祝福という呪いを受けた者で、それは結果的に私が彼女にかけてしまった呪いだと言う。
その不死の呪いでもロボットのビームには負けると知っていて、是非弔ってやりたいと言う。

そして彼女は心身障害者のミーティを不死の呪いから解放し、弔ってやれたのだ。

彼女の行為は現代の問題の解決策の1つだ。
苦しみながら生きるのか?本人の幸せとは死ではないのか?本当にこのまま生かすべきなのだろうか?


私の祖母は90幾つになった。
そして認知症になった。
母が義理の母である祖母の介護の為、仕事を辞め、ほとんどつききっきりで介護をしていた。
最近施設に入れられたと聞いた。

夏に祖母を訪ねた時、何度も「わしは死ぬ。」と連呼しながら、好きな食べ物だけ食べていた。
母は介護の辛さから、ずっと苛立っていた。
父はただ祖母の事をひたすら庇ったし、私に和解を求めた。無理だったが。

ただ私が思うのは、認知症になって不可逆的に人間性を失って、更に母に負担を強いてまで、生き続ける事があるのかという事だ。
私はまだ話の出来た祖母の姿で終わらせたかった。
私は死は生きる事だと考えている。

自死は悪と云う。それは不都合だから以外の何の理由があるのか。
本人以外の不都合が、本人の意思の自死を何故止め得るのか。

両親が子の始末をする、子が両親の介錯をする事件が後を絶たない。
核家族化して自由と需要を手に入れて、豊かになったかと思われたが、ただ単に寄る辺のない独り者を沢山生み出しただけでなく、全ての支えを相対的に失った。
だから自分で何とかしろ、何とかしろと、臭いものに蓋をした。


メイドインアビスは死を尊ぶ、そして生を尊ぶ。
沢山の人々を最後は悔いのないように。
生きる苦痛を、失われる自我を、止められるのは自分ではできない。
それが自由に選べる世界を私は望む。


第二部のメイドインアビスでは最初の冒険家たちが、深い穴の中で独自に国を作った。
そこでは原生生物でいくつもの犠牲を出しなら生きていけると思われたが、飲料にしていた水に原生生物が入っており、次々と人が瀕死になっていく。
その時、何の願いも叶えるという卵が幼い子に託された。
その子は不妊であることから、性的被害を何度も受け、最後に穴の生贄とされた人物であった。
彼女は子供を望んだ。一日も持たない命の子供を。
その子供を食べると、その飲料水にあった生物の毒を取り除いた。
人々は息を吹き返すのだが、元々人間であった、少女で無垢であった彼女の面影を知っているだけに、あまりにも残酷だと気が狂う者もいた。
そして子供を産み続ける彼女はどんどんと大きくなり、ついには体の中に世界を作った。
その中に冒険家達は魅かれるように入っていったのである。
彼ら冒険家達はその中で守られながら生きたのだ。

そして或る日、願いを叶える卵が割れて最後の子供が生み出された。
彼女は母の開放を。そして母を食った村人達を全滅させて、この世界をやり直すことを願って生まれたのだ。

彼女は母の開放を望んだ。
私の兄弟である赤子を奪って、殺して、食った村の人々を絶対に許さないと。
そして暴れるのだが、過去の記憶を香りに乗せれる人物がおり、その人物から過去の母の姿を見せられるのだ。
そして心は何が正解なのかと足搔く。

村民たちは実はこの世界の存続を望んでいるのではなくて、この最後の子が幸せに新しい世界に挑めるよう望んでいるんだ。

母の世界は崩壊した。
全てを終わらせた。
だから最後の子、あなたが新しい世界に挑めるように。
彼らに託されそうな。

それは先ほどの不死の呪いのミーティに似ている。
これは母の意思を継いで、母を崩壊させてほしい。
母に眠りをと望んだ、最後の娘が完全に母を崩壊させた。
母はどんな姿でも喜んでいるよ。そしてやっと安息日を迎えるのだ。
それと同時に最後の子へ新たな世界へ送り出し、幸福を願うのだ。

ああ、こんな福祉になることが人間にとってとても尊重すべき死なのではないだろうか。


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