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小説もどき

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大学生の時から文章書くのが好きで、小説のようなものも書いていました。ので、それをぽつぽつ上げます。
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5年前の私小説

5年前の私小説

昨日何となく2年前のこのツイートを思い出してリツイートしてみたんですが、実はこの日のことに関して書いたブログがあり(今はもう公開されていません)それを少し編集してこちらに載せてみます。
※まだ今ほど中目黒が桜の名所として有名になっていない、「インスタ映え」という言葉もなった今から5年も前の話です。

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『桜の夜に』

三月中に桜が咲くなんて、不自然極まりない。私が住んでいた頃の新潟は

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夏に始まる恋は夏に終わるのか

夏に始まる恋は夏に終わるのか

「帰るの?泊っていけばいいじゃん」

何てことを言っているのだろう。何て露骨で、何て情けないことを。

プライドを捨てきれない私が関係性を定義できない相手にアルコールの力を借りてできるせめてもの引き止めだったが、叶うことはなく男は帰って行った。何となくこうなることは分かっていて、いい加減諦めたくて最初で最後の勝負として引き止めてみたのかもしれない。
この歳になると自分の中でいくつかの答えを用意して

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「手乗り文鳥の話ってしたっけ?」

「手乗り文鳥の話ってしたっけ?」

「手乗り文鳥の話ってしたっけ」

萎びたアパートの居間で、既に何本目かわからない発泡酒を開けた母がまた話し出した。

私は普段東京で飲みすぎている分、帰省した時はほとんど酒を飲まないようにしている。

実家と呼ぶべき家は母の姉夫婦と祖母が住んでおり、母は今1人でアパートに住んでいる。父親はどうしているかも知らない。私は東京からたまにしか帰らず、一言で言うと一家離散している。

化粧を落とした母は歳

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何も生まれない街

何も生まれない街

「六本木なんて何も生まれない街だから」

元々の顔つきがそう見せるだけというのもあるが、ニコニコと楽しそうに話す男はそう言った。

「ホントね。本当に、マジで、何も生まれない」

前職の男たちは六本木が大好きだった。ただ金を落とすためだけに行く街のように見えた。
六本木での飲み会に一度だけ参加したらさんざ腰に手を回され不味い酒を飲まされ飲め歌えという指示に従って、後日お前は営業だからと他の女性とは

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平成最後の夏の私小説

あったのかどうか定かではない程の梅雨が開けたと宣言されたかと思えば、急に容赦なく33度になるまで照らされた新宿のライブハウスで出番が終わった私は早く帰りたい気持ちを必死に抑えていた。

私の後に出てきたX JAPANのコピーバンドは確かに全く趣味ではないが理由はそこではない。東京に来てからずっと患っているアトピーも努力の甲斐あってここ数ヶ月はかなり落ち着いていたのに今日はとにかく抜群に調子が悪く、

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甲州街道

甲州街道

「ねぇ。妄想って亡き女を想う、って書くじゃん。
じゃあ女が亡き男を想う時は何て言葉をつかえばいいんだろう。
好き、だってそう。女子って書くんだよ。何て男目線なんだろう」

「うーん、まぁ、確かに」 

いつも通り大学の真ん前に真っ直ぐ伸びている甲州街道沿いを歩く。
いつもと違うのは隣に誰かがいること。

おれの出不精、メール不精、電話不精に耐えられなくなった二こ下の彼女に去られてから、
気付いたら

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