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事業成長の原動力となる採用力10訓

ビジョンを掲げて外部資本を受け入れた企業は市場から評価される付加価値(サービス)を継続的に提供することで存続していくゴーイングコンサーンが前提となります。
その経営の船旅では、4大経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報の中で、唯一の可変資本であるヒトが最重要
サービスやプロダクトを考えるのも人、作り込むのも人、顧客接点を持つのも人、全てのオペレーションを回すのも人、そして組織の勢いを作るのも人、と人が競合にも勝る差別化要因となるのではないでしょうか。
ビジョナリーカンパニーの中では、最高の人材がいなければ最高のビジョンに意味はないと、誰をバスに乗せるかの観点の重要性が説かれています。

映画『マネーボール』の題材となったオークランド・アスレチックスでは、メジャーリーグ名GMビリー・ビーン氏が、低予算の条件下でスカウトの主観ではなくセイバーメトリクスと呼ばれる統計学的手法を用いる独自の選手評価システムによって従前の優秀な選手の定義を変えて、採用を変えたことによって常連チームを作り上げたとされています。
つまり、採用次第で組織パフォーマンスが大きく変わる。

※筆者作成

しかしながら、ウォーフォータレントの時代。
優秀な人ほど採用難易度が高く、工夫が必要です。

そこで、事業成長の原動力となる採用力の10の構成要素を整理します。

1.魅力

check)他社優位に立つため、他社にはない魅力を磨けるか?

成長企業は市場全体が伸びていることが前提となるため、近しいビジネスモデルの採用競合の存在を意識しなければなりません。
例えば、SaaSではエンタープライズセールス、ピープルマネジメント、プロダクトマネジメント、エンジニアリングスキルなどが重宝される需要に対して、労働市場に相当のスキルを有している人材が限られています。
候補者と企業側では情報の非対称性があり、どんなに自社に自信があったとしても、他社ではなく自社を選ぶ魅力を確立することが重要です。

例)顧客チャネルにこだわっていることで、他社と比較してやりがいのある仕事がしやすい。

2.インセンティブ

check)候補者を惹きつけるため、インセンティブを用意できるか?

人が自らの人生の時間を投じることを検討する上では、参画前ではどうしても見えていないことへの不安が伴うため、それを上回るインセンティブを用意できるかが重要です。
候補者の志向性に応じて、下記のインセンティブの中で自組織は何を提示できるかを整理することが勝負になるでしょう。

1)物質的インセンティブ:金銭や物品など
2)評価的インセンティブ:評価や賞賛など
3)人的インセンティブ:良好な人間関係や学べる人の存在など
4)理念的インセンティブ:ビジョン共感や価値観一致など
5)自己実現的インセンティブ:やりがい、成長実感など


例)一定基準の成果を出すことで打席に立つ機会を他社よりも早く多く得られる。

3.評判

check)選考外の情報で意欲を低下させないため、既存/退職メンバー、取引先などその他から評判が良いか?

SNSを始め、OpenWorkなどの口コミサービスが検討材料として活用されていく流れで、周囲の印象によって形成されるコーポレートブランドは知らぬ間に致命的に機会損失になりかねません。
公明正大なビジネス運営ができてきるか、また心情を悪くしないようにコミュニケーションを丁寧にできているかは採用成功の分岐の一つとなるのではないでしょうか。

例)何となく疲弊感ばかりが積もり、友人にお勧めしたいと思えない。

4.コンテンツ

check)非接触時間も検討候補としての優先度を高めるため、検討材料となるコンテンツがあるか?

さまざまな情報に溢れ、検討候補となる採用競合が急浮上しやすくなろうとも、自社をより深く知りたいと思えるコンテンツを有していれば安心です。
人には感情があり、合理的に意思決定するとは限らないため、惹きつけることが重要なのです。
また、人は時間をかけたことほど執着心が芽生えるコンコルド効果が作用するため、直接的/間接的に接触時間が多いことは有利に働きます。

例)自社の事業価値が伝わる導入事例や社員インタビューがYouTubeに掲載されていて、いつでも視聴できる。

5.手札

check)候補者の特性に応じたアプローチのため、面談可能者の手札を持てているか?

人は第一印象でその後の情報の入り方が偏る確証バイアスが生じるため、初回接点の優劣が採用競争の王手になります。
事前に候補者がどんな性格、思考、価値観なのか特性を仮説立て、入念にトークテーマを構想し初回接点で最適な面談者を当てられるかが分岐点であり、人と人には相性があるため、面談対応者を複数パターン持っているかで採用力が変わります。
そして、接点を重ねる度に得た情報に活かして、アトラクトしたいこと、見極めたいことに合わせて面談者アサインの最適解を模索できるかで採用の成功確率は変わるでしょう。
多くの企業では、経営トップのカリスマ性に依存し、組織拡大に応じで面談可能者が増えずに採用リソースが逼迫する課題があり、早期に面談可能者を育成していくことが有効となります。

例)外資出身で自信満々だがやりがいを得られていない青い炎タイプには、具体的な仕事の意義を訴求できるエピソードを持っている強気な論理武装タイプを面談対応者として当てる。

6.流入経路

check)採用機会を増やすため、ターゲットとなる候補者により多くアプローチする流入経路を持っているか?

転職の敷居が下がっている労働市場においては、転職潜在層は多くいます。
そのニーズに合わせて転職サイトのみならず人的ネットワークを広げるSNSツールも増えており、さまざまな流入経路を確保して、いかに早く他社よりも候補者にアプローチできるかで優位性が変わります。
外部パートナーの活用も自社のラッピングを変えた異なるアプローチ手段となるため、有効な母集団形成の一手となるでしょう。

例)自社の成長性に関するプレスリリースを頻繁に出すことで挑戦心の高い優秀層の関心を惹きつけられ、きっかけさえあれば話を聞きたい状態を作れている。

7.選別

check)採用機会を失わないため、後天的なスキルより先天的な素質で見極められるか?

経営目標と戦略に対する機能補完のために採用をするとの目的に立ち返ると、採用は合理的な意思決定によって行われるべきものです。
しかしながら、人には一部の印象によって他の評価もバイアスがかかるとのハロー効果が生じます。
加えて、本来は社交性や知的好奇心、貢献心といった性質の分かれる先天的に近い要素を採用段階で見極めることがミスマッチ防止に繋がるはずが、コミュニケーション力や知識、ロジカルシンキングといった入社後にも育成できる後天的なスキルの方がハロー効果が生じやすいことに注意が必要です。

例)「前職が〇〇だから営業力が高いだろう」とハロー効果が生じないように面接で見極める質問項目を一定型化する。

8.効率性

check)採用リソースの投下を集中させるため、ターゲット以外の候補者をスクリーニングできるか?

母集団形成では、より多く候補者にアプローチしようとするほど、自社のターゲット以外の流入も増えていくことに対策しなければ、採用活動に必要以上にリソースが投下されてしまうことに注意が必要です。
選考過程では、アトラクトと見極めのどちらでもエースを投入した方が効果的だからこそ、必要以上にリソースを投下すると事業活動に影響が出てしまいます。
そのため、自社のターゲットを明確にして、ターゲットを惹きつけ、ターゲット外がスクリニーングされていく工夫をしなければなりません。

例)自社のハイパフォーマーの共通項はリーダーシップの高さであることを抽出し、リーダーシップの高い人を惹きつけられるように年次年齢に囚われない抜擢事例をPRする。

9.演出

check)意向度を高め続けるため、候補者体験の設計や選考情報の連携を工夫できているか?

一回の面談が1時間だとしても、1人の候補者と接触できる時間はほんの数時間程度。
その数時間で企業側は入試後のパフォーマンスを想定して見極める必要があり、候補者に自らの人生の時間を投じたいと思ってもらえるような体験設計ができるかが重要です。
そのためには、どんなに忙しくとも面接対応者間で次にどうするのか?各進捗に対して作戦会議をしていくことで他社との採用競争の勝負となるでしょう。

例)質問に出しづらい細かな懸念点を読み取り、適切なタイミングで自社理解を深められるよう解説する。

10.期待調整

check)ミスマッチを防止して活躍させるため、正しく自社の現状と未来像を伝えられているか?

採用をゴールとするか、入社後の活躍をゴールとするかで選考過程のアプローチが変わります。
組織は人の集合体である以上、ネガティブな主観的意見の方が伝播しやすく、ミスマッチの損失は1人分では済まないことに注意しなければなりません。
そのため、とにかく採用をするためにアトラクトばかりをするのではなく、正しく自社の現状と未来像を伝えることが事業成長のために必要であり、候補者の人生を左右する上で肝に銘じなければならないことです。

例)将来的には新規事業をガンガン立ち上げていきたいが、今の市場の認知度では地道なリード獲得の重要度が高いことを伝える。

※他に、組織論に関する推薦書籍をまとめた記事、組織論とケースを考察したマガジンを執筆していますので、ご関心をお持ちいただいた方はぜひご覧いただけると幸いです!

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