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War for Talent 人的資本の希少性に立ち向かうための組織戦略

2000年初頭、マッキンゼーはWar for Talent と題する人財の希少性への適応に警鐘を鳴らした人材獲得・育成競争に関する書籍を発刊されました。

その内容は、20年以上経った今でも、労働生産人口の減少、DX時代の産業構造の変化に伴うスキルの多様化の影響を受ける日本の労働市場においては有効的で、組織戦略を考える上でのバイブルとしておすすめです。

事業運営における業績向上には、絵に描いた餅にならないよう戦略を実行できる人が不可欠。
特に経営と現場の結節点として、人の力を結集する高度なスキルが求められるマネジメント人材をどれだけ有しているかで、戦略実行力が変わるため、同業他社に対する競争力となります。

そして、生成AIを筆頭した急激な市場環境変化の中では、従来のようにできあがった仕組みを効率的に回すことができるスキルよりも、収益を生み出すメカニズムの設計をしたり、新たな市場や需要を喚起したり、何かを仕掛けて作り出していけるスキルの方が重要度が増しています。
加えて、ルールが変わる中でもリスクマネジメントのために必要な視点をキャッチアップして対処できるように社内に慢心することなく、常に市場に接続した姿勢も重要です。

このように、高度なスキルを有する人材を採用、育成することが必要になることから、人的資本の希少性に立ち向かうための組織戦略を描いている企業と、そうではない企業での成長率に歴然たる差が生まれています。

今回は事業成長を追求するためのWar for Talentの要諦をまとめてみました。


① 独自のEVP(従業員価値提供)

優秀な人ほど希少資源であり、需給の観点で選べる側の立場にあることに注意が必要です。
他社ではなく自社で働くことでしか得られない効果的なEVP(Employee Value Proposition)を提示できなければ、採用においても苦戦して、さらには手塩をかけて育成したエース社員が他社に奪われてしまうことがあります。
War for Talentの中では、マネジメント人財の多くが潜在的な求職者となるとの厳しい現実への直視を警鐘されています。

< Check >
Q.他社にはない自社の魅力は何か?
Q.自社にコミットメントする人財は何に惹かれているのか?
Q.自社に必要なターゲットの関心は何か?

②マネジメント育成計画

War for Talentではマネジメントには下記のような高度なスキルが挙げられ、画一的に育成はできないことから、実績とポテンシャルを測った選択と集中が必要とされています。

<マネジメントに必要なスキル>
1)既成概念に縛られず、リスクとリターンを独自に定量·定性の両面で把握でき、さらに戦略的思考に基づいて事業の設計や運営ができる。
2)市場に通用する経営手法を理解し、同時に異なる文化的·社会的背景に基づく考えにも耳を傾けるキャパシティと、自分の意見を明確に伝達できるコミュニケーション能力を持つ。
3)有能な人材を引きつけ、持てる能力を最大限発揮させられるような指導力·人格を持つ。


人格的要素を含み、相当のターニングポイントを経験させるために時間がかかり、仕組みで自然と育つものではなく、対話によって思考と思想を磨いていくことが必要になります。
そのため、自社の事業計画上、いつまでにどのようなタイプのマネジメント人財が必要になるか、要件と数、候補者を明確にし、その需要を満たすために必要な育成のアクションプランを運用しなければなりません。

また、ステップアップのために上の思考と思想を得るための対話が必要であるため、内部で相応の人財が不足している場合は、外部から経験値のあるマネジメント人財を登用しなければ現候補の人財を引き上げることもできないことに注意が必要です。

< Check >
Q.いつまでにどんなマネジメントが必要なのか想定を持てているか?
Q.自社のマネジメント要件は何か?
Q.マネジメント育成のボトルネックは何か?

③実力主義

公平で思いやりを持とうとするほど、全員が同じ能力とポテンシャルを有しており、平等に扱わなくてはならないと思ってしまうものですが、現実はバックグラウンドと動機が人によって異なり、努力の量と仕方には個人差があることから、パフォーマンスには歴然とした差が生じます。

その差に対して、実力主義で昇進、報酬、成長の機会に優先度をつけなければ、トップアップはできず、むしろ改善が必要な個人のポテンシャルを自社で飼い殺しをしてしまうことになります。
人の実力に評価をつけることには重責が伴い、心理的葛藤が生まれますが、そもそも人の力は可変的であるため、その瞬間の評価は永遠にくつがえせない評決とは異なるとして、真摯に事実を直視させることの方が誠実です。
組織にどのような像をハイパフォーマーとして位置づけられるが明確でなければ、各個人が目指す方向性にはバラつきが生じます。

< Check >
Q.ハイパフォーマーとローパフォーマーの差分を説明できるか?
Q.ハイパフォーマーに任せられることは何か?
Q.ポテンシャルが発揮されるケースの成功要因は何か?

④育成文化

多くの企業は育成に取り組もうとすれども、人材開発/組織開発と業績の連動性が見えづらく、時間軸が長いことから推進力を高めることに苦戦してしまいます。
だからこそ、他社よりも人を育成できる組織力があるかで差がつきます。

まず必要なことは人を育成することに対する評価をして、育成文化をつくれるかが勝負となります。
人は一定期間コミットメントことが評価されなけれら徒労感で意欲を失ってしまうため、特にトップほど育成に対して熱意を示すことが不可欠です

チームメンバーの成長に対して責任を持つか、持たないかでは日々の業務におけるコミュニケーションに大きな差分が生じるため、War for Talentでは、「あらゆるレベルの業務に優秀な人材を備えることが、他社よりも業績を上げるための方策である」という信念を持つマネジメント人材指向の強化が重要とされています。

< Check >
Q.育成の役割に対する評価は貢献意欲を引き出すものになっているか?
Q.育成を通じて事業の状態をどう変化させたいのか?
Q.育成の成功事例は何か?

⑤自己実現に繋がる機会提供

優秀な人財ほど弛まぬ努力によって目標がアップデートされていくため、その成長速度を超える速さでより高い目標と機会を惜しみなく与え続け、潜在能力を最大限発揮させることで自己実現に向かえる環境を徹底して提供することが重要です。
貢献に対して甘んじることなく、優秀な人が自社に残り続けるメリットを用意しなければ搾取に感じられ他社に取られてしまいます。
War for Talentでは優秀な人ほど常に疑問を抱き、思考をめぐらし、新しいアイデアを思いつくため、よりレベルの高い指導を求めていると警鐘されており、同時にその欲求に応えることで自社を救うリーダーが育っていくと説かれています。

< Check >
Q.ハイパフォーマーが自社に望む機会は何かを把握できているか?
Q.自社に用意できる機会は何か?
Q.ハイパフォーマーのロールモデルやメンターを担えるのは誰か?

⑥採用戦略

人を採用する目的が事業成長にあり、業績に対する影響度が高い優秀な人の希少性が高い以上、有望な人を常に捕まえられるよう、継続的に人を採用できる体制を作っておくことが事業の成長角度に影響します。

そのために常に最も基本となる人財要件は何かを定めつつ、次のポストを想定してポストが空く前に採用することが肝要です。
外部からの定期的な採用は、人財の基準を常に修正することができ、新しい風を組織内にもたらします。

< Check >
Q.3ヶ月後、6ヶ月後、1年後の事業成長に必要な人財像を検討できているか?
Q.自社のカルチャーマッチを測る要素は何か?
Q.先回りして採用した場合に任せられる役割は何か?

⑦評価プロセス

狙った方向に自律駆動で育成していくためにはシンプルな評価項目を全マネジメントに徹底的に植え付けることが重要です。
メンバーの努力が報われる評価のポイントをマネジメントが理解できていれば日々の努力の方向性と量を調整するサポートができ、メンバーは対価に希望を抱きながら励むことができ、特に逃してはならない有望な人財を惹きつけることができます。

War for Talentでは人財評価は1人ひとりのメンバーの名前を挙げながら議論でき、各チームの力量を測り人財配置を検討できる水準にあるべきとされています。

< Check >
Q.自社の事業成長のために最も重要視している評価項目は何か?
Q.全マネージャーは評価プロセスを説明できるか?
Q.評価のための参考材料をどのように集めるのか?

⑧pay for performance

特に優秀な人財ほど常にさまざまな選択肢を得ら、自分の価値を認識でき、なおかつ需給の関係でその価値は上昇を続けていることに注意が必要です。
優秀な人財を自社に抱えることができるかで競争力に差が生じることを理解して、pay for performanceで実力差に応じた報酬に差をつけるとが重要となります。

< Check >
Q.自社の人財の市場相場はどの程度かを把握する術を持っているか?
Q.報酬のレンジは意欲を高め続けられる設計になっているか?
Q.報酬に還元する基準は明確になっているか?

⑨イグジットマネジメント

どんな人も自尊心を感じられない状態が続くことは一度しかない人生の幸福感を下げることになってしまいます。
パフォーマンスが振るわない状態のまま、ずるずる引きとめておく方が不誠実です。
また、組織はネガティブな意見ほど広まりやすいため、対処を先延ばしにするほど他者への影響まで出てしまいます。
どの役割にはどれほどパフォーマンスが必要なのか基準を持ち、不足している場合は何を改善するべきか、そしていつまでに改善できなければ難しいのかをはっきりさせ、時には自社には合っていないことを告げなければなりません。

< Check >
Q.自社で無力感に陥っているメンバーはいないか?
Q.行動を変容を促する評価のフィードバックができているか?
Q.役割に応じたパフォーマンスの基準は提示されているか?

⑩ストーリー戦略

War for Talentでは戦略を練り上げる時には、優秀な人がエキサイティングだと感じる方向へ会社の舵を取ることを検討すベきと説かれています。
自社だからこそ熱意が湧き立つように、シンプルかつロジカルで話したくなるワクワクするストーリーが飛び交うことが自社へのコミットメントと繋がるとともに外部の優秀な人を惹きつける要素となります。

< Check >
Q.自社の戦略を楽しそうに話すメンバーはどの程度いるのか?
Q.自社の戦略に対する理解度が高いメンバーはどの程度いるのか?
Q.自社の戦略に惹かれる外部の潜在求職者はどの程度いるのか?

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