創作童話『紅葉鳥』 #シロクマ文芸部
「紅葉鳥っていうんだ、私。」
鹿のドリーは得意気にそう言いました。
「え?なんのこと?」
リスのハッチはどんぐりを頬張りながら尋ねました。
二人は大の仲良しです。
「鹿の別の名前のことだよ。お母さんに教えてもらったの。」
「へぇ!紅葉鳥だなんて、素敵だね。」
ハッチは木を見上げながら言いました。
季節はちょうど、山が赤や黄色に染まる秋の頃でした。
「ねぇ、リスは?リスの別の名前は?」
「リスは…なんだっけ、たしか栗鼠だったかな。」
「栗鼠?!」
ハッチはショックでした。
紅葉鳥のような素敵な名前を期待していたからです。
「なんだかそのまんまだし、ちっともかっこいい名前じゃないや。」
ハッチはしょんぼりしてしまいましたが、それは次第に苛立ちに変わっていきました。
「だいたい、鹿は飛べないのに鳥だなんて、おかしな話じゃないか。栗鼠の方がよっぽど納得がいくよ。」
ハッチはぷりぷりしながらドリーに言いました。
「ははは。そうだね。結局はニンゲンが勝手につけただけの名前さ。気にすることないよ。」
ドリーは宥めるように言いました。
お家に帰ってから、ハッチはお母さんに尋ねてみました。
「ねぇねぇお母さん、僕たちは栗鼠なの?」
「なぁに、急に。私たちはリスだよ。」
お母さんは忙しそうに台所仕事をしているところでした。
「ドリーたち鹿は、紅葉鳥っていう素敵な別の名前があるのに、僕たちは栗鼠なんだって。」
ハッチは俯きながら言いました。
結局のところ、ハッチは鹿の異名が羨ましかったのです。
「呼び名なんかにとらわれるんじゃないよ。あなたはあなた、私は私。それ以上でも以下でもないんですからね。」
お母さんの言うことは、ハッチには少し難しかったのでした。
ある日のこと。
ハッチとドリーは一緒に昼寝をしていました。
すると、カサッとかすかに足音が聞こえました。
先に気がついたのはドリーです。
「ニンゲンだ!」
その声で、ハッチも飛び起きました。
見ると、遠くの方に銃を持ったニンゲンの姿が見えます。
猟師です。
「大変だ!」
ハッチは急いで木に登ると、木から木へと飛び移り、猟師に近づくと、トゲトゲの栗の実を落としました。
「痛ぇ!なんだ!」
「ハッチ!逃げよう!」
ハッチはドリーの背中に飛び乗りました。
猟師が栗の実に気を取られているうちに、ドリーはその場から駆け足で逃げ出しました。
ドリーは風のように速く走りました。
しかし、猟師もめげずに追いかけてきます。
「どうしよう。あいつ、諦めないよ。」
「大丈夫、私に任せて。」
そう言うと、ドリーは山の崖の方へ走っていきました。
「行き止まりじゃないか!」
どうするつもりなのだろう、とハッチがハラハラしていると、ドリーは崖から向こうの崖までぴょーんと一っ飛びしました。
その瞬間、ハッチはまるで鳥になったような気分でした。
ドリーは走り続けました。
さすがに猟師も諦めたのでしょう。
もう追いかけてくる気配はありませんでした。
「ここまで来れば、きっと大丈夫。」
山の奥まで来て、ドリーは足を止めました。
「すごいやドリー!あんな高い崖を飛んでしまうなんて!」
ハッチはパチパチと手を叩き歓声を上げました。
「僕、鹿がなんで紅葉鳥と言われるのか、なんだか分かった気がしたよ。」
赤く染まった木々の中を飛ぶその姿を思い出しながら、ハッチは言いました。
「僕は結局、栗鼠だね。」
笑いながらそう言いましたが、ドリーは真剣にこう言いました。
「ハッチのおかげで逃げられたんだよ。危ないところを助けてくれてありがとう。」
それからうーん、と考えて、
「栗鼠じゃ物足りない。君たちは栗名人だよ。」
と言いました。
「なんだそれ。」
二人の笑い声が山の中にこだましました。
おしまい
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今週も、小牧幸助さまの企画に参加させていただきました。
紅葉鳥という言葉は初めて知りました!
動物の異名、調べてみると面白かったです☺️
あむの
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