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いつかまた行きたい街~ピエンツァ

イタリアでもう一度訪れたいのは?と聞かれて必ず名前を挙げるのがトスカーナ州ピエンツァだ。丘の上にある小さな美しい街。

ルネサンス時代、時の教皇ピウス2世が出身地を理想都市とすべく、建築家を招聘して街を改造し、現在の美しい景観のもとを作り上げた、のだそうだ。今の政治家に置き換えると恐ろしいことだが、もともとのセンスの良さと長い年月が醸し出す味、背景となるオルチャ渓谷の美しさも相まって、美しい夢のような場所になっている。

訪れたのはもう20年も前、夫婦でイタリアに行くなら車でトスカーナを巡ろう、ということになった。ピエンツァは宿泊地としていくつかピックアップした行先のひとつだった。どうしてもこの街に行きたいというより、ここを拠点に周辺を観光しやすく、過ごしやすそうというのが選んだ理由だった。

トスカーナならではの丘陵地帯を進み、丘の上の小さな街を見たとき思わず歓声を上げてしまった。ガイドブックで見知ってはいても、実物の色の何とも言えない色合いが空や緑に映えている。牧草地を吹き抜ける風も心地よく、この先にはきっと素敵なことが待っている、と思わせてくれた。

牧草を丸めた、お菓子の「コロン」のような物体。

街を貫くメインストリート(Corso il Rossellino)を端から端まで歩いても10分かかるかどうか。味のある細い脇道も多いけれど、それでも街を一回りするのに1時間もかからないくらいの手のひらサイズの街。世界遺産なだけあって観光客はそれなりに歩いているし、土産物屋やレストランも結構ある。
程よくにぎわい、程よく静かで、皆ルネサンス期の建物を見ながら石畳の道をぶらぶらしていた。短い休暇だとついつい、あっちの美術館の次はこちらの教会、とせかせかしがちだが、街の空気を楽しみながらのんびり歩く楽しさをこの街で知った気がしている。

スマホで写真を撮りまくれる今では考えにくいが、この街の中の写真は実はあまり残っていない。カメラも出さずに街をゆっくり歩いていたらしい。建物の間の細い通りを抜けると視界が開け、オルチャ渓谷を見下ろせるスポットに出る。糸杉と牧草地の向こうにはアミアータ山、トスカーナらしい景色を存分に堪能できる気持ちのいい場所だった。

ピエンツァの街からみるアミアータ山

ピエンツァからはワインで有名なモンテプルチアーノやモンタルチーノ、温泉もあるキャンチャーノテルメやバーニョ・ヴィニョーニも車ですぐ行くことができる。なだらかな丘と草原、糸杉の植えられた道を車窓から眺めるだけでも十分楽しい。私が行ったのは夏だったので満開のひまわりがさらに彩りを添えてくれていた。

ひまわり畑

ピエンツァに泊まったのは2泊だけで、この街を楽しみつくせていないという思いを残している。また行きたいね、と言い続けて20年経った。その後トスカーナを訪れる機会は何度かあったのに、別の機会にと先延ばししてしまった。その時は一人旅で、運転できない私はフィレンツェ→シエナ→ピエンツァとバスを乗り継がねばならず、ハードルが高かったのだ。
今思えば、少々無理をしてでも行っておけばよかった。いつの日かまた、夫婦でのんびりドライブ旅ができるようになるまでお預けである。

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