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「米国の障がい者運動のいま」#使い捨ての命なんてどこにもない連合はトリアージ差別に反対する 1/2


以下は札幌いちご会発行のいちご通信No.209(2020年8月号)に寄せた翻訳原稿『コロナ禍でも自分の権利を知って戦略を!「#使い捨ての命なんてどこにもない」連合からの提案』だ。(原文:https://nobodyisdisposable.org/know-your-rights/

いちご会の小山内美智子氏のところでヘルパーをしながら、障がい者とそのコミュニティについて考えるような翻訳もしていきたいと考えていくなかで、掲載の機会をいただいたことに感謝している(今回は私の絵が表紙として採用されている!)。

文字数の関係から、紙面上では、原文をすべて順番通りに紹介することが難しいため、一部を訳し、本来運動の形成とともに有機的に考えられた戦略的なHPの流れをあえて崩すことにした。より丁寧に文脈を説明するには、私の訳では足りないかもしれないが、このnote上で2度に分けて掲載をするつもりだ。なお、札幌いちご会といちご通信については文末に記載する。

いちご通信掲載時のまえがき

いちご通信の読者には、コロナ禍における米国の障がい者の「生の声」を翻訳してお伝えしたいと思い、手始めに「使い捨ての命なんてどこにもない連合(#NobodyIsDisposable)」というインターネット上の集まり、議論をご紹介することにした。

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緊急時は医療差別も仕方がない?

コロナウィルスの感染拡大を受けて、今年4月に米国アラバマ州政府が「障がい者や疾患がある人は人工呼吸器の支給対象になりにくい」と発表した。実はそれに先駆けて、障がいや体重、年齢、性自認、人種などに基づくトリアージ(※1)差別を受ける可能性のある当事者たちが匿名(※2)で「使い捨ての命なんてどこにもない連合(#NobodyIsDisposable)」として、自らの権利と戦略について情報を集め、インターネット上で公開している。

日米の状況に差はあれど、現状を様々な当事者が生き抜くための手数を増やすためにも、いちご通信の読者の方ともぜひ一緒に考えられたらと願う。彼らの沢山の提案の中で、ケア提供者への手紙を書くという部分と医療関係者との関係づくりについて訳すことにした。

※1トリアージ (災害発生時などに多数の傷病者が発生した場合に、治療優先度を決めること)
※2 障がいの軽重や状況での判断を避けるため、あえて匿名。様々な障がい者運動家も含めた差別に反対する活動をする人々、弁護士、医療関係者、介助者、芸術家などが携わっている。

(以下本文)

医療差別とどう向き合うか

緊急時こそ多くの選択肢を検討したい。かえって立場を不利にするもの、今すぐにでも抵抗の手段として用いるべきものもあるだろう。ときには波風を立てずに優しく振る舞うことも、あなたの命を救うかもしれない。その都度選んで、自分のやりやすいように実行してほしい。

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ケアや医療提供者へ手紙を書こう

ケアや医療提供者との対話に苦労はつきものだ。障がいやその他の特徴(年齢、性別、性自認、人種、体重など)のために差別される人々にとって、その力関係はよけいに偏っている。ケアの提供者との対話の助けとなるよう、手紙の見本を作成した。

緊急時にはケア提供者や機関が、これを時間をかけて読むことは難しい場合もある。そのまま見せてもいいし、あなた自身の言葉に変えればなお良いだろう。

ケアをしてくださるあなたへ:

感染リスクを高めながらも、私のケアをしてくださり、ありがとうございます。

私は<障がいを持つ高体重者で高齢者(自分の状況に合わせて変えよう)>として、COVID-19感染そのものとトリアージの両方が怖いです。
私の命はかけがえの無いもので、治療を拒否されたくありません。

<障がい、体重、年齢…>を理由としたケアの拒否や、優先順位を下げることは違法であり、非論理的な差別です。

まず、健康状態・予後・生活の質・平均余命について、<体重>を予測因子とすることのは適切ではありません。<障がい、体重、年齢…>によって、個人の経験を超えた社会的な偏見や差別にさらされ、ケアや医療をの面でも健康への格差を経験しています。緊急時においては、差別がより正当化されるかもしれません。

ケアを担うあなたの行動は、私自身の治癒力に影響を与えます。またあなたが私を差別するかもしれない(経験上、障がい、体重、人種、性同一性、年齢、または他の特徴のため起こりうる)可能性もこれに影響します。

あなたが人を支えるためにこの職に就いたことを、私は理解しています。
あなたには、私の人生を大切なものだと考え、私が生き残ることを望んでいただきたい。
私は、あなたがそう考えているという安心感がほしいのです。

あなたには救命と防護の設備が必要です。
私も同じくそれを必要としています。


最後に: 感染拡大の局面における「責任免除」はすべての状況に当てはまるわけでありません。
私の人生は貴重です。私のことを気にかけ、頼りにしてくれる人もいます。もしあなたが、私の体重や障がい、年齢のために治療を拒否するなら、あなたは私と、私を愛する人たちを、取り返しのつかないほど傷つけることになるのです。

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医療機関やトリアージ決定者とつながろう

救命措置の決定者も、この状況で疲弊していることに理解を示した上で、つながりを作る。人間らしく扱われるために、面倒でも、友人や家族と撮影した写真を見せるなどし、「患者」以外の人格のある人間として振る舞うべきだ。国の方針や地域のトリアージ決定組織の構成員の名前や情報を得て、会議を要求する。医療側の課題にも共感しながら、圧力をかけて自己主張するのは難しいものだが、他の人があなたを守りやすくなり、差別をしにくくなるための根回しになる。

たとえば肺の水を抜くために、腹臥位をとるよう指示されることがあるので、予め体位交換について話しておく。高体重や障がい、忙しさを理由に体位交換を断るのは、差別だ。あなたには「合理的配慮」を要求をする権利がある。会話ができなくなったときのために、指示を書いたフォルダーを首から下げたり、マジックで直接胸に書き込むこともできる。

もし医療提供者に差別をされたとしても、あなたが生きるに値することを知って応援している何十万もの人々、仲間がいることを忘れないでほしい。あなたには生きる価値がある。権利を主張すべきだ。

(掲載された記事はここまで。次回は別立てで原文を訳し、日本の読者に分かりづらい部分(たとえばなぜ高体重者と障がい者が同じ壇上で語られるのか)について触れたい)

札幌いちご会といちご通信について

本稿が掲載されたのは、札幌いちご会の季刊誌「いちご通信」だ。発行元の札幌いちご会は1970年代の後半から、札幌や北海道で自立生活を営む障がい者たちによって設立され、44年間地域や国政での課題解決に向けて活動を続けている。現在はコロナで状況が逼迫している障がい者・高齢者のコミュニティも感染症予防策を講じていくための提言やメディア教育を行なっており、微力ながら私も関わっている。創立者小山内美智子さんのnoteはこちら、また札幌いちご会のHPはこちらから御覧いただける。

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