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第8回:『シェアハウスさざんか』で人間の数だけ存在する「生き方」を学ぶ

こんばんは、あみのです。今回は、葵日向子さんのライト文芸作品『シェアハウスさざんか』(二見サラ文庫)を紹介します。

まずこの物語には、4人の「生き辛さ」を抱える男女が登場します。あらすじに書いてある「異性カップルを演じている同性カップル二組のシェアハウス暮らし」ってどのような日常なのか、またそこで暮らす彼らは日々何を考えているのか興味を持ち、この作品を手にしました。

世の中の多様な価値観に関心のある人にはぜひおすすめしたい作品です。また、凪良ゆうさんの『神さまのビオトープ』や『わたしの美しい庭』あたりの作品が好きな人もきっと雰囲気が気に入る1冊だと思います!

あらすじ(カバーからの引用)

さまざまな理由から同性カップルであることを世間から隠すため、二組の同性カップルの男女四人は、「異性カップルを演じている同性カップル二組のシェアハウス暮らし」をすることになった。「さざんか」のルールは、シェアハウスに客を入れないこと。四人でのシェアハウス生活は気楽で、落ち着いた日々だったが、そうした暮らしにも歪みが生じ、やがて自分たちのこころに向き合っていく―――

感想

克哉(カツチカと読みますが、作中では「チカ」と呼ばれることが多かったので、以下チカと表記します)と光介、莉子と慧は、それぞれ同性で付き合っており、彼らは世間とは少しずれた自らの価値観に生き辛さや疑問を感じながら生活を送っていました。

付き合っている人はいるけど、「異性」ではなく「同性」であることをなかなか同居人以外には言い出せず、外では必死に嘘をつく彼らの姿には息苦しさを感じます。チカたちの価値観はまだまだ世間に気付いてもらうには時間のかかることだと思います。でも外の世界には、少数かもしれないけどきっと同じような悩みや疑問を持ち、理解をしてくれる人はいるはず。この物語は、まず世の中の生き辛さへに対する「希望」を感じられました。

中でも莉子の境遇と成長が印象に残りました。彼女は小学生の頃から、男性ではなく女性に魅力を感じてしまう自分に悩んでいました。そのような自分を莉子はポジティブに受け入れようとしますが、一方で家族はそのような莉子のことを「病気」だと思い込み始めてしまい、彼女は次第に家庭への息苦しさを感じるようになります。

でも、慧との運命的な出会いやさざんかでの暮らしによって、無理に「家族」というものに縛られる必要はないことに莉子は気付いていきます。この「気付き」からの今後のさざんかでの暮らしに関する彼女の「判断」にとても心が震えました。これからも偏見と闘うことにはなりそうですが、一般的な思想よりも、自分の考えを優先に慧と生きていくことを決めた莉子のことを私は応援したいです。

後半では、さざんかの庭に込められたチカの祖父の想いを紐解くちょっとした謎解きが展開されました。チカはこれまで自分の祖父に対してあまりいい印象を持っていませんでした。しかし、「愛想が悪くて堅物だと思っていた祖父」がどうしてこの庭を造ったのかを紐解いていくうちに、これまで知らなかった祖父の姿や家族に託していた想いに気が付きます。祖父と庭のエピソードからは、第一印象だけで相手の全てを知ることはできないということを学びました。

最後に今作は世の中にある人間の様々な価値観を知るだけでなく、人付き合いで大切なことを教えてくれた1冊でもあったと思います。人に興味を持つのに、好きになるのに性別だって年齢だって関係ない。周りの意見を気にせず、自分が好きになった人を自由に愛すことができる世の中になることを祈りたいと思えた作品でした。

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