年をとることはいいことか

去年の秋、検診で行った病院の待合所で流れていた映画の番宣。
精神障害者施設で実際に起きた事件を題材にした『月』という映画で、宮沢りえとオダギリジョーと二階堂ふみが出ていた。
その出演者だけで見たくなり、京都シネマへ行く。
主人公の夫(オダギリジョー)が、自分の作った作品が賞に選ばれて大喜びしてるシーンで泣けた。
終了後これから上映予定の映画のチラシをなんとなく見ていたら、ヴィム・ヴェンダース最新映画『パーフェクトデイズ』、主演は役所広司。これは観たい!絶対に面白い予感しかしない。

そして年を明けてやっと観る事ができて、向かった映画館には70代夫婦や年配のご婦人たち、映画好きそうな中年男性、金髪のギャル、20代くらいのカップル、そして中年の女。面白い客層だった。
終始感情が揺れないフラットな主人公(役所広司)だが、行きつけの居酒屋のママに男がいたと知って、橋の下で自棄酒してタバコを吸って咽せこむシーンが好きだった。人間、ちょっとダメな部分がかわいい。
全編通して音楽もいいし、映像も綺麗だし、ラストの狂気的とも取れる主人公の表情も、なんか全て良かった。娘を迎えにきた妹の車がレクサスで運転手付き、というのは若干やりすぎ、と思ったけど。

これを観ていて役所広司が笠智衆みたいだな、と思って、小津安二郎の『東京物語』を思い出した。20代の時に一度観て、その時はこの世界観が全くわからなかった。淡々と日常を描く辛気臭いつまらない映画、と思った。そう言えば年末に放送していたので録画していた。観直したら、びっくりするくらい良かった。

当時の日常着としての着物の着方がとても参考になったし(最近自分が着物を着だしたからだ!)、昭和の子供の生意気な口の聞き方、親に反抗する仕草、今も昔もそんなに変わらないのだ、と思ったら妙に可笑しく、(そのシーンを11歳の息子に見せたら、わかるわ〜と言っていた!)、自分達の母親が亡くなった途端、肩身分けの話をする娘たちの下世話なやり取り(まさに同じような事が実際に私の祖母が亡くなった時に繰り広げられ、母はめちゃくちゃキレていた!)、おばあちゃん役の平山とみの雰囲気が実の母方の祖母に似ていて(あの絵に描いたような優しさは、映画の話だけでなく、実際に私の祖母はあんな風に優しいおばあちゃんだったのだ!)、20代の時に何も思わなかったのに、40代になり「はあ〜」と唸ることの連続で、改めて年をとったからに違いないと思うと同時に、年を取ることはいいことかもしれない、と思い直した。






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