アフロ・イン・パリ⑤


パリ最終日、友人たちと一緒にパリ土産を買いに街へ繰り出す。

個人商店がたくさん軒を連ね、小さなスーパーでポッキーを発見する。しかしパッケージはそのままだが、ポッキーではなく『MIKADO』と表記されている。グリコはこのことを知っているのだろうか。勝手ながら心配しつつ、『MIKADO』を元の位置にそっと仕舞った。相変わらずどこのスーパーに入っても現地のお兄さんに「ハロウー」と気さくに声をかけられる。他の友人たちは滅多に声はかけられないというのに。この頭のせいだろうか。

土産にピカソの絵が描かれたノート、チョコレートの詰め合わせ、エッフェル塔のキーホルダー、「それ」らしきものを購入するも、まだ何かありそうな気がする、そう思って一軒の書店に入る。

レジ近くにカラフルで可愛らしい絵のポストカードセットが目に止まる。花々や動物たちの愉快な世界観に魅了された。有名なイラストレータなのだろうか。(その後帰国してから『H.P.FRANCE』というアパレルショップで、彼女の作品が売られてるのを発見した。ナタリー・レテというアーティストだそうだ。やはり楽しげで素敵な世界観だった。)レジに持っていくと、金髪の小太りの気が良さそうなおばちゃんが接客してくれる。釣りを受け取って「めるしい」と会釈すると、おばちゃんはまるで孫を見るかのような微笑みで見送ってくれるのである。

パリに来て何ども「メルシー」と言ったが、その発音が微妙に違うのであろう、皆一様に一瞬表情を止まらせてから、大らかな微笑みを返されるのだった。他の友人の一人は、サンドイッチ屋のスタンドで、緊張のあまり予想以上の声で「めるしいい!!」と叫んでしまい、お店の人たちに苦笑いされていた。変な発音でも笑われても、やはりフランスに来たからには、「メルシー」と言っておきたい気持ちはとてもわかる。


最後に両親への土産を買おうとデパートに入る。母親の土産はすぐに決まった。ゲランの口紅だ。しかし父親の物がなかなか決まらない。

どんどん集合時間が迫り、焦りながら探す。その時目に止まった腕時計を指差して、「ディス、ディス、プリーズ!」と店員に叫んだ。店員はとても怪訝な顔つきだった。



それから数年経ったある日、父がその時の腕時計をつけていることに気がついた。あまりに慌ただしく買ったものだから、どこのメーカーのものかも覚えていない。

その時計をじっと眺めてみると、

『カルバンクライン』と表記されていた。まさかフランス土産にアメリカメーカーの時計を贈っていたなんて!私は顔をぞっとさせ、ちらっと顔を見ると、その時計を嬉しそうに眺めている父親の穏やかな顔があった。父はカルバンクライン自体も知らないだろうし、知ったところで関心もないと思うが、時計だけは喜んでいるのはわかった。

もう私の頭はアフロではなかった。




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