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第4回「I LOVE YOUを訳してみる」

「文章の書き方」
編集&ライティング歴40年ほどのフリーライター。120冊以上の書籍化でライティングを担当。
このnoteでは、誰でも文章が上手になるコツを伝えようと思います。特に順序立てて書くわけではありませんので、どの回から読んでいただいてもかまいません。また何回のコーナーになるかも決めておりませんので。暇な時に拾い読みして、参考になる部分だけを実践してみてください。


50通りのI LOVE YOU?

 「I LOVE YOU」という英語の一文があります。さて、ではこの一文を50通りに訳してみてください。  
「I LOVE YOU」ですから「私はあなたを愛しています」。
この訳のほかにどんな訳があるの。まして50通りになんて訳すことなどできない。そう思われる人も多いと思います。
ところが文章とは面白いもので、意訳も含めれば50通りの訳などすぐにできるものです。

一人称が見せる背景

 では具体的にどのような訳があるのでしょう。
まずは第一人称の「私」と二人称の「あなた」を次のように言い換えます。  「僕は君のことを愛している」  
何となく若々しさを感じますね。
 「俺はお前のことを愛している」  
偉そうにも聞こえますが、言葉の裏側にあるテレみたいな感情も感じることができます。
 「ワシは、あんたのことを愛しとる」  
どこかの漁師町で、いい大人が告白しているような感じです。

では次に、第一人称を取ってみます。
 「あなたのことを愛している」
 「君のことを愛しているんだ」  
どうでしょう。一人称を書かないで、いきなり相手に訴えるような表現にすることで、思いが強くなる感じがしませんか。さらにこの表現を反対にして、
 「愛しているんだ。君を」
と書くと、さらに愛の強さが増すようにも感じます。このようにどの一人称を選択するのか。どの二人称を使うのかによって、読み手に与える印象は大きく異なってきます。

読み手に想像させよう

 小説などの面白さは、会話にあると言っても過言ではありません。もちろん全体のストーリー展開が小説の醍醐味ですが、そのストーリーを面白くさせるのが会話です。
なぜなら、物語のなかで交わされる会話によって、読者は登場人物の人格や性格を想像することになるからです。
 先の例にしても「私」を使うのか「俺」を使うのかによって、描かれる人物の印象はまるで変ってきます。相手に対する呼び方についても、そこには相手との関係性が現れることになります。
 つまりは、何の気なしに書いている一人称や二人称も、実は文章のなかで重要な役割を担っていることを知ってください。まずは自分のことをどう表現するか。「私」にするのか「わたくし」にするのか、あるいは「小生」や「拙者」などという時代がかった書き方にするのか。それだけで読み手に与える印象は大きく変わってきます。

 もちろんいつも同じ書き方をするのではなく、文章の色合いによってさまざまな表現を使ってみることです。日常生活を軽く描くような文章であれば軽やかな一人称を使い、少し真面目な文章であれば「私」を使う。どれを使ってもかまいません。一人称や二人称の使い方に正解などはありません。自分が表現したいように自由に書くことです。

LOVE=愛情表現で広がる表現

 さて、一人称と二人称を少し変えるだけで、これだけの印象が違ってきます。では次に「愛しています」という表現を変えてみましょう。
愛情表現は「愛してる」という言葉だけではありません。実に多様な表現があります。
たとえば「私はあなたが好き」と書けば、何となく愛情の一歩手前という感じがしませんか。 「愛してる」も「好き」も同じ愛情表現ではありますが、言葉の印象はまるで違ってきます。

 さらにこの「愛している」という感情を、この言葉を使わずに言い換えることもできるでしょう。
 「あなたは私にとって、いちばん大切な人です」
この一文には「愛」という単語は入っていませんが、書き手の愛情は十分に感じられます。この他にも、
 「あなたなしには、私は生きては行けません」
 「あなたは、私のすべてです」
 「私は、あなたと一緒に人生を歩いて行きたいと思っています」  
これらの表現は「愛」という単語は使っていませんが、「愛」を使うよりもさらに大きな愛情表現になっています。まあ、少し重たい「愛」という感じになるかもしれません。

たった一つの正解は無い

選択する大切さ

いかがでしょう。ちょっと書いてみただけでこれだけの表現がでてきます。これだけでなく、たとえば地方の方言を使ってみたり、あるいは流行の言葉を使うことで、さらに表現が広がっていきます。
 とくに感情表現、「好き」、「嫌い」、「憎い」、憧れ」などといった感情表現は、選択する言葉次第で印象はがらっと変化します。自分の感情を的確に表現するための単語を選ぶことはもちろん大切ですが、読み手がどう思うかも想像しながら書く方がいいと思います。あまりにもストレートに自分の感情を言葉に書いてしまうと、いらぬ誤解を生むことにもなりかねませんから。

いずれにしても「I LOVE YOU」を何種類にも訳したように、書く前にいくつかの表現を頭の中に思い浮かべることです。そのいくつか浮かんだ表現の中から、自分の気持ちを的確に表し、かつ読み手を傷つけない文章を選んでいくことです。

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