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「塞ぎの虫」と新しい自律神経理論

最近、ステファン・W・ポージェス博士が1994年に提唱した「ポリヴェーガル理論」という新しい自律神経系についての理論が、心理セラピーやボディセラピーの分野に関わる人の間で注目されています。詳しいことが知りたい方は、ぜひ本をお読みください。

「ポリヴェーガル理論入門  心に変革を起こす「安全」と絆」ステファン・W・ポージェス著  花丘ちぐさ訳  春秋社↓クリックすると出版社のページが出ます。

ごく簡単にこの理論のほんの一部を、紹介しようと思います。

この理論では、自律神経系を3つに分けてその働きを説明しています。〈(かっこ)内は、私が本を読んだり心理セラピストの養成講座を受けて、学んだことをまとめて書きました。〉

①背側迷走神経(動物に危険なことが起きた時に、不動の状態や痛みを感じさせないような状態になるなど、身体の働きをシャットダウンさせる神経系。人間も危険な目にあった時、闘うことも逃げることもできない場合は、この神経系が働いて固まって動けない状態になる。通常の時は、一人の時間を取り心身を休め回復させることにも関わる。)

②交感神経(動物に危険なことが起きた時に、逃げるか闘うかという反応を引き起こす神経系。通常の状態では、人間だとスポーツをする時や何か目標に向かって頑張る時にも使われている。)

③腹側迷走神経(社会神経とも呼ばれる。哺乳類のみが持つ系統進化の上でもっとも新しい神経系。表情や声のトーンにより、相手の状態を読み取りかつ関わる相手に自分が安全であることを知らせるサインを送る。円滑なコミュニケーションを取るために働く。呼吸や心臓の鼓動のコントロールにも関わる。)

哺乳類の身体ではこの3つの神経系が、私たちの意識しないところで自動的に働いてくれていています。

この理論では、集団で生活するスタイルをとる哺乳類である私たち人間にとって、③の腹側迷走神経の働きが円滑な社会生活を送る上でも、心身の健康を保つためにも、そして大脳新皮質の働きを活発にさせるためにも、とても重要であることが、語られています。

しかしトラウマがあったり日常で緊張状態が続いた場合、③の新しい神経系は働きが抑えられ、①と②の神経系ばかりが主に働く状態(常に危険に備えているような状態)が続いてしまうようです。

この状態であると、実際は危険なことは去ってしまっているにも関わらず、闘うか逃げるかという状態を起こす反応(不安感や高ぶり)や、シャットダウンさせて固まってしまうような反応(鬱)ばかりが、無意識に身体の反応として続いてしまいます。

ここでこの自律神経理論を踏まえて、前に書いた「塞ぎの虫」について異なる視点から書いてみようと思います。

「塞ぎの虫」が来る=鬱状態は、この神経理論でいうと、①の背側迷走神経が働いている状態(まるで危険な場合のように)ということになります。

なぜ、以前の私には「前触れもなく」頻繁にこの状態がおきていたかというと、何らかの原因よって③の神経系の働きが制限されていたため、常に①と②ばかりが極端に働いている身体になっていたからなのです。②の闘う逃げるかの緊張状態が高まった状態から、突然①のシャットダウンの状態へ移行する時が、「前触れもなく塞ぎの虫がやってくる」時だったというわけです。

③の神経系が抑制されずに使われるようになってくると、①と②の神経系の働きは、上に書いたような極端な感じではなくなり、通常の範囲内での働き方に戻っていきます。これによって「塞ぎの虫」が突然訪れてはなかなか去らない、というようなことはなくなってきたのです。

では、これをもとに「塞ぎの虫」に悩まされている人には、どんな方法がおすすめできるかを、いくつかあげてみます。③の腹側迷走神経(社会神経)を活性化させるような方法の例になります。

※安心安全を感じられる、そのままで受け入れてくれるような人と、お喋りしたり一緒にご飯を食べる

※ボディセラピーやマッサージを受けたり温泉に入る(筋肉を緩める)

※身体にも働きかけながら行う心理的セラピー(タッピングを使った感情解放セラピーであるEFTなど)を受けてみる、自分でやってみる

※人と一緒に楽器を演奏したり歌を歌う

※身体を使って人と一緒にするレクリエーション、遊びをする

※笑う、笑顔を作ってみるだけでもOK

※深呼吸をする、特に吐く息を意識する

セラピーやカウンセリングを受ける時にも、自分がリラックスして安心安全を感じられるような人から受けることも、とても大切ですね。

「塞ぎの虫」を嫌わない方が良いのは分かったけど、このつらさにどんな対処法があるの?という場合に、お役に立てば幸いです❤️


参考文献:「ポルヴェール理論入門  心身に変革をおこす「安全」と「絆」」ステファン・W・ポージェス  花丘ちぐさ訳  春秋社  2018

受講した講座:ハートレジリエンス協会 OAD心理セラピスト養成講座2018〜2019  https://heart-resilience.com/therapistcourse