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遠距離とカレンダーと初夏

「19、18、17、16...」
日付を指折り数えた。君に会えるまであと2週間ちょっと。カレンダーが教えてくれた。よしっ。握った拳に、わずかに力が入る。

「目に見えるところにあったほうが、きっと次に会えるのがもっと楽しみになるよ」。
君がくれたのは、壁掛けの大きいカレンダーだ。1ヶ月ごとにめくるシンプルなもので、僕の部屋によく馴染む。
パートナーと呼べる関係になってから、もう1年ほど経つだろうか。遠距離なんてする予定がなかった僕らは、初めての転勤が決まった時から決まりごとができた。
毎日LINEを1通は送ること、少なくとも2ヶ月に1回は会うこと、そして夜眠りにつく前に思い出すこと。
約束を破らない日はなかった。カレンダーにはバツが増えるほど嬉しく、1日、今日1日を愛おしく思った。
「独り身はいいよな。気軽に動けて」
上司の言葉に、胸の奥で君を思う。独りじゃないんだけどな。約束のない僕らの関係は、いつかあっという間に消えて無くなっていくものかも知れなかった。

「また転勤!?」という彼女の声が頭の中で再生される。関係に正解なんてなくて、明日、明後日を繋いでいく僕ら。
「次会った時に話したいことがある」。
寝る前に1通LINEを送った。
「なんだろー?いい話??笑」
良い話じゃないよ、と送りたかったけど、約束を守って次の日に返信することにした。夜が暗くなりそうだし。
君には寝る前に幸せな気持ちになってほしい。思い出すのが僕のことじゃなくても。

ーーー夢で君に会った。
手を握ると柔らかく、日差しの中で輪郭がぼやけて見えた。夢みたいだ。いや、夢なんだけど。
「5月なのにもう夏だね」と笑う君と、混ざる指がちょっと暑い。君が生きている。触れられる距離で笑っている。

目が覚めたら君に伝えなきゃいけない明日が来る。明日よ来ないでくれ。

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