見出し画像

活動日記 2023/08/23-奥多摩合宿

 目が覚めた。暑さに耐えかねて結局敷き布団1枚で一夜を過ごしたのだ。おかげで夜には足が冷え込んだが、幾つか上衣を羽織って切り抜けた。どんなことをしても掛け布団や寝袋は出したくないのだ。片付けるのが、面倒くさいからだ。
 諸々の用事をこなした後、片付けてから朝食を食べる。今回も果物がテーブルいっぱいにある。朝食を終わらせ食器を運んだ後、瞑想、学習に入る。今日は三平方の定理を終わらせることが目標だった。けれども思ったよりも早く進んでいき、途中休憩の入る8時には全て終わり、中学2年の連立方程式の復習へと入っていた。昨日のカレー(?)や牛肉(?)の入ったお握りを口にして、持ってきた本を何冊か読む。驚くべきことに、新しく参加した小学生は既にこの生活に順応し始めている。溜まった宿題をこなすために来たというが、このペースであれば楽に終わらせることが出来るのではないだろうか。自由研究の「アイスの歴史」というものについては不安が残る。本当にそんなものを合宿中に完成させることが出来るのだろうか。アイスについての資料なんて何処にもないし、君も持ってきていないだろう?ネット情報だけでは信憑性に欠けるんじゃあないのか?とはいってもwikipediaを主に使っていたため、そこまで間違った情報はないだろう。
 ふと縁側を見た。僕はここが好きでいつもここで勉強するのだが、いまは雨が降っているのが見える。学習を一時中断する8時頃からずっと降り注いでいるのだ。そのくせ日光が燦々と降り注いでいる。
 根気よく連立方程式を解いていると、となりで既に筆をおいて読書をし始めていた「無敵」が「あ、すげー」などと声を上げる。学習時間中に声を上げるなど、集中が途切れてしまうから基本的には禁じられている。
 案の定集中力が切れてしまった僕は、ついでだからと「無敵」の視線を追った。相も変わらず雨はしとしとと降り注ぎ、日光は燦々と照りつけている。ただし、何故か雲が増えている。それも入道雲のようなものではなく薄雲だ。しばらく見て間違いに気がついた。雲ではない。霧のようにも見えるが霧でもない。あれは湯気だ。日光によってあちこちの小屋の屋根に使われているトタン板が熱され、その上に降る水滴が蒸発して立ち上っている。室内は扇風機と外の雨によってこの季節には珍しいほど涼しい。だから外の様子をゆったりと見ることが出来る。
 しばらくたって何か忘れているような気がしていたが、10分ほど後にふと気がついた。僕はここに学習をしに来ているのだ。慌てて連立方程式に戻る。連立方程式をようやく思い出してきた頃昼食となった。
 なにが出てくるかと思っていると、珍しく麺類が出てきた。餡かけかた焼きそば。食べてみると僕の欲していた麺類ではない。硬い。昼に幾つかお握りを食べていたからか、あっという間に腹八分目を突破してしまい、当然のように川に行くことは不可能になった。
 坂口安吾を読みながら体を大儀そうに畳の上に横たえる。虻がひっきりなしに飛んでくるために追い払おうと手を振り回すと、なにかに指をぶつけたような気がした。痛い。何か硬いものに右手の中指をぶつけたようだ。しかし体を起こして辺りを見ても硬そうなものは何もない。不審に思って目を皿のようにしてもう一度、今度はより入念に辺りを見渡すとなにかが目に入った。虻が落ちている。足をひくひくと動かしながら畳の上を蠢いている。
 僕がめくらめっぽうに振り回していた腕は見事僕の顔めがけて突っ込んできた虻を迎撃し、墜落させたのだ。時間がたっても指の痛みは全く消えず、洗面台の前を占領してひたすら指を洗い続けること5分。
 いつの間にか川から帰ってきたメンバーが畳に集まってきた。もはや畳にて昼寝することに恐怖しか感じなくなっていた僕は―「無敵」が川から帰ってきたことも原因の一つではある―部屋の隅にて膝を抱え、丸まって珊瑚荘所有の夏目漱石「三四郎」を読む。
 学習再開の鐘が鳴り響き、皆が飛び起きて机に向かう。全く起きないメンバーは、耳元で鐘を鳴らされて同じく飛び起きる。前半戦ではダイナマイトがなかなか起きずに3回鐘が打ち付けられたことがあったが、こちらの後半合宿参加者はより学習意欲に燃えているのかすぐに机に向かう……ほとんどの参加者は。
 なんとかこの日の内に連立方程式を終わらせ、持ってきた理科へと取りかかる。これはいままでの中学生分野の総復習のようなものだったのだが、結果。まったくわからない!
 中学校に通っていた頃はかなり真面目に暗記していたのだが、フリースクールに通うようになってからは学習するのが数学国語英語……社会科は本を読めばなんとでもなるとして、理科だけはどうにもならない。学習自体は細々と続けているため同年代との差はそこまで―理科では―開いていないと思っているが、数学をひたすら進めていたために復習まで手が回っていなかった。家に帰ったならばしっかりやろうと決意したのだが、今これを書いているときも理科に集中して取り組んでいるわけではない。フリースクールに持って行って―高校数学と一緒に―取り組むほかはない。
 学習終了の鐘が打ち鳴らされ、皆が一気に外へとかけ出す。よし、荘内には他の生徒はいなくなった。学習時間中に聞く話でもなかったために聞いていなかったが、レイセンとハラッパラッパに面白い本について聞こう。
 僕が昔、父と一緒に見たまんが日本昔話の「飯降山」について話すと、それならとレイセンが本を薦めてくれた。「蠅の王」。これは後に母からも薦められた本だ。他にトルストイ「人生論」ラッセル「幸福論」ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」「罪と罰」。
 どれか読んだことのあるものは、と思ったが一つもそういったものはなかった。トルストイやドストエフスキーはあちこちに売っていそうだから、見つけたらすぐに買おう。
(後日、古本市の洋書コーナーにて「THE COSSACKS COUNT LYOF N.TOLS
TOI 」という本を見つけ、喜び勇んで買った。「コサック」という題名を見て、てっきりコサック民族についての伝記か何かと思って購入したが、調べてみるとそうではなかった。青春ものの小説だそうだ。)
 裏へのぼって焚き火への参加をしたのだが、一足遅かった。松っつんが配っていたソーセージは全て売り切れ。もう少し早く来ていたのならばいくらかは口に出来たかもしれない。非常に無念だ。
 夕食。毎日毎日茄子ばっかり食べていたからか今回も茄子が出た。嬉しい。嬉しいのだが、これだけ茄子を喰らっているとそのうち自分が茄子になってしまうような気がする。そうはならずともしばらく茄子が食べられなくなってしまうだろう。
 今回の茄子は揚げ浸しではない。レイセン・ハラッパラッパ得意のガパオだ。レタスに包んで食べるということで一番大きいものをとり、ガパオを盛りに盛って包んで食べようとしたのだが、あまりに盛りすぎて持つことが出来ない。それ以前に包むことすら出来ない。すっぱりと諦めて別のレタスをとって包んで食べたのだが、その間にもどんどん下に敷いたレタスに汁が染み入っていく。ようやく食べられるようになったとき、既にレタスは萎んで汁はすべて染み出してしまっていた。冷たい、汁の脱けたレタスを黙って囓るのはなかなか寂しいものだった。
 これが思ったよりも美味かったので2杯3杯とおかわりをしていたら何故か「お残し禁止隊?」やらいう組合へ勧誘されたのだが、いったん再考するということで拒否した。そんなところへ入ったところで、どうせ全て食べ終える前に僕自身が残してしまうのが関の山だろうから、だ。
 その後皆が焚き火をすると思いきや太鼓を持ち出してきた。もっとも太鼓を上手く叩くことはまだ出来ないため、すぐに腕が痛くなる。そのため太鼓を片手で叩きながら読書をすることにした。こうすることで塩野七生の「ローマ人の物語」を読むことが出来たし、集中を他のものへ移したことで手首の痛みもそれほど感じず―意識をむけていないため―にすんだ。結局一時間以上太鼓を叩き続けたのだが、終わった後に猛烈な痛みが襲ってきたためさっさと布団を敷いて眠ることにした。今日は「無敵」はそれほど仕掛けてこない。非常に助かる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?