あめにぬれても

Raindrops are falling on my head雨に濡れてもあなたに会…

あめにぬれても

Raindrops are falling on my head雨に濡れてもあなたに会いたい。散文、ショートストーリー、詩を書いています。

マガジン

  • ショートストーリー文披31題2024

    Xで開催されている文披31題のお題に沿って書いたショートストーリーをまとめています。

最近の記事

自由研究【ショートストーリー】

 チャララチャララ。心弾む音がする。ポテトが揚がったことを知らせるメロディーだ。熱々を口にする。どうしてこんなにおいしいんだろう。じゃがいもの種類か産地か。  フライドポテトについて調べてみよう。大人の自由研究。考えただけでワクワクする。バーガーと一緒に、トレイの上で整列していたフライドポテトは、あっという間に食べ終わってしまった。  フライドポテトの研究はやり尽くされているだろう。結果が同じであれば、研究自体が意味のないものになってしまう。仕事の傍ら、研究に取り組んでい

    • 摩天楼【ショートストーリー】

       本当に欲しいものはなんだろう。ひとつため息をついた。待つ人のない小さな部屋。窓を開けると夏の匂いがした。気を抜くと夜の静寂に負けそうになる。  SNSを開く。自分には縁のない、きらきらとした世界が拡がる。スイーツ、ドリンク、ファッション、アイドル。絶景スポット、流行りの言葉。どれも知らないことばかり。来年の今頃、それを覚えている人はどれだけいるだろうか。  元彼がインスタグラムに家族の写真をアップしていた。顔こそはっきり映っていないが、雰囲気から幸せな生活が垣間見える気

      • トマト【ショートストーリー】

        「お盆は帰って来るの。たまには帰ってらっしゃい。仕事もいいけれど一体いつ結婚するの? 生きているうちに孫の顔を見せて」  母から届いた宅急便の中に、手紙が入っていた。こんなことでまだ気を引こうとするのか。この人はまだわからないのか。結婚なんてできるわけない。母親になれるわけない。子どもを不幸にしてしまう。  大手企業に勤める父のおかげで、何不自由なく育った。母は結婚を機に退職し、その後は専業主婦として生きてきた。貧しい家に育ち、学歴コンプレックスを持っていたようだ。父を立

        • 蚊取り線香

          「来ると思ってた、入んなよ」  何をしにきたのかお見通しだった。外は強い雨が降っている。蒸し暑い夜。傘も持たず、わたしはずぶ濡れのまま彼の家に向かっていた。  着いて直ぐにシャワーを浴びた。彼が絶対に使わないのような甘い香りのシャンプーが無造作に置いてある。知らない誰かのものだ。   彼はシャワーを終えたわたしをバスタオルで包み込むように後ろから抱きしめた。 「やっぱりかわいい」  まるで恋人同士のように戯れあい、そのままベッドにもつれこんだ。  唇が触れ体の芯が熱

        自由研究【ショートストーリー】

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        • ショートストーリー文披31題2024
          20本

        記事

          半年【ショートストーリー】

           ハルくんが帰って来る。わたしは小さな胸を震わせた。やっと会える。待ちくたびれちゃった。早く抱き上げて優しくキスして欲しい。  わたしは文鳥のベル。名前の由来は美女と野獣のヒロインから。鳥に姿を変えられてしまったお姫様。いつかきっと人間になって大好きなハルくんのお嫁さんになるの。あれ?去年も自己紹介したような気がする。鳥だからすぐ忘れちゃうの。  ハルくんがいない時はいつも、実家でお泊りをするの。クーラーがあって涼しいし、いつもよりおいしい鳥の餌を用意してくれる。お母さん

          半年【ショートストーリー】

          窓越しの【ショートストーリー】

           世界的に大流行した感染症で、医療現場は未曾有の事態に陥っていた。薄れゆく意識の中で、患者は何を感じていたのだろう。 「人工呼吸器を使って治療していますが、呼吸状態は悪化しています。正直これ以上治療の手立てがないというのが現状です」 「回復の見込みはないと言うことですか」 「残念ですが、体が治療に反応しなくなってきています」  ナースステーションでは、患者の家族が主治医から病状の説明を受けていた。  今夜は夜勤だ。防護服に身を包んだわたしは、硝子窓の向こう側で患者の

          窓越しの【ショートストーリー】

          岬【ショートストーリー】

          はじめに 暴力的なシーンや内容を扱ったショートストーリーです。 不安、不快に感じられる方はお戻りいただけますようお願い申し上げます。 このお話はフィクションです。  高校に入学した時、母が再婚した。極力関わらないようにしていたが、母が仕事で外出した隙を狙い、男はわたしに近づいてきた。押し倒され、服を剥ぎ取られる。どんなに抵抗しても敵わない。下半身を割くような強い痛みが走り、男は満足そうな表情を浮かべた。それは悪夢の始まりだった。  悪夢は繰り返された。いつしかわたしの

          岬【ショートストーリー】

          エスコン行けなくなっちゃった。かなしい。 おとなしくGAORAの中継で応援します。 写真はお昼過ぎのミュンヘン大橋と藻岩山です。 風が強かった。 元気にはなったけれど、わたし全然笑ってないな。

          エスコン行けなくなっちゃった。かなしい。 おとなしくGAORAの中継で応援します。 写真はお昼過ぎのミュンヘン大橋と藻岩山です。 風が強かった。 元気にはなったけれど、わたし全然笑ってないな。

          さやかな【ショートストーリー】

          小さな子の死を扱ったショートストーリーです。 不安、不快に感じられる方はお戻りいただけますようお願い申し上げます。 このお話はフィクションです。  八月の蝉が鳴く。それはもう懸命に。小さな体で精一杯、生きていることを誇示するかのように。散っていくのを知っていて、強く。そして切なく。  朝から暑い日だった。静まり返る分娩室。泣くはずだったわが子は泣かない。わたしのすすり泣く声だけが響いていた。 「お母さんも赤ちゃんも頑張りましたね」  出産の痛みに耐えるわたしの傍で、手

          さやかな【ショートストーリー】

          定規【ショートストーリー】

          「たくちゃん、バイバイ」 「ばーばい」  掌をこちらに向けず、いつも自分の方に向けてバイバイをしていた。話し始めたのも遅く、なかなか二語文が出なかった。それでもこちらの話は理解できているようだった。  年長になった頃、お兄ちゃんは自然に読み書きができるようになった。その頃のたくちゃんは、自分の名前すら書くことができなかった。お片付けもできない、不器用でハサミを上手く使えない、絵も何を描いたかわからない。お遊戯も歌も色の名前も覚えられなかった。お兄ちゃんとはどこか違ってい

          定規【ショートストーリー】

          チョコミント【ショートストーリー】

           圧倒的な絶望感と渇望感が創作の原動力だった。其れ等を糧にとにかく書いていた。書き始めた頃、ことばはいずみのように溢れていた。今はどうだろう。心は凪いでいる。  豊平川で誰かの亡き骸が、続けざまに発見された。その誰かは、わたしだったかもしれない。そう思うと死ぬのが急に怖くなってしまった。怖気付いたわたしは、あの日を境に少なくとも生きることを選んだ。  もう荒ぶることも、泣き叫ぶこともない。誰かを想い眠れぬ夜も、優しい日々も。心から笑うことも。喉は渇いている。けれどもこのま

          チョコミント【ショートストーリー】

          錬金術【ショートストーリー】

          「今から綿あめ作るよ」  お母さんが箱から何かを取り出して言った。 「小さいスプーンで掬ってここに入れてね」   ザラメを皿の中に入れて少し待っていると、薄い雲のように綿あめが浮き上がってきた。 「見ててね、くるくるするから」  ぼくたち兄弟は目をまん丸にして、息を呑み綿あめがどんどん大きくなっていくのを見ていた。あんなちっちゃいつぶつぶが、綿あめになるなんて不思議だった。 「はい、できあがりー」 「すごーい、すごーい、綿あめだ」 「やったやったー綿あめ、綿あ

          錬金術【ショートストーリー】

          散った【ショートストーリー】

           彼は卒業と同時に東京の大学へ、わたしは地元の専門学校に進学して、遠距離恋愛が始まった。ゴールデンウィークには帰ると言っていたのに、バイトが忙しいと言う理由で帰省しなかった。毎日あった連絡も途絶え、既読無視が続いていた。  ドラッグストアで市販されている検査薬を購入した。震える手でスティックを握り、採尿した。一分で結果が出るらしい。判定窓には、陽性のラインがくっきり出ていた。  どのくらい連絡を待っていただろう。やっと来た連絡は、別れたいというものだった。  信じられな

          散った【ショートストーリー】

          清宮くん。 君にはやっぱり笑顔がよく似合う。

          清宮くん。 君にはやっぱり笑顔がよく似合う。

          ぱちぱち【ショートストーリー】

           好きな人の夢を見た。なんだかとても悲しそうな顔をして、こちらを見ていた。夢の中で彼に会えただけで、何故かわたしはとてもとても満たされていた。本当は会いたくて会いたくて仕方なかった。     男女の友情なんて、あるわけないと思っていた。それでも彼はわたしにとって、唯一友だちと呼べる人だった。恋愛感情はなくても信頼関係はあった。だから知らない誰かとするよりはいい。互いに秘密を守ることができる相手だと知っていたし、それで壊れるよう仲でもない。そう思っていた。  真面目な話もふざ

          ぱちぱち【ショートストーリー】

          ファイターズ勝ちました。昨日今日と劇的で泣きそうです。3カード連続勝ち越し、チームは3位浮上。あとは推しが復調してくれるのを待ちます。信じています。誰よりも努力して、たくさんの困難を乗り越えてきたのですから。あなたがチームの中心で笑う未来が見たい。名も無い雑草にも陽は当たる。

          ファイターズ勝ちました。昨日今日と劇的で泣きそうです。3カード連続勝ち越し、チームは3位浮上。あとは推しが復調してくれるのを待ちます。信じています。誰よりも努力して、たくさんの困難を乗り越えてきたのですから。あなたがチームの中心で笑う未来が見たい。名も無い雑草にも陽は当たる。