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ぱちぱち【ショートストーリー】

 好きな人の夢を見た。なんだかとても悲しそうな顔をして、こちらを見ていた。夢の中で彼に会えただけで、何故かわたしはとてもとても満たされていた。本当は会いたくて会いたくて仕方なかった。 
 
 男女の友情なんて、あるわけないと思っていた。それでも彼はわたしにとって、唯一友だちと呼べる人だった。恋愛感情はなくても信頼関係はあった。だから知らない誰かとするよりはいい。互いに秘密を守ることができる相手だと知っていたし、それで壊れるよう仲でもない。そう思っていた。

 真面目な話もふざけた話しもする。そして体を重ねる。絶妙なさじ加減で付き合って行けたなら、大事な友だちを失わずに済んだかもしれない。そんなにうまくいくはずはなかった。

 セックスをしてから、わたしは彼を好きになってしまったけれど、彼はわたしを好きにならなかった。ずっとずっと友だちのまま。

 急いでいたから、わたしだけシャワーは浴びずに服を着た。ホテルを出て彼の車に乗り込む。

「今日で終わりにしよう」

 切り出したのは、わたしだった。彼は驚いた顔で二、三回瞬きをした。

 「わたしね、幸せになりたくなったの」

 病める時も健やかなる時も、晴れの日も雨の日も二人で愛を育てたい。生活だから良いことばかりじゃない。家族って面倒くさくて、もどかしい存在。傷つけ合うことがあっても、それでもわたしは自分を愛してくれる人と家族になりたい。そんな人と恋をしたい。

「幸せじゃなかったの?」

「ううん幸せだった」

 その言葉に嘘はない。札幌から離れた街でおいしいパスタを食べたこと、生まれた街に連れて行ってくれたこと、下の名前で呼んだこと。わたしを抱いてくれたこと。永遠なんて言葉より何よりも今が大切だった。

 夜が明ければ瞬く星も消えてしまう。触れてしまった以上、いつか終わりは来てしまう。

 蒸し暑い夜に、炭酸水のキャップを開けた。思い出ごと、ごくりと飲み干す。ぱちぱちと泡が綺麗に弾けていった。

 責めたりしないよ。気持ち良かったよ。
 大丈夫。 

 わたしもカラダだけだったから。


 きっと今度は幸せになる。



文披31題Day9「ぱちぱち」
瞬き
シャッターを切る
焚き火、花火、拍手
オノマトペから連想する言葉
どれもしっくり来なくて
辿り着いたのは
【炭酸水の泡がぱちぱち弾ける】
強引にぱちぱち三点セット
彼の瞬きと星の瞬きも添えました
オノマトペのお題好きです

お題で書く時、連想する言葉から膨らませて書くことが多いです
詩も同じように書いています


Day6「呼吸」
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