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ミスターパイナッポー

 そのパイナップルとの出会いは運命だった。
 スーパーの果物売り場に並べられていた一つのパイナップル。これまでの僕は、パイナップルを食べたくても、すでに切り分けられた果肉のパック詰めを選んでいた。かさばるし、切るのが面倒だからだ。
 しかし、今回の僕は違った。そのパイナップルに目が止まった瞬間、稲妻が全身に走った感覚に陥り、動けなくなってしまったのである。
 山積みにされた中の、一つのパイナップル。果肉を包む棘のある表皮は、鎧のように雄々しい。そして、天を突き刺す刃のごときヘタ。このパイナップルは果物ではない。勇敢な戦士だ。
 こうして、僕は生まれて初めて、パイナップルを丸ごと一個買った。
 買ってはみたものの、この勇敢な戦士であるパイナップルを、僕が食べてもいいのだろうかと、気が引けてしまう。
 キッチンで悩んでいると、パイナップルから声がした。
「我を食せよ。さらば、汝は戦士とならん」
 僕は、意を決して包丁を手にした。
 まずは、ヘタを取り除く。果肉の中心から、ハワイアンミュージックが鳴り響いた。僕の中から不安や恐れが消え去っていく。
 皮を剥く。瑞々しい果肉が露わになる。甘い香りが溢れ出し、僕は思わず果肉を口に入れた。
 甘酸っぱい果汁が舌の上で広がり、果肉は喉を通過していく。腹の底に落ちた辺りで、血潮が沸き立つのを感じた。血が騒ぐとはこういうことか。
 僕はパイナップルのヘタを、王冠のように自らの頭上に載せる。
 霧が晴れていくようだった。これまでの悩みなど記憶から消えてしまうほど。今後は、どんな困難だって打ち破れる自信がある。僕は誰にも負けやしない。
「うおおおおお」
 僕は、扉を蹴破って外へ飛び出した。僕、いや、俺だよ、俺。
「俺はミスターパイナッポーだあああ」

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