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冷蔵庫のプリン

 冷蔵庫にプリンが一つ残っている。僕は妻と二人暮らしなので、三個セットを買うと一つ余ってしまうのだ。
 僕と妻は、プリンが大好きである。だから、買い物にいくと、ついついプリンを買ってしまう。
 日曜日、僕らは買い物に行き、いつものようにプリンを探す。二つ買えばよかったのだけれど、その時は、たまたま三個セットのものしか置いていなかった。夕食の後、それぞれ一個ずつ食べた。
 月曜日、仕事から帰り冷蔵庫を開けると、まだプリンがあった。
 火曜日、仕事から帰り冷蔵庫を開けると、まだプリンがあった。
 水曜日、仕事から帰り冷蔵庫を開けると、まだプリンがあった。
 木曜日、仕事から帰り冷蔵庫を開けると、まだプリンがあった。
 金曜日、仕事から帰り冷蔵庫を開けると、まだプリンがあった。
 僕は、妻にプリンを食べてほしかった。だから、手をつけずにいるというのに、プリンは冷蔵庫の二段目の隅。日曜日に置いた場所と変わらずにそこにある。
 僕はプリンの蓋に明記してある、賞味期限を確認する。今日である。
 たまらず、僕はソファで読書していた妻に
「プリン、食べていいんだよ」
 と声を掛けた。 
 すると、妻は読書していた本から視線を外すことなく、まるで、プリンに興味などないかのように
「あなたが食べたらいいよ」
 と答えた。
 妻が僕と同じくらいプリンが大好きなのは知っている。おそらく、妻も僕に食べてほしくて、プリンに手をつけずにいたのだろう。このままでは、お互い譲り合いになってしまい、プリンの賞味期限が切れてしまう。
 僕は小皿を二つ出した。プリンを半分に分けることにしたのだ。
 半分、と言っても正確に半分ではない。片方は少しだけ大きめに。僕にしかわからないように、こっそりとだ。
 大きいプリンを君に譲る。

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