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掌編小説

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#雨の日をたのしく

雨の檻

雨の檻

 潮騒の音で目が覚めた。
 目覚めると、そこは海ではなく寝室だった。しかし、いまだに潮騒が聞こえる。ベッドから起き上がり、カーテンを開けると、鼠色の雲に覆われた街があった。窓ガラスにぶつかる雨粒は、鉄格子のように滑り落ちていく。
 潮騒ではなく雨の音だったと気づき、僕は現実の朝に引き戻される。せっかくの休日なのに、この雨では外に出る気にならない。もし晴れていたら、もし僕に翼があったら、もし僕の気持

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翼を拭く

翼を拭く

 あなたの背中には翼がある。
 それは大きな翼だった。今日みたいな雨の日は、差した傘からはみ出してしまうほど。だから、濡れた翼で帰ってくるのである。
「ただいま」
 玄関で佇むあなたの両翼からは雫が滴り、足元には水たまりが生まれている。水面には、抜け落ちた羽根が数本浮かんでいた。
「おかえり」
 私はタオルを手に出迎える。あなたはいつものようにくるりと背を向け、玄関の上がり框に腰を下ろした。大きな

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