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掌編小説

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2022年4月の記事一覧

ムシケラ

ムシケラ

 川沿いに続く桜並木。満開の桜は青空から降り注ぐ光で輝いている。砂の雑じった乾いた風が桜の花弁を散らし、私の運転する自転車のカゴに降り立った。
「一緒に通勤しようか」
 声にならない声で花弁に提案する。
「君の新しい職場、見てみたいよ」
 花弁が答えた。
「期待はしないでね」
「新天地じゃないか」
「そうだね」
 自転車のペダルを踏み込む。
 勤め始めて一週間ほどの新天地は、自転車で十分もかからな

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