「大切なお知らせ」という暗転ワード

誰かの、何かのファンをやっていれば、人生で一度や二度「大切なお知らせ」というものを突きつけられる時がくる。今でいうとメルマガのタイトルだったり、SNSの文章だったりが目に映った時の、あの背筋がひんやりと凍りつく感覚。きっとわかる人は多い。

「大切なお知らせ」はもう、ほとんど赤紙。

「大切なお知らせ」は、イコール「悲しいお知らせ」で、嬉しいお知らせだった試しがない。ファンにとっては、戦中の赤紙みたいなもので、多かれ少なかれ絶望を感じ、口では「メンバーが幸せならそれでいい!」的なことをいったとしても、本心はしばらく立ち直れない。

そんな「大切なお知らせ」が、本日わたしのところにも届いた。
わたしが10代の頃から好きな「Kra(けら)」というバンドで、初めてのライブハウス、初めてのインストアイベント、初めての握手会、初めてのファンクラブイベント、初めての…という具合に、とにかくわたしに沢山の初体験をさせてくれたバンドである。
ビジュアル系にしては珍しく、これまで1人しかメンバーチェンジがないまま、来月には結成17周年を迎える。PSカンパニーという、ガゼットやKagurra,、アリスナイン(A9)などなどネオビジュアル系の一時代を築いたバンドが所属する事務所にいながら全く売れず(爆)、他のバンドが武道館やらアリーナ公演をやりまくる中、がんばってファイナルはホール、という規模で17年やってきた。
それでも、わたし個人にとっては人生で最も多くライブを見ているバンドだし、どれだけ友達が離れていってもわたしだけはCDを買い、ライブに行き、一応ファンクラブも続けている。これだけ長く好きでいるアーティストは他にいない。メンバーをあだ名で呼んでいるバンドももうKraしかいないし、そういう意味では音楽としてだけでなくメンバーを一人一人の人間として見ている唯一のバンドだ。
大きく影響を受けたアーティスト、という感じではないけれど、15年間じわじわとわたしの血となり肉となり続けた。言うなれば「母の味」みたいなものだ。

「脱退」

そんなKraから、二度目の脱退のお知らせが届いた。
わたしがここまで言うなら解散かと思っただろうし、わたしもiPhoneの通知バナーにメルマガのタイトルが表示された瞬間それを覚悟したけれど、脱退ということらしい。大げさですみません←

4人組のKraから2人が脱退する。
一人は7年前、初期メンバーのギター舞(まいっちょ)が脱退後、新メンバーとして加入したタイゾ。私たちファンからしたら恩人のような人だ。彼がいなかったらもうKraはとっくになくなっていたかもしれない。
多くの曲を作り、コンセプトである「ファンシー&メルヘンロック」の根幹を担っていたまいっちょが辞め、ファンが皆それを心では受け入れられないでいる中、まいっちょに対するリスペクトと自分らしさを織り交ぜて、非常にバランスよくギターを弾いてくれた。
こんなうだつの上がらないバンドに、わたしと同年代のやる気満々なメンバーが入るのは心が痛かった(どの立場)けれど、彼は沢山の素敵な音楽を聞かせてくれたし、彼を悪く言うファンは一人もいない。
(だからこそ脱退のメッセージは、本当に辛かった)

そしてもう一人は17年間Kraでドラムを叩き続けた靖乃(やすの・のってぃ)。最年長で、唯一のKra以前のバンドがある初期メンバー。インディーズ時代は当時かなり珍しかったピンクの髪で、Kraといえばおぴんく様的なイメージを作ってくれたし、独特の節はKraの音楽を一層印象的ものにしてくれた。KY的なところもあった(笑)けど、バンドはドラムがうまくないとまとまらない。まさに縁の下の力持ちだった。
社交性がいまいちなメンバーの中で、他のバンドと仲良くしたり、縦横のつながりを大切にしていたのも、彼がいて本当に良かったと思う理由のひとつだ。

正直言うと、タイゾくんはいつか辞めるかもしれないという気がしていたけれど、のってぃは一生Kraをやるだろうと思っていた。Kraじゃない、ドラマーじゃない靖乃なんてこの世には存在しないだろうと思っていた。
引退しそうな文章を読んで、なんだか喪失感が募る。
もしかしたら実家の玉ねぎ農家を継ぐのかもしれないし、例えば子供(いるか知らないけど)が病気になってもっと稼ぎのある仕事に就かないといけなくなったとか、私たちにはわからない事情があるんだろう。

音楽業界から足を洗う

ミュージシャンがそれを辞めて一般の世界でやっていくのは、本当に大変なことだと思う。多くの人は学生時代から音楽漬けで一般常識を学んでないから、普通の仕事に対する常識もない。年相応の仕事っぷりを求められてもできない。スポーツ選手なんかもそうで、知り合いのプロスポーツ選手は、引退後「エクセルってすごい」なんて言っていた。うちのアーティストはICカードすら持ってないし、一般的な仕事という面で話が通じないことはざらにある。浮世離れしているのだ。
もちろん一般の仕事をしている友達はいるだろうけれど、友達と会うときに相手が全然理解できない仕事の話をする人などまずいない。きっと甘く捉えているところもあるだろう。よく野球選手が引退後お店を出して失敗するのはこういうことだと思う。

引退したあとは、きっとすごく苦労する。第二の人生波乱万丈間違いなし。
でもとりあえず、応援しようと思う。どこで何をやるか知らないし、もし引退してしまったら会うことはないだろうけど、でも、これだけ長く好きだった人には幸せになって欲しい。

Kraとわたしの15年間。そして、これから。

15年も見ているので、もはやミュージシャンとファンというより、親戚のような気持ちだったりする(笑) だって15年って人生の半分と言っていい。
気持ち的にはいとこみたいな感じだけれど、もしKraの音楽を「母の味」とするなら、今回の脱退は親の離婚ということになる。あって当たり前だったものが崩れる。それくらい大きなダメージを受けた。

もうこうなったら力尽きて解散するまで、好きで居続けようと思う。
タイゾくんとのってぃはKraという家から出て行くけれど、
景夕・結良のKraはきっとこれからも続く。
どんな形になるかわからないけれど、続く限りは応援したい。

願いは変わらない。Kraがこれからもずっと続きますように。ただそれだけだ。

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