見出し画像

『バス』を書いた作詞家に不思議な旅に連れて行かれた

バスを歌詞にした人々。くじら氏、n-buna氏、米津玄師氏、松本隆氏、宮崎駿氏、中川李枝子氏、吉幾三氏。歌詞を並べて読んでみたら不思議なバス旅が始まった・・・。


私は普段から、ちょくちょくバスを利用する。昔から使っているので、気持ちの上がり下がりはない。でもバスに乗るには何かしらの用事があり、その内容によっては、気分がまるで異なる。

乗車している人たちも、静かな人が多いのだが、その表情に喜怒哀楽を忍ばせているように感じることがある。

そういえば、『バス』を歌詞に使っている曲がいくつもある。どんな気持ちを表しているのだろう。

ということで、調べてみることにした。


調べ始めてみると、『バス』を使った曲は予想どおりに大量にあり、読み切ることができないくらいだった。そこで、独断と偏見で6曲選び出し、『バス』の部分をピックアップした。

なお、曲順は新しい順にした。バス歌詞の歴史を感じることが出来るかもしれない。




1.Ado『花火』作詞:くじら 2022年

どうしたって平凡な日々で
もう嫌って言えば楽なのに
バスを待っている間にふと考える未来の事
どうしたって零点な日々で
もういいやって言えば楽なのに
寂しくなった心の中


2.ヨルシカ『ただ君に晴れ』作詞:n-buna 2018年

夜に浮かんでいた
海月のような月が爆ぜた
バス停の背を覗けば
あの夏の君が頭にいる だけ


3.米津玄師『乾涸びたバスひとつ』作詞:米津玄師 2012年

小さなバスで暮らしている少女は いつでも待っている ひとり
呆けた色に変わっている緑の木目と蛍光灯 ひとり


4.KinKi Kids『硝子の少年』作詞:松本隆 1997年

雨が踊るバス・ストップ
君は誰かに抱かれ
立ちすくむぼくのこと見ない振りした


5.井上あずみ『となりのトトロ』作詞:宮崎駿、中川李枝子 1987年

雨ふり バス停
ズブヌレオバケがいたら
あなたの雨ガサ
さしてあげましょ
森へのパスポート
魔法の扉 あきます
となりのトトロ トトロ


6.吉幾三『俺ら東京さ行ぐだ』作詞:吉幾三 1984年

朝起ぎで 牛 連れで 二時間ちょっとの散歩道
電話も無ェ 瓦斯も無ェ バスは一日 一度来る
俺らこんな村 いやだ 俺らこんな村 いやだ



6曲に共通することとして、『日常』の象徴的なアイテムとしてしていることだと思う。

もしもバス以外の乗り物として、飛行機や船を歌詞に使えば、特別な状況を表すアイテムになっているものである。

日常の変化をあらわす歌詞があり、日常を否定する歌詞もある。日常を大きく揺さぶるのだ。

バスを語る歌詞は、平常心をグラグラと揺さぶってくる。



6つの歌詞とも感慨深いのだが、何箇所かコメントしたい。

まず、1.Ado『花火』作詞:くじら
ここにピックアップした6行は前半3行と、後半3行とが対になっている。前半と後半を似せていながら、巧妙にずらしている。
前半3行では揺れ動く心を『未来』という言葉に集約させる。後半3行では揺れ動いた心を『寂しい』という言葉に集約させる。
ハッとさせられた。
若さを深く掬って、思いもしない2本の線を触れさせようとしている。歌詞が美しい。


次は、4.KinKi Kids『硝子の少年』作詞:松本隆
失恋の場面を書いた3行で、ガラスの心を粉々にしている。
1行目は『雨が踊る』という、きれいな映像を描いている。失恋なんて早く忘れたくなるものなのに、きれいな映像でラッピングするほど忘れづらくなくなる。
2行目では、『僕の知らない誰かに君は抱かれている』。男心からすると(女心も同じ?)、知らない誰かに取られると、ダメージが極端に大きい。
そして3行目。『君は僕を見ない振りした』。この1行には、見ない振りをした理由が書いてない。優しさで見ないふりをしたのか、蔑む気持ちで見ないふりをしたのか、僕の動揺を楽しんでいるのか。答えなど出ないものなのに、答えを探して考えてしまうものだから、少年はそうとう、苦しい。
ということで3行連続で少年の苦しさを書いている。
私は大人だけど、少年の心を失ったわけではない。いつ読み替えしても、ガラスが割られる気がする。


次は、6.吉幾三『俺ら東京さ行ぐだ』作詞:吉幾三
コミックソングだけれども、短い言葉を重ねているところはラップに似てる。
また歌詞の中で『ここが、いやだ!』と最強の言葉を繰り返してるのがユニーク。
『いやだ!』を表明することは恥である、とされている世の中で、『いやだ!』を連呼している歌詞は、突き抜け感がでてきて、気持ちがいい。



さて、私(雨語入門)も『バス』を扱った詩を書いた。題名は『緑色』。

7. (付録)雨語入門『緑色』

バスの揺れは
僕から言葉をふるい落とす
草原の真ん中で
下車をした

風に立ち
雨に濡れると
僕の肌の色は
草の色になった



最後までお付き合いいただきありがとうございました。

『便箋(便箋)』の歌詞を扱った記事も書いてます。


今回の記事で使わせていただいた曲の収録されているCDを文末に掲載しました。ジャケットも素敵です。お楽しみください。

バスの思い出、ありますか?
バスの曲で思い出すものありますか?
よろしければ、コメントに書いてください。


Ado『花火』5曲目に収録


ヨルシカ『ただ君に晴れ』7曲目に収録


米津玄師『乾涸びたバスひとつ』11曲目に収録


KinKi Kids『硝子の少年』ディスク1の1曲目に収録


井上あずみ『となりのトトロ』5曲目に収録


吉幾三『俺ら東京さ行ぐだ』ディスク1の10曲目に収録






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?