【エッセイ】屋根を歩いた生物
ある夜、音が聞こえた。
上からだった。
長い間、この集合住宅に住んでいるので、ときどき隣家の生活音は聞こえる。けれど、最上階の3階に住んでいるので上から聞こえてくる音は初めてだった。不思議な気持ちで天井を見上げた。
音は乾いていて、カシャカシャ、チャカチャカ…とする。泥棒の足音を聴いたことはないけれども、重々しい雰囲気はなかった。
人間以外の何かが屋根にいると予感がした。天井を見上げながら音の発生を追いかけると、その何者かは、屋根の下の人間のことを知らずに、動き回っていた。