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『心残り』を使った歌詞は溶けるほど甘くて、火を吹くほど辛い


心残りを歌詞にした人々。ハチ氏、GReeeeN氏、平原綾香氏、秋元康氏、荒木とよひさ氏、加瀬邦彦氏。歌詞を並べて読んでみたら甘くて辛くて、泣けてきた。


知らないうちに多用している言葉がある。
お気に入りの言葉だからなのだが、口癖になり、書き癖になっている。あまりも使いすぎていることに気がつくと、しばらく禁止しようと自制する。

でも、そうやって自制する言葉が増えると、使える言葉が減ってしまう。そこで、今まで使っていなかった言葉を使おうとさがし始める。ここ何年もそうして過ごしてきた。
ノートに縦の線を引き、左には禁止する言葉を書き、右には今後使っていきたい言葉を書く。
新しく右に書いた言葉は、『心残り』である。ノートに書いた文字を丸で囲って目立たせている。

この言葉は子供の頃から知っていたけれども、暗くてじっとりとしたイメージがあったので、使ってこなかった経緯がある。でも大人になってみると、そういう思い込みに縛られていたイメージから、自由になるための試みをしたくなる。

歌詞の中で『心残り』はどうやって使われているのだろう。調べたくなってきた。


調べ始めてみると、『心残り』を使った曲は複数あったので、独断と偏見で6曲選び出し、『心残り』の部分をピックアップした。

なお、曲順は新しい順にした。心残り歌詞の歴史を感じることが出来るかもしれない。




1.ハチ feat. 初音ミク『砂の惑星』作詞:ハチ 2017年

イェイ今日の日はサンゴーズダウン つまり元どおりまでバイバイバイ
思いついたら歩いていけ 心残り残さないように
イェイ空を切るサンダーストーム 雷動響かせてはバイバイバイ
もう少しだけ友達でいようぜ今回は


2.GRe4N BOYZ『空への手紙』作詞:GReeeeN 2009年

「さよなら」も言わずに別れ 心残りもあるけれど
アナタのことだからきっと 笑って見てるんでしょう
あれから月日流れて今 変わらない笑顔見せたいから
心配だけはかけないよ 僕も頑張れてるよ


3.平原綾香『AVE MARIA ~カッチーニ~』作詞:平原綾香 2009年

今を生きている それがこの私の真実
信じることの灯火で 心残りだけを燃やして
愛からすべてがはじまるように
すべてが愛で終わりますように
死ぬまで 音楽と共に生きるために
どうか私に力を


4.布施明『ア・カペラ』作詞:秋元康 2001年

静かに消えてゆく影が
最後まで心残り
引き止めてしまいそう
戻れない砂時計


5.テレサ・テン『つぐない』作詞:荒木とよひさ 1984年

心残りは あなたのこと
少し煙草も ひかえめにして
過去に縛られ 暮らすことより
わたしよりも可愛い人 探すことよ


6.アン・ルイス『女はそれを我慢できない』作詞:加瀬邦彦  1978年

夏には夏の陽に焼けた
男を探してひとあばれ
おまえもどこかでいい女
さがしておいでよ 今すぐに
もたもたするなよ
おまえの涙はもうあきた
心残りはあるけれど 季節変りの恋女


心残りの意味を国語辞典で引いてみると、不満、失敗、未練などの意味が目立つ。私自身もその意味だと思いこんでいた。

でも、この6曲の歌詞を眺めてみると、そういう意味は薄い。それよりも、思いやり、気遣いに使われていた。それは私が見落としてきた演出だった。

心残りを相手への優しさで使うと、切ない歌詞になるのだと気づいた。

6つの歌詞とも良いものなのだが、何箇所かコメントしてみる。

もしかしたら私は歌詞の解釈を間違えてるかも知れません。でも、これは歌詞を読んだ感想文です。温かい目で見ていただければ幸いです。

まず、2.GRe4N BOYZ『空への手紙』作詞:GReeeeN
この歌詞全体では愛する人が死別してしまって、月日がたっても愛する気持ちも悲しみも変わらないという内容になっている。
今回、取り上げた4行は歌詞のラストの部分で、きれいな言葉が続いているけれども読み流してしまってはもったいない。2行目に「笑って見てるんでしょう」と推理するような言葉があり、3行目には「笑顔見せたいから」と理由のような言葉がある。
歌詞を組み合わせているようなのは分かるけれども、その形がなかなか分からなかった。
それで、あれこれ頭を捻ってようやく思いついた。
これはまだ「笑顔になれてません」ということ。頑張ってるけれども、笑顔になれないくらい悲しいということ。
笑顔を2つの角度から語ることで、笑顔になれないを表している。


次は、5.テレサ・テン『つぐない』作詞:荒木とよひさ
男から見た女の理想像になってる。4行で4つの甘さを重ねている。
「愛してます」「お体を大切に」「あなたを縛りません」「わたしよりも可愛い人を探すことよ」多種の甘さに、こんなふうにせめられたら男は骨抜きにされる。
一般的に別れの場面は修羅場になりがちなのだが、この歌詞は天国の別れ場面。
4行目について。令和の現在『可愛くてごめん』という曲があるのだが、言葉の使い方が似ている。自分のことを可愛いと言ってしまう女、不思議だ。昭和にもあった不思議感覚。

6.アン・ルイス『女はそれを我慢できない』作詞:加瀬邦彦
この歌詞も別れの場面。しかも、強烈に強い女が、弱い男を捨てる。7つの からさを重ねている。
個人的には懐かしい言い回しなのだが、今から46年前であることと、たぶん江戸弁のくせのある威勢のありすぎる言葉なので、現在の社会では使いづらい気がする。私も意識して使わないようにしている。例えば「男を探して」「ひとあばれ」「いい女」「もたもたするな」「おまえ」「もうあきた」。
表向きでは禁句になってしまった言葉だとしても、使い方を工夫すれば、まだ活かせるはずなので、個人的に試行錯誤して使ってみようと思っている。


さて、私(雨語入門)も『心残り』を扱った詩を書いた。題名は『風にあの人』。

7.(付録)雨語入門『風にあの人』2024年

風に吹かれた髪が不意に
あの人の指を思い出す

人と話すことが苦手になったし
生き方は不器用に落ちてしまった

でも私はこれから
幸せを探してみます
そしていつか風になっても
あの人へは吹かないつもり

心残りを断つために
切り離した細い髪は
風に空へと運ばれた


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

心残りの思い出、ありますか?
心残りの曲で思い出すものありますか?
よろしければ、コメントに書いてください。

『バス』の歌詞を扱った記事も書いてます。

名曲の歌詞を集めて比較検討するシリーズも、今回で4回目です。以下ではシリーズを一覧してます。他の記事も楽しんでください。

このシリーズを、もう少し書いてみたいと思います。次回は『人魚』を予定しています。お楽しみに。

Amazonの広告を少し貼らせていただきました。
私はイヤホンで音楽を聞くことが多いです。ビールは大好きです。スマートスピーカーは使ってないですが、興味あります。

ではまた。


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