光の玉

 これは、私の小学校の頃の話である。その夏の日、塾に行くために、夕方のたんぼ道をひとり自転車で走っていると、青白い光の玉が、ふわりふわりと目の前を飛んでいた。私は、たしょう、不思議に思ったが、その光の玉の動きが、何だか面白かったので、その後を追いかけた。すると、その光は、一瞬、焦ったように、ボット赤い火柱をたてるやいなや、慌てて逃げ出した。私は、いよいよ、面白くなり、せっせとペダルを踏んでその光を追いかけた。光の玉も、負けじと、赤い光の糸をひきながら、一目散に逃げて行く。そして、100メートルくらい、そんな風に追いかけごっこをしていると、やがて、たんぼ道の外れに出て、一軒の古い農家が見えてきた。すると、光の玉は、その農家の中に吸い込まれるように、すっと入って行ってしまった。私は悔しくて、農家の前で、地団駄踏んでいたのだが、ふと戸口を見ると、そこには「忌」と書かれた紙切れが、貼り付けられていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?