日本人形

 大阪の商人にAというケチな男がいて、そのAが、知り合いから赤い着物を着た古い日本人形を譲り受けた。その知り合いが言うには、これは、ある有名な人形職人が作った人形だから、質屋へ行けば、きっと高値で買ってくれるはず、との事。ケチなAは大喜び、早速その人形を持って質屋へ行った。人形は、古いにも関わらず保存状態もよく凝った作りだったから、質屋の主人は大変気に入り、10万で買った。
 そして、ある日、金に困ったAが腕時計を売るつもりで、再び例の質屋に行き、店に入った。すると、
「この前のお客さんですね。金は要らないから、あの人形を持って帰ってくれ」
と、主人が目つきを変えて言う。
「どこか具合の悪いところでもあったのですか」
「ともかく気味が悪いんだ。一日中、赤い着物を着た女の子が、見ているんだよ。ほら」
と、表の通りに突き出た窓ガラスを指差す。
 Aが窓ガラスを見ると、そこには、ガラスにぴったり両手をつけて、窓の向こうから、じっとこっちを見つめる冷ややかな女の子の顔があった。
 Aが後で探ると、その人形は、人形職人が5歳で病死した一人娘の姿を模して作ったものだった。


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