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「すべては考察から始まる」芸能ライター田辺ユウキさんに学ぶ取材力

本記事は、5月26日に開催された「関西ライターズリビングルーム」のオンラインレポートである。

今回の登壇者は、芸能ライターの田辺 ユウキさん

田辺さんは、俳優やアーティスト、タレント、アイドル、芸人、格闘家など、約2500組のアーティストを取材してきた。

華やかな現場を想像するが、必ずしもよい環境下で行われるとは限らないという。まず、まとまった取材時間がもらえない。分刻みのインタビュースケジュールや、合同取材なんていう場合もある。『わずか10分のインタビューなのに、メディアの指示は4000文字なんてザラ』というのだから戦々恐々だ。

また、事務所に所属しているアーティストであれば、原稿チェックもことさら厳しいものである。

そんな過酷な条件のなか、田辺さんは日々膨大かつ質の高い記事を生み出し続けている。本イベントの主催者である吉村 智樹さんが聞き手となり、田辺さんの取材の技術について聞いた。

考察記事は月5本、原稿本数は20本を超える!?

田辺さんは現在41歳。ライターとして20年のキャリアを持っていらっしゃる。「新聞記者になりたかった」という田辺さんのスタートラインは、月刊誌『関西ウォーカー』の編集者だった。そこで経験を積み、フリーの映画ライターに転身。映画にとどまらず、様々なメディアで芸能ネタの考察、評論、インタビューの記事を担当してきた。現在はLmaga、REALSOUND、GOOD ROCKS、SPICE、文春オンラインなどに寄稿している。

イベントの冒頭、関西弁の吉村さんが質問を投げかけた。

「担当されているメディアを見ると、田辺さんのインタビュー記事ってめちゃめちゃ数が多いですよねぇ。いったい月にどれくらい書いていらっしゃるんですか?」

これを受けて、田辺さんもまた関西弁で答える。

「考察記事は月5本くらいで、原稿本数は20本を超えますね」

月20本……! それもひと記事3000文字以上で、下調べ・取材・執筆を一手に担っているとはすごい。田辺さんのインタビュー記事を読むとわかるのだが、他のインタビュー記事にはない深さや熱量を感じる。

そもそも、映画ライターだった田辺さんは、なぜ芸能ライターと名乗るようになったのか?

「ライターとして独立してから、映画よりも他のジャンルの記事を書くことが増えたんです。それなのに肩書きが“映画ライター”っていうのはおかしいなと思い、“芸能ライター”と名乗るようになりました。

映画や音楽のような、大衆的なカテゴリーだけでやっていくのって難しいんです。僕が住んでいる関西では、映画ライターや映画評論家といいつつ活動できてない方がほとんどです。全国的に見たらもっと多いかもしれません。僕自身も、選択肢を増やしていかなきゃと思っていました」

幅広いエンターテイメントのコラム、インタビュー記事を得意としてきた田辺さん。その選択で、着実に仕事の幅を広げていった。

手越祐也さんの取材の場合

イベントの中盤では、田辺さんが担当した記事について話が進み、吉村さんはこう質問した。

「私が気になったのは、手越祐也さんの記事です。ちょうど手越さんがNEWSを脱退されて久しい頃のインタビューでしたよね。このインタビュー時間はたったの10分だったそうじゃないですか。それなのに、内容の濃い記事で。いったいどんな取材だったんですか?」

「手越さんは、なんとなくチャラいイメージがありますが、とても丁寧な方でしたね。人に迷惑をかけないようにと、つねに意識されている方だと感じました。

この取材はイベントの合間のインタビューということで、いただけた時間は10分、取材の本番は少し伸びて13分くらいだったかな。たしかに時間は短いですが、10分あれば一つの記事として書ける自信はありました。下準備をして、情報量を詰めていけば大丈夫だと思います」

田辺さんは手越さんに取材するときに、『独立会見の裏話は必ず聞こう』と思っていたそうだ。なかなか聞きづらい内容だと思うのだが、どのように聞いたのか?

「僕は基本的に、ぶつ切りのようなQ&A形式のインタビューは絶対にしません。話の流れを会話として作りながら、『昨年のこれって……』みたいな感じで持っていきます。

僕は映画の宣伝の仕事もしていますが、そこで色々なライターさんの取材に立ち会います。これは、他のライターさんをディスるわけではないんですけれど、『この質問しました。じゃ、次はこの質問……』みたいな、繋がりのない質問をする方って、けっこう多いんです。

傍から聞いていると、ものすごく不自然だなって。文章にしたときも、リズム感の悪い記事になると思うので、取材ではすべて”会話”になるように意識しています」



菅田将暉さんの取材の場合

取材エピソードは、菅田将暉さんの記事にも及んだ。好評だったというこちらの記事。菅田将暉さんの人となりが色濃く出ているように思う。そこには、田辺さんのオリジナルの考察があった。

「菅田将暉さんは、映画『帝一の國』の告知のためにいらっしゃっていました。主人公の菅田さんが勝者と敗者の間で奮闘する作品なのですが、そもそも菅田さんって……勝ち組じゃないですか(笑) それなら、『この人の負ける姿って、みんな知りたいんじゃないか?』と考察してみたんです。そこで、菅田将暉さんの負けるお話をメインに組み立ててみようと思いました」

それを聞いた吉村さんは、「なるほど。最初にこの人のインタビューはこう攻めよう、みたいな戦略を立てているわけですね?」と確認。

「もちろんです。手ぶらでは絶対に行かないです。読者は俳優さんの演じているところしか見てないわけですから、その裏側ってどうなのかっていうことを引き出せるように準備していきますね」と田辺さん。

そのほかにも、つんくさんや新日本プロレスの棚橋弘至選手へのインタビュー記事にも話が膨らんだ。どのエピソードも、田辺さんの深い考察力から引き出されたことがうかがえた。

「当日までに、記事のピークにする質問を1つか2つ作ってインタビューに臨みます。逆にありきたりな質問は、原稿に使わないようにしていますね。俳優さんであれば、『役作りはどうしましたか?』みたいなよくある質問はしません。実際に作品を観て、その役作りを理解した上で考えをぶつけるのが本当の質問だと思っています」

知識と愛着でインタビューする記事って……

田辺さんと吉村さんのテンポの良いやりとりも、そろそろ終盤だ。ここで吉村さんが「ときには世の中にあまり知られていないアーティストや愛着が持てない方もいらっしゃるんじゃないかと思うのですが、そんな場合でも受けられます?」と切り込む。

「基本的にはどんな方でも受けますね。愛着は……あんまり持たないようにしています。聞き手の愛着って取材相手は嬉しいかもしれませんけど、仕事には関係ないと思うんです。

これは個人的な意見ですけど、知識と愛着でインタビューする聞き手の文章って、どことなく不快な感じがします。タメ口だったり、わかってます風だったり。

たとえよく知る方のインタビューであっても、できるだけ自分の思いというのは消すようにします。一番大切なのは、アーティストの作ったもの、そして人となりですから

芸能ライターになるためには?

最後の質問コーナーで、ありがたいことに私の質問にも答えていただいた。

どうしたら芸能インタビューの仕事がいただけるのでしょう? 仕事を得るために、どんなことに励まれましたか?

「そうですね。よく編集者さんに言われることは、『田辺さんは取材を断らない。専門分野外であっても受けてくれる。そして、ちゃんと基準をクリアしてくれる』と言われます。それは、ずっと意識していましたね。

励んでおくとよいのは、役に立つかどうかは別として、いろんなものを広く浅く知っておくこと。最近はいろんな配信サービスがあります。NetflixやAmazonプライムなど、使えるものは使いましょう。テレビ番組は録画をしておいて観るのもお勧めです。旬な情報を逃がさないようにするところから始まっていくと思います。

もう一つは、考察をやめないこと。僕はたいてい事象に触れたら批評します(笑) 正しくなくたっていいんです。自分の感じたことをSNSに1回出してみるのもいいと思いますね。たまたま見ていた編集者から『面白いことを言ってるライターがいるな』と思われ、仕事が来るかもしれませんから」

吉村さんは、「田辺さんのすごいところは、インタビューだけじゃなくて、考察記事も書かれていることですよね。それが田辺さんの取材力と繋がっているんじゃないかって」と言う。

それに対して田辺さんは頷きながら答えた。

「それはめちゃめちゃありますね。僕のやり方は、まず考察することから始まるんです。とくにエンターテイメントは作品ありきですから。その作品について、とことん考える必要がある。インタビュアーは考えることをやめてはいけないと思っています

考察すること。そこから質問を紡ぎ出すこと。その大切さを感じたオンラインイベントであった。田辺さんのプロフェッショナルな技術を活かしていきたい。

(記:池田アユリ)



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