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昔の別れを振り返る【後編】

【前編はこちら】

 最後の電話

それでも1ヶ月半ほど関係は続いていた。6年の付き合いを簡単に捨てられるほど、薄情な人じゃないと思っていた。

ある日、私の仕事が終わった頃合いに、彼から電話がかかってきた。「好きな人ができた」と彼は涙声で言った。

その電話が彼と言葉を交わした最後。

その時の私は直接話をしようと伝えたけれど、彼は迷いながらも会うことを受け入れなかった。「気持ちが揺れてしまうから」と言っていた。好きな人ともう付き合っているのかと質問したら「付き合ってないよ」と弱々しく言った。すでに買ってあった彼への誕生日プレゼントがあると告げると「使っていいよ」と。気持ちがすっと冷め、もう終わりにしようとその言葉を聞いて思った。

6年間の関係を電話で別れようとする人を、私は好きになっていたと思うと悲しかった。信頼関係を築いていたと思っていたのは私だけだったと気付き、胸が締め付けられた。

別れた翌日の私は綺麗になっていた

別れを告げられた次の朝、さぞ自分はひどい顔をしているのだろうと鏡を覗いた。すると、不思議なことにすっきりとして肌もつやつやしていた。悩んでいたことが一気に解決した感覚。数日後に思いが込み上げて一人で泣き始めることはあった。しかし、自分のために時間を使うことができるという開放感のほうが勝っていた。

私は彼を窓越しに見たとき、すでに別れを感じていた。今振り返ると、あの時の感情から私は嘘をつき始めた。情とプライドを守るため、本当の気持ちを隠すように彼を想うフリをしていた。自分の気持ちと行動が伴わないまま付き合い続けて苦しかった。「どうか私を開放して」と本当は思っていたのに、自分から決断できなかった。そのしわ寄せで相手を責め続けたのかもしれない。

そして東京へ

別れた後、私は人と出会う機会が増えた。一緒に笑ったり泣いたりする友達が近くにいたことを知った。

「彼を見返したい」という気持ちも少しあったけれど、働いているうちに「自分の力を東京で試したい」という気持ちが芽生えた。仕事先で転勤を志願し東京での生活を得た。

その後、横浜で今の夫と出会い、相手を思いやることの大切さに気づいた。

別れた恋人に未練はないが、人として向き合って「サヨナラ」と言えなかったのは心残りだ。なぜ彼が会うことをを拒んだのか、本当のところはわからない。新しい女性のためなのか、私のためなのか、彼の弱さなのか、ズルさなのか。

この痛みは自分の気持ちを隠していたから

ひとつ言えることは、今の私が心を痛めたのは、昔の恋人に対してではないように思う。

・自分の気持ちに嘘をついていたこと
・自分本位で相手と向き合っていたこと
・相手の新しい旅立ちを励ませなかったこと

自分がこうありたいという理想とは正反対のことをしていたあの頃の自分が恥ずかしくて、胸を張って言葉にすることができないでいた。ズキッとする思いはここからきていた。

あの頃の私は傷つくのが怖くて自分を守ることに必死だったけれど、別れも悪くないと思う。案外、次の日すっきりした顔をしているかもしれないから。

ライターの仕事をこれからもがんばっていきたいから、言葉にできない想いも言葉にしたい。

(記:池田アユリ)

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