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時系列を把握してる書き手は強い/「三体」を読んで

最近、長編のSF小説「三体」を読んでいる。いよいよ最終章の後半にさしかかるところだ。

きっと誰もがそうなのだろうと思うのだが、小説を読むときは映画を見るような気持ちで情景をイメージする。登場人物は、韓国俳優やよしもとの芸人など。頭の中だから、国の枠を超えられる。ワールドワイドに役者たちが魅力的に立ち回る。

三体――。実は、これまでSF小説を読んだことがなかったので、正直読むことに抵抗があった。全世界累計発行部数2900万部を記録した小説。興味がありつつも、苦手なことや知らないことに手を付けるのが億劫になっていて、読みたい気持ちを放置していた。

ある日、好きな小説家がYouTubeで「三体」について紹介していて、「あ、読むなら今だ」と思い、地元の図書館で予約。その日のうちに図書館から「予約した本の用意ができました」と。

「これは早く読めということかもしれない」と思い、真夏の炎天下に図書館へ向かった。

5冊ある1冊目を読み終わると、早く次が読みたいと思った。頭の中でありありとシーンが思い浮かび、まるで真っ暗な映画館で大きなスクリーンを観ているみたいだった。

「三体」を読んで思った「時系列の大切さ」

ここで、「三体」の感想を伝えたいわけではなくて、この小説のおかげで、ある迷いを断ち切ることができたことを話そうと思う。

「ライターの仕事で大切にしてきたことは間違っていなかったんだ」と自信を持つことができたのだ。

それは、「時系列を正確に把握し、提示すること」。

「いつ、どこで」を文章内でわかりやすく明記することが、書き手の技量をぐんっと上げることになるのだ。

そんなの当たり前じゃない、と思われるかもしれない。小説なら、時系列や場所がイメージできなければ、話は破綻してしまう。

けれど、webの世界は書き方のルールを広げた。「いつ、どこで」がわからなくても、読まれるweb記事がたくさんあるのだ。記事一つが短いからかもしれないし、比較的ライトな書き方が好まれるからかもしれない。

でも、書籍に係る人や読書家がそういった文章を読むと、「モヤモヤする」らしい。

「え、これっていつのこと?」

「辻褄あってなくない?」

さまざまな疑問が湧いて、読み進める気になれないという。

2年前のわたしなら、疑問にさえ感じなかったと思う。ライターとして格闘した結果、さまざまなweb記事を見て、「ああ、たしかに」と実感することになる。

そのため、取材時は「いかに時系列を把握するか」に焦点を当てるようになった。他にも意識することは膨大なのだけれど、取材相手の年表をしっかり把握してインタビューに臨み、順々に聞く。それがわたしの大切にしていること。

時系列を原稿に落とし込む方法

90分ほどの取材で、相手の人生や心情をすべて理解できるわけがない。でも、時系列を把握していれば、いったいどこがターニングポイントなのかを取材時に聞きやすくなる。

取材が終了。これでひと安心……。というわけにいかないのがライターだ。時系列を把握したあと、原稿に落とし込むのだ。わたしはこの時系列に書くことについて、ノートの前で大いに悩みたおす。

理解した時系列と出来事を、読者にわかりやすく、イメージしやすく、なおかつ読むことを止められてしまわないように書かなくてはならない。

一度、ガムシャラに時系列で書いた原稿を、編集の方に「時系列そのまますぎて、読者が脱線しそう」と指摘されたことがある。ごもっともだった。

時系列を言葉にすることのむずかしさ。崩し過ぎても理解されない。かっちりしすぎてもおもしろくない。いったいどうしたら……?

それを長編SF小説の「三体」が教えてくれた。

あらゆる登場人物が出てくるのに、時系列がわかる。その時系列というのが100年、400年、何世紀に渡って繰り広げられているのだ。悩んでいた時系列。「三体」のスケールの違いに、ちょっと笑えた。

「いつ、どこで」が明確な文章は、どんどん読める。もし丁寧に時系列で書かれた原稿が真面目でかたい印象を持たれてしまうとしたら、それは私の技量が足りない、もしくは取材相手を把握しきれていないからだろう。

だって、「三体」は5冊続いているのに、めちゃめちゃおもしろいから。

わたしは、「web記事は時系列がわからない記事ばかり」と思われてしまうことに抵抗を感じる。さらーっと読めてしまうことがweb記事だと思われがちだけど、kindleのような電子書籍やタブレットを使った学校の教科書があるのだから、じっくり読んで、学べるweb記事がもっと増えたらいい。

でも、時系列がわからなくてもいい文章がある。エッセイやコラム。読者にゆだねることで、想像力を掻き立てる。その書き方に、正直憧れる。

けれど、いまはインタビューライターとして、時系列を把握し、わかりやすく、読者が情景をイメージできるような原稿を書きたいなと思うのだ。

それでは、「三体」のエンディングを読んできます。

(記:池田アユリ)



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