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 今日を以て部活を引退となった。苦悩があったが、充実した四年間だった。

 私は800mを専門とし、部内では中距離選手のエース格としてチームを導いたが、2つ下の後輩に私の実力に迫る者がいた。

 彼は大学に入学してきてから腰の痛みが長引き、自己ベストも出ず苦しい時期が続いた。しかしコロナで部活が自粛期間に入ってから個人的にともに練習するようになってから非常に調子が上がってきた。逆に練習も調子が出ず、体調も悪化していた私は練習でいつもギリギリのところで負けそうになってきていた。しかし、私はエースであり、常に練習でも試合でも彼に負けてはならないと思って、常に彼の前で走ろうとした。そうすると彼はまた私を越そうとするので、逃げ切らなくてはならないと必死になる。そのおかげで、私も調子が悪い中で、一定の水準で練習をこなすことができたのだ。

 迎えた昨日の800mは、一周目は彼が先行し、二周目で私が抜いてそのまま逃げ切った。彼はきっと、私が引退した暁には部の中距離のエース格としてチームを引っ張っていくことになるだろう。私にはないスマートでセンスのある走り方に舌を巻く。体つきはまだ足りないが、筋力をつけ、それに付随して持久力も落とさずトレーニングしたら、きっと彼は化けるだろう。成長が非常に楽しみだ。
 だが、私は最後までエースとして、そんな彼に前を譲ることなく引退することができたことが誇りである。彼自身も2年ぶりに自己ベストを更新して、大きかった自分の壁を破れたようで私も非常に嬉しかった。

 今日はスウェーデンリレーに参加した。1走は100m、2走は200m、3走は300m、アンカーは400m走って、計1000mを4人で繋ぐリレーだ。私は中距離四年生チームで、彼は中距離2年生チーム、どちらもアンカーだった。勝負はもつれ込み、勝負はアンカーに渡された。

 わずかに先行していた私が、迫る彼をギリギリで躱し、チームとしては勝った。だが、400mのラップタイム勝負では負けた。試合の中で勝負して初めて負けたのだった。

 それでも私は清々しい気分でいた。私が引退する際に、彼が自信を持って次に向かってもらいたいと思っていた中で、彼はラップタイムをして私に勝利した。

 将棋の世界では、弟子が師匠に勝つことを『恩返し』と言うそうだ。将棋に限らず、師弟関係に限らず、自分がリードした人がその先へ突き進むことは嬉しいものだ。私も後輩を弟子としてこそ扱ってこなかったが、これからの彼の成長を考えた時に、私を発射台にしてどんどんレベルを上げていって欲しいと思った。
 頑張れよ。

 

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