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ブータン王国と日本

ヒマラヤ山脈に抱かれ、中国とインドという大国に挟まれた小さな国、ブータン王国を皆さんはご存知でしょうか。

ひと昔前に、国民総幸福度、GNH(Gross National Happiness)という国民調査の結果、国民の97%が ”幸せと感じている” と回答したことから、世界で一番幸せな国として一躍有名になりました。

このブータンで首相を務めた人物に、ツェリン・トブゲという方がいます。この方のスピーチを聞いたのは、かなり前のことになりますが、非常に心に響いたため、いつまでも忘れることができません。今だに一日本人として深く考えさせられます。

トークの題名は「This country isn't just carbon neutral — it's carbon negative』(邦題:CO2排出量マイナスの国、ブータン)。

このプレゼンを見て、個人的にかなり衝撃を受けました。残念で情けない気持ちがふつふつと湧き上がってきたのです。

なぜでしょうか。

それは、このトブゲ氏が伝えたメッセージは、そっくりそのまま日本人が話してもいいはずの内容だったからです。

ブータンと日本はその文化的、精神的ルーツに非常に多くの共通点があります。

例を挙げると、両国とも 1)仏教国 2)国土の約7割が森林に覆われている 3)主食はお米 4)民族衣装は着物 5)長年鎖国政策をとっていた 6)宗教の多様性を維持 7)英語教育に熱心 8)政治を担う首相とは別に、国の象徴として皇室、王室の存在がある

ここまで似た国でありながら、過去半世紀に歩んできた道に明暗を分ける大きな隔たりがあったことに日本人として忸怩たる思いに耐えませんでした。

トブゲ氏は言います。

「私たちの国ブータンは、国民は文化に富んだ社会を享受し、雄大な手付かずのまま自然な森に包まれています」と。

昨今、世界中が地球温暖化の取り組みとして、カーボンニュートラル達成、脱炭素社会を目指しこぞって様々な施策を始めています。各国がなんとかネットゼロに近づけようと努力をしています。

以下にトブゲ氏のスピーチの要点を抜粋してみます。

『ブータンはカーボンニュートラルな国です。現在、世界には200以上の国がありますが、カーボンニュートラルな国は私たちだけのようです。いや、この言い方は正しくありません。ブータンはカーボンニュートラル(ゼロ)どころか、カーボン・マイナスを実現している国なのです。国全体としては年間220万トンのCO2 を発生させていますが、森林がその3倍以上を吸収してくれるため、実質は毎年400万トン以上のCO2を大気中から吸収しているカーボンシンク(炭素を吸い込む貯蔵場所)です。

それだけではありません。
CO2 を出さない再生可能エレルギーのから得るクリーン電力を外国に輸出しています。現在、自国の水力発電から得るクリーンエネルギーは、隣国へ輸出され約600万トン分のCO2をオフセットしています。

ブータンは、国内では森によって二酸化炭素を自国内で吸収できるカーボンシンクを確保し、外国に対しては温室効果ガスのオフセットに貢献しています。これは大変立派な事だと思っています。

世界では温暖化が進み、気候変動は現実化しています。その影響はブータンにも及び、氷河が溶け、洪水、土砂崩れを引き起こし、国中あちこちで災害が発生し国は破壊の恐怖にさらされています。

私が今日ここで皆さんにお伝えしたいのは、ブータン国民、ブータン王国は地球温暖化を招くような行為は何ひとつしてこなかった。にもかかわらず、温暖化の被害はもろに受けている、ということです。』

私は心を打たれました。

日本とブータンは非常に多くの価値観を共有しています。それなのに、日本の温室効果ガスの排出量は世界で5番目に多い国だといいます(2019年時点)

同じ思想、文化を共有しながら、片や地球に優しいカーボンネガティブを達成し、世界一国民が幸せな国を追求し続ける国となり、片や西洋の偏った経済至上主義を手本に選び、GDPが増えた減ったと数字を追いかける国となりました。

世界では今、地球が災害紛争等で将来住めなくなった時に備え、火星に人類を送るという壮大なプロジェクトに注目する中、ブータンは様々な制約条件の中にあって、今も昔も変わらず自分の国を、自分の星をきれいにすることに一生懸命であるようにも見えます。私にはその方がとても足が地に付いているように感じます。

国民総幸福量(GNH)の方が国民総生産(GNP)よりも重要である」と,GNHの理念を提唱したのは,先代のシンゲ国王でした。1970年代のことです。

同時期の日本は先進国並みの生活の豊かさを得ようと、必死になって高い経済成長の実現、GDPを上げることに邁進してました。

その一方で、同じようにに決して経済的には豊かとはいえないブータンは、当時の国王の「私の目指す国づくりとは、経済的豊かさを第一に据えるものではありません。国民の幸せと満足を高めることをを支える、それが政府の仕事だと考えます。」というマニフェストに忠実に舵を切って進んできました。

もし、多くの日本人が古来から日本で大切にしていた価値に心を用いていたならば、誇りを持って文化伝統を維持してきたならば、今日の日本はどのような社会であったことでしょうか。

日本は森の国、海の国です。自然の恵みによって生かされてきた国です。カーボンシンクは主に森林と海です。その両方を併せ持っています。

パンデミック、戦争と非常に不安定な時代を生きる私たちは、今もう一度原点に戻り、道理を見出すことを努めなければならないと思います。





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