見出し画像

【免許皆伝?】広い空間をつくるための極意を解説します。

建物の設計をするうえで、空間をつくるうえで目指すこと、
それは「広い空間」です。
え、そんなこと?と思われるかもしれませんが、実はそれが一番大事なのです。

広い空間とは、正確に言えば「広く感じる空間」のこと。
単純に大きな面積を用意すれば当然大きな空間は作れます。しかし大きい空間と広い空間は必ずしも同じではありません。

「大きい」というのは、面積や体積が物理的に大きいこと。「広い」というのは拡がりを感じることです。

限りあるスペースを有効利用し、出来るだけ「空間を広く感じさせること」が建築家の腕だと思っています。

もちろん素材とか色使いとかも大事ですし、カッコいいとかオシャレに見えるということも大事ですが、優れた設計はそれ以前にその形態だけで広く感じられるようにできていることが多いです。

この記事では広い空間をつくるための秘訣を書いてみます。門外不出?の秘伝も含みます。お得だと思います。建築を学ぶ学生や若い建築家に是非読んで欲しいと思います。もちろんそうではない人も。


コルビジェに学ぶ


画像1

美しい窓。
この窓を美しく魅せている仕掛けは色々とありますが、一番大きな要因は窓が右側の壁の向こう側まで回り込んでいることです。
試しに画像加工して比較してみると以下のようになります。

画像2

青い壁が外壁に当たり、窓枠が現れるだけで右側の壁に当たる光の加減が変わり、少し閉塞感が出てくることが分かります。

オリジナルは右側の壁のエッジが明るく、そして窓枠が見えないことで、窓が右の奥の方まであるように感じる点がミソです。
言い換えれば、壁の向こう側まで空間があるように錯覚すること。そのことが空間の広がりを感じさせ、美しい空間だと思わせるのです。

これは実はル・コルビジェによる近代建築の名作サヴォア邸の窓。近代建築5大要素の一つである水平連続窓の一部です。

水平連続窓とはそれまで組積造が主流であった為に縦長の窓しか作れなかったことに対して、鉄筋コンクリートの普及により作れるようになった横長の窓のことを言います。

一般的な建築教育では横長の窓にすると景色が連続して見えるから良いですよということしか教えられませんが、横長の窓をただ作れば良いのではなく、「横に空間が延びるようにつくる」ということが大事なのです。

コルビジェという人は、実はこういった空間を広く見せる細かな工夫をいたる所に施しています。

その空間づくりの工夫を空間学として研究し教育に取り入れていたのが、パリのベルヴィル建築大学のUNOという建築教育グループでした。もう18年前になりますが僕はフランスに留学をし、この授業を受けました。

そのカリキュラムのすべてを教わったわけではないので、本来のUNOの理論とは違っているかもしれません。当時教わったことだったのか、僕が勝手な解釈をしているのかも今となっては分からないのですが、僕の知っていることを書いてみます。

※タイトルに【免許皆伝】と書いておきながら、実はうろ覚えだといういい加減さ。ご勘弁くださいませ。


空間の拡張とは

フランスでは空間が延びる・拡張するという言い方をしていました。実際の面積は変えずに空間が延びたかのように思わせるということです。

ポイントを先に書いちゃうと、

・視線の到達点をどこに持っていくかで広さの感じ方を変えることが出来る。
・未知なるものを残し期待感を持たせる。
・メリハリをつけてシーンの移り変わりを演出する。

大事なのはこの3点です。
これを基に同じ面積の空間を変化させてみるとこうなります。

画像13


空間の拡張【詳細編】(少し難しいので疲れたくない人は飛ばしてください)

画像12

ある単位空間を考えてみます。奥には全面ガラス張りで景色が広がっているものとします。

①もし両側の壁のみのシンプルな空間ならば、人は奥の窓に対して正対する、つまり奥の窓を真っ直ぐに観るのが自然です。その場合に人が感じる空間の奥行きはこの絵の矢印の通り、実際の部屋の奥行きとなります。


画像12

②右側に壁が出現した場合。
自然に人の視線は少し横にズレます。そうすると視線の奥行きはこの部屋の対角線に近くなります。この対角線は1枚目の絵のように正対した奥行きよりも長いので、部屋の奥行きが長くなったと錯覚します。

奥行きを対角線で感じさせることが出来るとその空間は広く感じます。←ここ重要です。

また、右の壁は窓面よりも手前に置くことでその更に奥に空間が続いていることを予感させます。(絵の中の点線の部分です)

その空間の終わりが見えているよりも見えていない方が、期待感を持って眺めることが出来ます。そのことが感覚的な広がりに繋がる場合が多くあります。
実際には続きの空間は無くても良いんです。
詐欺じゃないかって?
いいんです。小賢しい騙しのテクニックだろうと、広く見えることは正義です。


画像12

③2枚目と同じロジックは縦方向にも同じことが言えます。
手前の天井を少し下げて、奥の天井を少し上げると、奥の窓を見上げるようになります。視線が地面と平行では無く斜めになれば、平行線よりも長くなるので奥行きを感じる長さは長くなるのです。

ここでも天井がどこまで高くなっているかを見せないことで期待感を持たせることが可能です。(点線の部分です)奥まで進めばすぐにバレることですけどね。

また、手前の天井を敢えて下げることで奥まで歩いていくときの高揚感を演出することにもなります。トンネルのように暗い狭いところから広く明るい空間に出た時のような、解放感を得る効果があります。


画像12

④この空間を区切る場合も、間仕切り壁を奥にくっつけないことで、空間の拡がりを持たせることが出来ます。最初の窓の写真はこのテクニックですね。


画像12

⑤さらにその間仕切り壁を天井まで届かせなければ、視界に入る天井の面積が増えます。
この時、視線は左にズレつつ上に見上げることにもなり、奥行きを感じる長さが最大になります。


これらのテクニックは、その空間の性格に合わせて選ぶものなので、どの形が優れているかということではありません。

もう一度ポイントをおさらいすると、

・視線の到達点をどこに持っていくかで広さの感じ方を変えることが出来る。
・未知なるものを残し期待感を持たせる。
・メリハリをつけてシーンの移り変わりを演出する。

です。


ちなみに上記の絵の床面積はすべて同じです。
同じ床面積でも色々なことが出来ます。大きくは出来ないけれど、広くしたり狭くしたりは出来るのです。
これが設計の難しくて面白いところ。

こういうことに面白さを感じる人に設計をやって欲しいし、一緒に仕事をしたいなと思っています。


実例解説

上で紹介したテクニックは壁のつくり方ですが窓のつくり方などにも応用することが出来ます。

最初にコルビジェの例を出したうえで自分の作品を出すのはとてつもなくコッパズカシイのですが、ここまでウンチク垂れてしまった以上、実例出さねば説得力に欠けると思うので、ぐっと堪えて解説してみます。

画像9

これは弊社の設計した小さな住宅のリビングダイニングの写真です。
実はこの空間は9帖しかないのですが、とても9帖とは思えない広さを感じると言ってもらえることが多いです。

その要因となっていることを解説してみます。

画像10


手前の天井高さを下げ奥の天井を上げつつ、奥の壁に設ける窓を高い位置に開けています。このことにより、視線の持ち上げが起こり、より一層の高さを感じることが出来ています。


右側の部屋に続く部分に壁を設けないことで、この空間が右側にまだ続いていくように見せています。どん詰まりの空間ではないことで広さを感じます。


左側の壁に低く長い連続窓を設けることで、屋外を室内の延長として拡がっているように見せています。これについては次の写真で詳しく説明します。

また、天井高さや窓の高さを様々に変えた場合には、むやみに変えるのではなく他のどこかの高さと揃えることですっきりとした印象を与えることが出来ます。

例えばここでは、手前の空間の天井高さである2.25mに右奥の空間の天井高さ、奥の窓の下端高さ、右側の収納の目地を揃えています。


画像11

この写真に写っている範囲の床面積は4帖程度しかありません。
ここでは、視線の操作が特に効いていると思います。

画像12

天井高さが3mあるにもかかわらず庭に面した窓の高さは1.5mと低めにしました。開放感を損なわない程度に窓を低くすることで視線が下がります。自然と床を見ることになり、その床は窓枠を見せないように設置した窓の向こう側のウッドデッキに繋がっていきます。

つまり視線の到達点は外壁までではなく庭の奥までとなり、その差が広さを感じさせるのです。


広い空間は心地よい空間


僕は、「建築家の使命は広い空間をつくることだ」と教わりました。
広い空間には余裕があります。その余裕がもたらす心理的なゆとりのようなものが空間の心地よさに繋がっていると思っています。
言い換えれば、心地よい空間とは余裕のある広い空間なのだと言い切ってしまっても良いかもしれません。

だから心地よい空間をつくることが求められるのであれば、広い空間をつくることを目指すべきなのです。

空間の見せ方は、無限にあると思います。
上にも書きましたが何が正解かということではありません。まだまだ他にも解法はありその応用術は無限にあります。

なぜだか狭く感じるとか、なんだかゆったりしているなと感じる空間に出会ったとき、この理屈を思い出してみて分析してみると面白い発見があるかもしれません。

そうやって空間を楽しむことができたら、そういう人が増えたら僕は嬉しいです。

もしそれで何か発見をしたら教えてもらえると、僕はもっと嬉しいです。

そうやって建築好きが増え、より良い建物が世界中に増えていったら僕はもっともっと嬉しいです。

以上、「空間拡張術」秘伝奥義解説でした。


この記事が参加している募集

noteを始めてから、考えていることをどう書いたら伝わるだろうかと試行錯誤することが楽しくなりました。 まだまだ学ぶこと多く、他の人の文章を読んでは刺激を受けています。 僕の文章でお金が頂けるのであればそのお金は、他のクリエイターさんの有料記事購入に使わせていただきます。