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僕が未来人にはじめて会ったのは、下校時の靴箱だった。僕は自分のシューズの片方だけないことに気づいて、辺りを探していたときに彼は現れた。 未来人はなぜか僕のシューズの片方を持って、僕の目の前に立っていた。彼は「どうぞ」と言って、靴を渡してくれた。僕は「ありがとう」とお礼を言った。 その日、僕は未来人と一緒に帰った。 未来人は雨靴を履いていた。僕が「なんで雨靴なの?」と聞くと、彼は間髪入れずに「もうすぐ雨が降るから」と答えた。まもなく雨が降ってきた。 それからも、彼
「世界中の人と会話ができるアプリです」 ネットサーフィンをしていると、わたしはそんな文言のバナー広告を見つけた。広告をクリックすると、すぐに公式サイトへ飛んだ。 公式サイトには、「リアルタイム翻訳機能で、海外の人とかんたんトーク」と書かれていた。すごく魅力的なアプリだ。しかも、最近、アプリの会員は100万人を突破したらしい。ミーハーなわたしは、それが欲しくてたまらなくなった。 アプリの会員登録を済ますと、会員ページが表示された。とてもシンプルなデザインで、いつ
「25年前の宝の地図が見つかったぞ」 昨晩、父からそのことを聞かされて、僕は期待に胸を躍らせていた。なかなか眠りにつけなかった。遠足の前日の夜よりも、クリスマス前日の夜よりも、それはずっと興奮した。 そこには、どんなお宝が眠っているのだろう。きっと、地図を頼りに穴を掘ったら宝箱が出てきて、そこにはキラキラと輝く宝石とか金貨が入っているのだろう。僕の妄想はどんどん膨らんでいった。 結局、僕は一睡もしないもまま朝を迎えた。僕はスコップを持って、父は大きなシャベ
ぼくが1才ときのお話です。 得体の知れない何者かがぼくをつけていました。それは触ろうとしても通りぬけてしまい、つかむことができませんでした。近所の公園に遊びへ歩いて向かうあいだも、砂遊びをしている最中も、それはつねにぼくの側にいました。 家に帰ろうと思ったとき、それが少し大きくなったことに気づきました。ぼくはだんだん怖くなってきました。ぼくは全速力で走りました。それでも、それはぼくをずっと追いかけていました。追い抜くでもなく、ぴたりと僕にくっついて、ずっとついて来るので
人間にそっくりのロボットを買ってから、3年が経った。いわゆる人工知能というもので、姿かたちだけでなく、話し方や考え方まで人間そのものだった。 ロボットの年齢は25才くらいで、背がものすごく高かった。だから、彼と話すとき、わたしはいつも見上げていた。彼はロボットの癖にとても不器用で、掃除や洗濯が苦手だった。けれど、重い荷物を運ぶときに手伝ってくれるのは、男性ロボットを選んで良かったと今は思っている。 人工知能は、どこまでも人間に近かった。 「それがこの商品のセールスポ
わたしが初めて白紙の小説を見たとき、びっくりして言葉も出ませんでした。だって、あまりにも可笑しいんですもの。 少女はそう話すと、おじいさんの方へ顔を向けた。おじいさんは、「まぁ、それはびっくりですね。世の中はお嬢様が思っているよりずっと広いですから、そんな本があっても不思議じゃありません」と言った。 「でもね」 少女はつづけた。 「パラパラとページをめくっていると、1ページだけ文字の書かれたページがあったの。それを読むのがとても好きなの」 不思議な本がある
目を覚ますと、伸びをしてカーテンを開ける。窓から朝日が差し込んでくる。朝日を浴びながら、軽く水を飲む。シャワーを浴びる。これが、僕の毎朝のルーティーンだ。 シャワーを終えて出てくると、棚から透明な瓶のキャニスターを手に取る。そこからお気に入りの豆を取り出して、豆を計る。手動のコーヒーミルで豆を挽いていく。もちろんこのときに、フレンチプレスにお湯を注いで温めておくことも忘れてはいけない。 コーヒーミルを左手で持って、右手でハンドルをぐるぐると回しながら、コーヒー豆を少
初めて飲んだコーヒーは苦かった。 得体の知れない黒い液体は、少女のわたしの好奇心を掻き立てた。それはまるで、用水路を流れる泥水のようであった。けれど香りを嗅ぐと、うっとりと夢見心地な気分になるものだった。 母はいつもコーヒーを飲んでいた。 そのため、濃厚なコーヒーの香りは部屋中をふわふわと漂っていた。 わたしもコーヒーを飲んでいた。 母はコーヒーの量が減っていることに気づくと、すぐにわたしを叱った。母はきまって、「コーヒーを飲むと、背が縮むのよ」と言った。 わた
音が聞こえなくなってから、どれくらい経つだろう。 遠くの方から聞こえた「みーつけた」の声も、今は聞こえなくなった。辺りはしんとしていた。それが余計に僕を混乱させた。 ドク・ドク・ドク。 心臓の鼓動は、やたらと大きく鳴っていた。胸に手を当てると、ますますそのテンポは速くなる。 ドクッ・ドクッ・ドクッ。 周囲はまっ暗だった。 まるで暗闇は、この世の全ての光を吸収したかのように、僕を包み込んでいた。目は開いているに、目を閉じているような錯覚さえおぼえた。 試
店主は言った。 「お客さん、この包丁は切れ味がいいですぞ。なんでもサクサク切れる。ほら」 店主はトマトだって、ごぼうだって、玉ねぎだって、何でもサクサク切っていった。世界でいちばん硬いとされる鰹節でさえ、手を添えるだけでいとも簡単に切っていく。 「どうだい、おねえさん? 気に入ったかい?」 店主は目を輝かせている。わたしは、彼の瞳の奥にいる少年が話しかけているような純粋無垢な気持ちになる。即座に「買います」と店主に言い、わたしは店を出た。 家に帰り、さっ
僕が見えない糸に気づいたのは、引っ越してから3日日の朝だった。その日はひどく疲れていて、体がものすごく重かった。それなのに、ベットから即座に起き上がり、部屋を軽やかに動き回って、家事をこなしていた。まるで上から見えない糸を吊るされて、操り人形になったみたいだ。 掃除や洗濯を終わらせてソファに腰を下ろすと、全ての疲労感が僕を襲った。見えない誰かに体を操られ、労働を強制させられたようなものなのだから、それも無理はない。 僕はサイドテーブルに目をやると、見慣れない本が置か
「あぁぁ。買わなきゃよかった」 男の手のひらには、一億円のマッチがあった。見た目は、普通の物と大差はなかった。少し大きいくらいだ。 あの男は、別の男からこのマッチを買ったらしい。そして、別の男もまた、さらに別の男から買ったらしい。 この男はついに、彼から一億円のマッチを買う。
私は男に問い詰めると、彼は気まずそうに「コロコロ変わる名探偵です」と答えた。手に汗を握り、目をギラギラさせている。 彼に出会ったのは、去年の夏だった。近所の住民から嫌がらせ被害に遭っていた私は、知人の紹介で名探偵を紹介してもらった。 異変に気づいたのは、相談してから1週間くらい経った日のこと。いつものように彼に被害を相談していると、大きなカミングアウトを受けた。 「実は、名探偵じゃないんだ。高校の教師なんだ」 私は唖然としてしまった。それでも、彼は少しずつだが
僕の横にいるのは、アナログバイリンガルだ。アナログのくせにバイリンガルなのか、バイリンガルでもアナログなのか。答えのない疑問を彼女にぶつけようとしたが、あまりにも失礼なので控えることにした。 バイリンガルと聞くと、高そうなハイヒールをはいて、いつもフカヒレやファグラを食べている姿を連想するかもしれない。しかし、僕の隣にいるアナログバイリンガルの食事は、たいそう質素なものだ。 彼女と出会ったのは、寒い冬の日だった。仕事帰りのアパートの前で、このままだと飢えて死んでしま