超短編小説|アナログバイリンガル
僕の横にいるのは、アナログバイリンガルだ。アナログのくせにバイリンガルなのか、バイリンガルでもアナログなのか。答えのない疑問を彼女にぶつけようとしたが、あまりにも失礼なので控えることにした。
バイリンガルと聞くと、高そうなハイヒールをはいて、いつもフカヒレやファグラを食べている姿を連想するかもしれない。しかし、僕の隣にいるアナログバイリンガルの食事は、たいそう質素なものだ。
彼女と出会ったのは、寒い冬の日だった。仕事帰りのアパートの前で、このままだと飢えて死んでしまうのかと思うほど貧弱に痩せ細った彼女の姿があった。
「ご飯をください」
僕は耳を疑った。しかし彼女の真剣な口ぶりから、バイリンガルであると悟った。きっと、こっちの言葉とあっちの言葉の分かるのだ。それから、僕は持っていた買い物袋からマグロの刺身を一切れあげた。
すると、アナログバイリンガルは、満足そうな笑みを浮かべ、自国の言葉で「ニャー」と言った。
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