思いがけないところから出てきたもの

今日息子の衣類の整理をしていたら小さな巾着袋に入れた箱が出てきた。
使用頻度の低い引き出しから出てきたそれは最初みたときなんだったか思い出せなくて首を傾げた。

一瞬考えて思いあたるものがひとつだけ。

恐る恐る小さなプラスチックのケースを開けるとそこにはさらにもやがかかったような蓋がしてあり、黒っぽい小さな物がカラカラと音を立てて転がる。

息子のへその緒だ。

なくしてはいけないと思い、なんとなく開ける気にはならずそのまま蓋を閉めて小さな巾着袋にしまう。

夫と息子が不思議そうな表情で｢それ何？｣とたずねてくるので｢へその緒だよ｣と答えると夫は｢そんなとこにしまってたの｣と呆れたように言った。
息子は｢へその緒ってー？｣とたずねるので夫が

｢そうちゃんとママが繋がってた証拠みたいなの｣

と答える。息子はケラケラ笑いながら｢なんだそれー！｣とどこかへかけて行った。

息子のへその緒は確か息子が生まれて一緒に退院してピッタリ一週間後に取れたのだ。
沐浴後にコロンと取れてびっくりしたのは覚えている。
初めての育児にわたわたとしながら夫婦二人で頑張った。
二時間おきに授乳に起きて常に寝不足だった。
母乳を飲むのがまだ下手くそな息子。
母乳を咥えさせるのが下手くそだった私。
お互いうまくいかず途方に暮れたりした。
それでも必死に飲む腕の中の小さな息子が可愛くてしょうがなかった。

沐浴のときは小さなベビーバスで夫が腕の中で息子を壊れ物を扱うように抱きながらガーゼで優しく洗うと気持ちよさそうに目を細めてたっけ。

へその緒をみただけでこんなにも息子が生まれた後のことが思い出される。
へその緒なら妊娠中のことを思い出すものかもしれないけれどへその緒がまだちょんとくっついてた新生児の頃の方を私は思い出す。


へその緒はどこにしまうものなのか正直わからない。
ただ、昔母が箪笥に入れていたのを覚えていたので私もなんとなく衣装ケースにしまっていたのだ。

懐かしい思い出にちょっぴり泣きそうになりながら産院で貰ったへその緒の入ったケースをまた衣装ケースにしまう。

大切な息子との思い出が思いがけないところから出てきて少し懐かしくなった日。