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ショートショート『エンドロール隊』

 エンドロール隊が歩いていく。上に向かって歩いていく。下でも左でもましてや右斜め下でもなく、そういう運命であることを自ら受け入れているかのように決まって上に歩いていく。全員同じフォントを身に纏い寸分くるわず整列し、一定の速度で上へ歩いていく。少しでも隊列を乱しようものなら何をされるか分からない。ふと立ち止まり流行りの行進曲に耳を傾け、故郷に思いを馳せたくともそれは許されない。大勢の観客達が余韻に浸っているからだ。エンドロール隊の仕事は観客達を気持ちよく余韻に浸らせることである。決して目立ってはいけない。あなたは主役ではないのだから。意志を持たずただひたすらに上へ歩くという役目を果たすのみなのだ。
 ただ安心して欲しい、観客達はエンドロール隊を必要としている。その証拠に観客達は必ず見届ける。指定の座席に鎮座しエンドロール隊の行進を必ず見届ける。見届けない者がいても気にするな。彼らは致し方ない事情があるのだ。見ず知らずの観客を余韻に浸らせていることを誇りに思い、今日も世界中でエンドロール隊は上へ歩いていく。

わざわざ読んでいただいてありがとうございます。 あなたに読んでいただけただけで明日少し幸せに生きられます。