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或虎
2023年7月19日 19:35
絶賛ダイエット中の私、ランニング後に蕎麦をすするが何よりの楽しみ。それだけを頼りにダイエットに励んでいる。 蕎麦、コンビニのなんかでは済まさない。ちゃんと蕎麦屋で食う。立ち食い屋ではない。暖簾に出汁の色が移っているような老舗の蕎麦屋。 何を頼むか……悩んだふりして壁の品書きを見る。が、決まっている。ザルの小盛だ。天ぷらなんて言語道断。でも見て検討はする。その習性は簡単には消えない。
2023年7月11日 01:55
猿、豚、河童をお供に連れて、三蔵法師は西へ西へ。「すいません、ギャランドゥにはどう行けばいいのでしょうか?」「ギャランドゥに行くには、この道で合っているのでしょうか?」 会う人会う人に道を尋ねながら、有り難い教典を求めての旅、幾星霜。 その夜。「三蔵……三蔵法師や」 三蔵法師の夢に、お釈迦様が現れた。「お釈迦様!」「三蔵法師……あなたが向かっている先は、目的地は一体どこですか
2023年7月3日 22:45
天国の入り口で天使が問いかける。「では次、お前は生前何をしていた?職業は?」「はい、私はソプラノ歌手でした」「証明できるか?」「はい、ではここで歌いましょう」 男は胸の前で手を組み、見事なソプラノでカンツォーネを歌った。「うむ、確かに歌手のようだな、通れ。次、お前は生前何をやっていた?」「はい、私はボクサーでした」「証明してみろ」 男は軽妙なフットワークで小刻みに揺れながら、
2023年1月16日 17:05
人前では常に竹輪を額に結び付けておくことがルールとされてから早三年が経とうとしている。ルールである。法律では無い。でもこのルールってやつは、時に法律よりも強制力がある。特にこの国では。 かちゃかちゃタイピングの音、事務所で新人の女の子がキーボードに指をぶつけている。彼女の額にはピンク色の竹輪、竹輪を締めるためのいわゆる竹輪紐も竹輪に合わせてピンク色だ。最近の子おしゃれだな。竹輪の角度もちょっ
2023年1月25日 10:50
「待って!セーシ」「え?なんでここに?」「酷いじゃない黙って行くなんて」「……」「行かないで」「もう決めたんだ。俺は自分の夢を追う。東京に行って、自分の夢を叶えてみせる。だから、黙って見送ってくれ」「酷いよそんな……自分勝手だよ。私は?私のことはどうでもいいの?」「……」「何とか言ってよ!」「本当に済まないと思っている。でも嫌なんだもう、この町にいるのは!」「なんで?」「分か
2023年2月17日 21:15
助三郎へ 俺は今、惑うておる。 武士としての矜持、臣としてあるべき姿、当然として五体に染みわたっておると、そう自負して今日まで生きてきた。それが揺らいだ。 事の次第を順を追って書き記したい。退屈であろうが、記憶を辿り、再度自らの性根に問い質すべく行うものである。しばし付き合ってくれ。 例によって発端は八兵衛だ。ご老公が御不浄へ向かわれる折、お預かりした印籠を代官の手先である乱波に掏
2022年8月7日 08:19
「さあ、どんな食材になりたいか言ってみろ」「食材じゃないとダメなんですか?」「そうだ!」 …………「間違ってたらごめんなさい。死神的な方ですよね?」「そうだ」「死神のセリフって、もっとこう『地獄行きだ!』とかそんなんじゃないんですか?」「そうだお前は地獄行きだ。だがその前に罰を受けてもらう。生前、手当たり次第に食べ物を食い散らかしてきた罰として、お前は食材になるのだ」「言ってる意味
2022年6月20日 15:15
鼻毛を抜こうと思う。ただの鼻毛じゃない。剛毛と言ってよい、いや、剛毛どころじゃない。鬼のような鼻毛だ。鬼のそうだなぁ、すね毛辺りがちょうどこんな感じ?うん、鬼のすね毛だな。いや待て、鬼のすね毛どころじゃない。もはやゲームやマンガ並みの現実離れした戦闘力の鼻毛、例えるなら「ドラゴンボールに出てきそうな鼻毛」だ。スカウターがボンってなるような鼻毛、そいつを引っこ抜こうと思う。 車のルームミラー
2022年8月1日 16:21
むかーしむかし或る処に…… いや、昔と言ってもそれ程昔ではありません。いや、だからといってそりゃあ2ヶ月前とか3ヶ月前とか、そんな最近では当然ありません。だって日常会話で、「昔さー」って会話するとき、2カ月前のこと言う?言わないよね普通。じゃあ昔ってどれ位前のことかっていうと、石器時代とかじゃないです。 え?石器時代だと思ってたんですか?聞いたことあります?石器時代の昔話。マンモスとか出て
2023年7月24日 17:04
「井上さん、拳法習ってたそうですね」「ええ。中国に留学していた時に」「いや僕格闘技大好きなんですよねー。井上さんが習ってた拳法って何て名前ですか?」「中林寺拳法です」「え?中林寺?少林寺じゃなくて?」「はい。少林寺でも大林寺でもありません。あ、大林寺はご存じですよね?」「いえ、知りません」「『鉄拳チンミ』に出てくる」「あ、漫画の?」「まぁ、実在するんですけどね」「そうなんですか
2023年8月7日 22:27
羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹、羊が5匹、羊が6匹、羊が7匹、羊が8匹、羊が、羊が9匹、羊が10匹―― (中略) 羊が8473匹……駄目だ。眠れそうにない。羊を数えると眠れるって嘘なのかなぁ、ちょっと変えてみよう。 兎が1羽、兎が2羽、兎が3羽、兎が4羽……上着が5着、上着が6着、上着が7着でお値段なんと税込み980円……安っ!安過ぎる!駄目だ興奮してきた。やっぱ羊だ、羊―ヒツジ
2023年8月15日 02:09
鳥の世界には「恋をすると歌が上手くなる」という諺がある。でもカナリアはその諺を信じていない。(本当の恋をしたなら、歌なんかまともに歌えるものか) 瞳が潤む程度の恋ならば、喉も潤い声も伸びるかもしれない。でも、涙が零れる恋ならば、喉の水気は涙腺に吸われ、声はかすかすになってしまう。カナリアは確信している――実際に自分がそうだから。 しかしカナリアの音痴を、その重度の恋患いのせいにするのはどう
2023年9月26日 01:33
「釣れた釣り人はただのお調子者、釣れない釣り人は哲学者」 夢枕獏の言葉である。今日の俺は、哲学者だ。 無傷の釣り竿を掲げ一人帰る――つもりだったが、ぐずぐずと佇んでいる。 釣りの醍醐味は、釣れない時にこそある……駄目だ。俺は哲学者にはなれない。やはり釣りは釣ってなんぼ。釣れないと悔しい。だからこそ釣れた時に楽しいのだ。この悟りとは程遠い境地も、哲学
2023年9月27日 01:03
「では今から、こちらの箱に手を入れて頂いて、中身がナンかナンでないかを当てて頂きます。1問正解するごとに賞金20万円、5問すべて正解すれば、賞金はなんと100万円となります。ただし、一問でも間違えるとその時点で獲得していた賞金はすべて没収となります、さぁ、箱の中身はナン?」「え?」「箱の中に手を入れてください」「はい?」「箱の中身はナン?」「すいません一つだけ、ナンって、あのナンですか?