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或虎
2023年10月3日 21:59
マンションの屋上へ、階段を昇る。扉には鍵が掛けられている――と、皆思っているようだが、実は掛かっていない。錆びてとても重くなっている。それだけだ。力いっぱい押せば開く――最後に鍵を掛けた人が、押してみたら開かないから、鍵を掛けたと勘違いしたのだろう。 たまに学校に行く振りをして、屋上に行く。私だけの秘密の場所。空を独占する。あの雲もあの山もぜんぶ私だけの物、ここにいる間はね。 セーラー服のリ
2023年10月12日 23:41
「牛焼肉弁当の特盛、たれ多め、玉ねぎ多め、ごはん少な目で」 と、注文してから3秒後――今日こそ言ってやろう。「あと隅っこに入ってるあのゼリー、要らないです」 言ってやった。遂に言ってやった。舌が変色しそうなオレンジの塊は要らない。どうせ食べずに捨てるだけだし。 おばちゃんの顔色が変わった。「では、こちらへどうぞ」 手で促された。カウンターの中に来いって?なにこれ?怒らせちゃったの?
2023年10月17日 01:21
橋の上で躊躇している。飛び降りる勇気がない。ガイドさんが通訳してくれる「ゼッタイニ安全デス」――と言われても、申し訳ないけど海外の、しかもその、言い方合ってるか分からないけど、発展途上国のバンジージャンプは、怖い。設備装備の安全性が心配過ぎる。 下を見る。綺麗な川。下にも空があるようだ。あんな美しいものに激突しても、人は死ぬのだろうか?いや死ぬだろう。数十メートル……体感では数百メートル落下す
2023年10月20日 03:32
コンテストとか応募したことないけど、してみようかなって、1週間くらい練って、今書き終えて、応募しようとしたら、締め切りが2019年の10月だったことに気づいた男の作品です。とほほ……。 ヤドクンの事を覚えてる?夏祭りのヤドカリ釣りで釣ったヤドカリ。1回300円、10回やってやっと釣れた1匹、ペットショップに行ったら200円で売ってて二人で笑ったね。あのヤドクンです。 彼が亡くなりました。君
2023年10月28日 02:28
さびしがり屋の沼が居た。 沼は友達が欲しかった。でも沼は紫色で、臭いも酷くて、あらゆる生き物が近づこうとはしない。沼は心を病んでいた。 ある朝、空から何かが降って来た。沼は思わずキャッチした、何かと思えば糞だ。見上げる。渡り鳥がそそくさと通り過ぎてゆくのが見えた。紫の沼に一点、白と黒が混じった糞が乗っかっている。沼は失望した。「糞では話し相手にはならない」。 数日して、糞から何かが出て
2023年10月29日 17:20
「他の隊員は?」「心配するな。全員無事に退避した」「いいのか?お前は行かなくて」「嗚呼、サポートが1人は必要だろ」「一人で何とかする。お前も一緒に――」「馬鹿野郎!そんなこと言ってる時間はない!今はこの爆弾の起爆装置を解除することに集中しろ!」「……分かったよ」「相棒」「なんだ?」「今のうちに、お前に知っておいてほしいことがある」「そうか、大体予想は付く。明美のことだろ?いいん