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メグレと若い女の死
※ネタバレを含むので鑑賞予定の方はご注意。
1953年。パリ・モンマルトルのバンティミーユ広場で、シルクのイブニングドレスを着た若い女性の遺体が発見される。真っ赤な血で染まったドレスには5カ所の刺し傷があった。捜査に乗り出したメグレ警視は、その遺体を見て複雑な事件になると直感する。遺体の周囲に被害者を特定できるものはなく、手がかりとなるのは若い女性には不釣り合いなほど高級なドレスのみ。被害者の素性とその生涯を探るうちに、メグレ警視は異常なほどこの事件にのめり込んでいく。
恥ずかしながらホームズ以外の海外ミステリーは通らずに生きてきた30数年。ジュール・メグレに関しても「目暮警部の名前の由来」という情報しか持ち合わせていなかった。そんなメグレ警視、初っ端から大好きなパイプのドクターストップを喰らって切なげ。相棒の若手刑事のパイプの吸い方にいちゃもん付けては気を紛らわす。捜査開始から解決までは同じ酒しか飲まないというポリシーも粋。好きだわこのおじさん。
ミステリーとしては決して気を衒うものではなく、大どんでん返しのような展開も無いのだけれど、メグレ警視はとことん被害者のパーソナリティに寄り添い着実に歩を進めていくスタイルなのか、ストーリーでも重きを置かれているのは常に被害者の女性。彼女は誰なのか、何故パリに来たのか、パリでどんな思いで暮らしていたのか、彼女が生きる筈だった未来、物語の最後までメグレの焦点は彼女だった。
映画としてもとても良かったし、きちんと原作に触れてみようと思えた。遅めのジュール・メグレデビュー。でもこの作品、シリーズのラストなのね。