「むかしむかし、あるところに・・・」

「むかしむかし、あるところに・・・」で始まる昔話の語り口調というのが好きだ。というか、非常に便利で理にかなっていると思う。

 時代や人物の細かい設定をしないで、曖昧な背景のままに進んで行く物語。そこには、聴く人それぞれの想像の余地が残されているので、無限に物語の世界が広がっていく。口承で語り継がれ、語り部それぞれが想像した世界を新たに付け加えられて、物語の世界、新しい解釈が生まれていくが、誰も嘘をついている人はいない。もともと曖昧なのだから。

 ただ、誰もが自分の思う物語の世界を楽しんでいるだけだ。
 
 これは、語り手の立場から言っても非常に便利なのだ。
 細かい設定をしないから、曖昧なままでも物語りができるし、自分の想像を入れてもかわまない。登場人物の台詞などは、簡単に付け加えられて、物語に調子と活気を与えられる、便利さがある。台詞を多少自由にいじったところで、曖昧な物語のベースは壊れない。
 また、「むかしむかし、、、」で始まる語りによって、全体にリズムが生まれて、小気味良い。
 また、「ベースの物語は曖昧」なのだから、都合によっては、適当に省略して話の筋だけ語っていくこともできる。あまりしたくはないが。

 そんなわけで、私がプラネタリウムで語る神話や昔話の大半は、「むかしむかし、、、」で始まるし、おおげさな台詞語りを入れることもある。
 それがなんとも心地が良いのだ。
 「むかしむかし、、、」は、もっと多用されるべき文芸文化だと思う。

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