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7Days Book Cover Challenge

1週間毎日、自分のお気に入りの書籍のカバーを挙げるというバトン企画が最近、FacebookやInstagramでありました。
他人のチョイスを眺めてて「これは大変だぞ!」と思ってましたが、言って見れば自分史でもあるのだなと感じていたので、今更ながらでもう既出の書もあるとは思いますが、ありがたくやってみようと思います。

一応それをnoteにまとめておこうと思いましたのでご紹介します。

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『サッカー狂い〜時間・球体・ゴール - FOOL FOR SOCCER』
細川周平/哲学書房

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国際日本文化研究センター名誉教授で音楽学者の細川周平氏が、大好きなサッカーのことを語った哲学書です。
とはいえ、細川さんが書く本ですから、ただのサッカーファンが「サッカー万歳!」というような本にはなりません。
「本そのものがサッカーになってしまった本を書きたかった」
というだけあって、ドゥルーズ=ガタリやM・ド・セルトーやらカネッティやベンヤミンなどが多用されて語られるサッカー賛歌は、とても詩的で哲学的な美しさに溢れています。
「キューブリックやパド・パウエルやアインシュタインやメルヴィルが人生を変えてしまうことがあるように、ペレやクライフが観客の宇宙観をすっかり変えてしまうことだってあるのだ。
ー中略ー
いい試合を見るとまるで人生の疑問が解けたような気がするのだ。これは錯覚ではない。ジーコでもカレッカでも釜本でもいい。すごい選手のベストプレーを見たあとに感じる満足は、こうやって僕らは生きている、今のスタンスを少し変えるだけで全く別の生き方が見えてくるはずだ、という希望なのだ。」
逆サイドを見るだけで、一瞬リズムを変えるだけで、アウトサイドでスライスをかけるだけで、局面は一瞬で変わる、サッカーというスポーツの醍醐味と即興的な興奮と美しさは、まさに人生であり、生きていく上での希望を体現していると語るのです。
サッカーそのものの、あるいはサッカーの細部にいたる細胞レベルの宇宙観までを、これでもかというくらいに美しく語り、その愛しさに溺死寸前の状態で「ドリブルは、足が行いうる最も「詩的な」(パゾリーニ)身振りである」と漏らすのです。
もう、なんという名著だろう。と思う。笑
70〜80年代のサッカーでないと生まれなかった名著だと思います。
僕がサッカーに出会ったのが74年。
そして恋に落ちたのが86年。
本気で駆け落ちしたのが90年。笑
89年に出版された本書はまさに僕の時代のサッカーの宇宙が、美しすぎる言葉で詰め込まれた「サッカーになってしまった本」なんですね。

しかも本体表紙とカバー裏も恐ろしいほど美しいのです。

本書は間違いなくベスト7どころかベスト3といってもいい本でしょう。笑


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『夜の魂ー天文学逍遥』
チェット・レイモ/工作舍

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「1冊だけ自分の棺桶に入れていいよ」と言われたら、迷うことなくこの本を選びます。
それほどに、抱きしめて眠りたいくらいに愛しい、天文学者であり詩人でもあるチェット・レイモの珠玉の随筆です。

子どもがスケートボーダーと衝突して宙を舞うシーンに出くわしたところから語られるのは宇宙の静寂について。
どの鳥よりも早く春を告げるマキバドリの話からは宇宙の誕生の話を。
モビーディックの巨大な亡霊のようなイカからはブラックホールを。
そして蝶が飛び立つところから語られるのは星の終わりを。

「夜空を観察する技術は、50%が視覚の問題で、50%が想像力の問題」と語るチェットは、詩人や歌人、哲学者から映画のセリフ、学者や文学からシェイクスピアまで、多くの詩的な言葉を比喩として駆使し、宇宙の根源や仕組みを余すことなく、かつ美しく学問や哲学を語ってくれます。

「星を左右するのはわれらである、とリルケも述べている。わたしたちこそ星の変形者なのだ。われらの愛の飛翔も潜行も含めた、われらの全存在が、この仕事に向かわせる」と天文学に従事すること自体への愛を語り、その全てが静寂と寛容の思念に溢れていて、この世界の美しさに触れることに対する喜びに満ちているのですね。

天文学者が思慮深く、詩的に言葉を連ねて、その深い造詣を語るのなんて、考えうる限り天文学級に無敵じゃないか、とさえ思う。笑
本当になんて美しい本なのかと思います。
それはもう稀有なほどに美しい表現で埋め尽くされた書物なんですね。

この本に出会えてよかったと心の底から思う一冊です。


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『海を見たことがなかった少年~モンドほか子供たちの物語』
ル・クレジオ/集英社

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1988年の初版本。ル・クレジオという名前を初めて知った書籍です。
何気に表紙に惹かれて買ってみたら、木々や光や風の描写も、心を語らずとも行動や交わす言葉で描かれる微妙な心情の機微も、同じように柔らかく繊細に表現されるその世界観と文体にノックアウトでした。
彼の描く世界はとても綺麗で優しいと思うのです。
物語としての力強さはないという人もいるかも知れません。
でもそれでいい。
いや、そうだからこそ、僕はクレジオのファンになったと言ってもいい。
シーンの描写が美しく繊細であるからこそ、読むにつれて僕自身がその場の何らかに関与して物語を生きている気にさせてくれる。
クレジオの抑制された負の表現は、主人公に向けられる柔らかな加護で優しく包まれる。
そこで生まれる、忘れることは不可能なくらいの美しさと瑞々しさが、この短編集のすべてだと思うからです。
読み返してみたけれど、ずっと覚えていた印象通りの本。

やっぱり僕は美しい文章が好きなんだなと再認識しています。


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『オーパ!』
開高健/集英社

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僕には師と勝手に仰ぐ作家が1人だけいました。
シニカルで暖かくてユーモアたっぷりの知の巨人・開高健その人に、うら若き僕は心酔していたんですね。笑
移住先を茅ヶ崎に決めたのも、開高さんのお膝元ということが大きな影響を与えていましたから。
そして開高健という人に深く傾倒していったきっかけがこの『オーパ!』シリーズでした。
当時テレビでも特番が組まれていて、開高さんの旅はドキュメントとして映像化されていたんですね。
そこで僕はここで初めて「動く開高健」を見たわけですが、その人物像はとても魅力的でカッコよかった。
そして開高さんが僕の思い描く、自分が目指すべき大人像の1つとなったのです。
そんな憧れの人・開高健のすべてが詰まったようなこの『オーパ!』シリーズは大好きな本でした。
ホントとにかくカッコよかった。笑
僕が物事の優劣を判断する基準に「知的かどうか」というものがあるということを、開高さんを好きになって初めて気づかされたことを思い出します。
目指したからと言って、時を重ねたからと言って、決して開高さんに近づけるわけでもない、ということも今はよーく知っているんですけれどもね。笑


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『シューレス・ジョー』
W.P.キンセラ/文藝春秋

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僕は海外文学が好きです。
元々ドキュメンタリーや天文学や随筆が好きで、小説を好んで読むというタイプではなかったので、サスペンスや推理小説なんてまったく興味も湧かないタイプの読書好きなんです。
でも、カポーティやサリンジャーの洗礼を受けて、海外文学の文体や比喩の言い回しに惚れてしまったんですね。
そして何よりも海外文学には、僕の生きる世界とはまったく違う文化や価値観や歴史が根底にあって、そこで表現されるクリエイティビティもインテリジェンスの構造も日本のそれとはまったく違う魅力に溢れています。
そういうものを嗅ぎながら、まだ見ぬ海外の文化圏に想いを馳せるのが好きなんですね。
そんな異国の文化が溢れるように描写される本書は、主人公のレイが天の声を聞き、トウモロコシ畑を切り開き、グラウンドを作るところから始まる物語。そう。あの『フィールド・オブ・ドリームス』の原作です。
トウモロコシ畑、シューレス・ジョー・ジャクスン、サリンジャー、そして野球という、アメリカという国にとって、もっとも深く心の底に横たわるアイコンで語られるものは、奇跡と夢と親子の想いです。
良質なアメリカが夢のように詰め込まれた美しい物語。
「きっとうまくいきますよ。失望はしないと思うな」
物語の最後にトウモロコシ畑の向こう側に行くと決めたサリンジャーにレイが語る言葉が、この夢のような物語の本質のような気がしてて。

しかし嗜好の系統が。笑
バレる。笑


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『銀の三角』
萩尾望都/早川書房

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萩尾望都さんの最高傑作だと思ってます。
本書は1982年初版の早川書房版ハードカバー仕様の豪華版です。

竹宮惠子さんなどと共に、花の24年組と呼ばれる同年代の作家さんたちは、少女漫画という枠を大きく広げるばかりか、その概念まで変えてしまいましたね。僕らはその衝撃をリアルタイムで大きく受けた年代です。
その中にあっても、この本に出会った衝撃はいまだに忘れられません。
物語はSFで、陳腐な感傷も根性も愛も恋も登場しません。
そういう物語にしやすい「人」の特性を排除しながらも、その根底に横たわる儚げなノスタルジーと音楽という「人」の特性が永遠と無常を繋ぐ物語のキーになるという不思議な作品。
繰り出され紡がれる言葉と物語の波は、僕の琴線を捉えて、弦楽器のオクターブの共振よりもひどく揺れました。
漫画だからこそ表現できたこの世界観は、僕にとっては一生モノのとっても美しく儚い物語です。
そして、萩尾先生のタッチが最も美しく繊細だった頃の作品で大好きなんです。

当時、萩尾望都さんはもとより、竹宮惠子さん、山岸涼子さん、木原敏江さん、青池保子さん、くらもちふさこさん、大島弓子さん、槇村さとるさん、里中満智子さん、そして吉田秋生さんなど、多くの少女漫画を読める環境にあったんです。
今思えば、とてもラッキーだったと思ってます。
その中でも萩尾望都と吉田秋生さんには一生モノのお気に入り作品をいただけましたから。

蛇足ですが、当時の少女漫画で一番好きだったのはしらいしあいさんの『ばあじん・おんど』(途中で『ひっばあじんおんど』というタイトルに…笑)でした。誰も知らないと思うけど。笑


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『ジョン・レノン Playboy インタビュー』
Playboy編集部/集英社

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7日目の最後を飾るのは、多分たくさんの人が挙げたのではないかと思う本書で締めくくります。
死の直前にPlayboy誌によって行われたインタビュー(インタビューは10月。数回にわたって本誌で連載掲載されています)が収録されています。
ジョンのユーモアも皮肉も愛情も怒りもすべてを瞬時に繋げて語る軽快なインタビュー語録は、あっという間に読破してしまうくらいの面白さです。
世界中にいたビートルズの復活を信じる(あるいは願う)人たちを絶望の淵に叩き落としたあの死の際に、本書が果たした役割は言語を絶するものだったと思います。
そして、本書がただのインタビュー書ではないと高い評価を受けているのが、死の1週間前にジョン自らがしたためたビートルズ・ナンバーのセルフ・レビューが収められていることです。
聴くことによってしか評価を受けない音楽というクリエイティブを、完全に近い形に補完するのが作者のレビューです。
担当役割の明確化によって語られるビートルズ・ナンバー・レビューは、ポールの楽曲への賛辞と嫉妬に溢れた人間味あふれるジョンの生の声で表現されています。
その内容はジョンの「ビートルズ評」そのものであったと言えるほどに絶大なるインパクトを残してくれているんですね。
そして何よりも特筆すべきは、横尾忠則さんが手がけた神秀逸な装丁です。
一枚しか支給されなかったのか、たった一枚の写真でこんなにクールな装丁デザインを作る手法は、アロハデザインのデザインにも大きな影響を与えてくれました。
(左上に小さくタイトルとか、今の時代誰がOKしてくれますか?w)
久しぶりに眺めて色々「すげー」と感心しています。笑

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断腸の思いで7冊から漏れた書籍はたくさんありました。
それでも、明確な影響を僕に残してくれてる本の中から上位7冊を選んだつもりです。
誰かに何かを伝えるという作業ではありませんが、自分の今を作ってくれてる本を再認識することで、自分のイケてる部分を再認識出来たようで、とっても幸せな断腸経験でした。

お付き合いください、ありがとうございました。


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