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デザイン100本ノック

恋愛寫眞のビジュアルワーク

もう時効だから話すけど。笑
僕が昔、『恋愛寫眞 - Collage of Our Life -』という映画のビジュアルをやらせてもらった時のことです。
映画のライターをやってる知人から、今度の堤監督の新作の映画のビジュアルをやってみないかと紹介をいただいて、ポートフォリオを見ていただいたら気に入ってくれたらしく、いきなりティザーのビジュアルを作らせてもらうことになったんですね。
まだ映画が作られる前の告知用のビジュアルをティザーというんですが、その時点ではロケハンで撮ってきたニューヨークの街角の写真しかありませんでした。
ロゴも作ることになったので、映画の脚本をいただき、大筋を理解して、写真を吟味しながらティザーの制作に入ったのですね。
「あそこまでお任せなパターンはそうそうない」と、のちにライターの知人にも、配給会社の担当者にも言われましたが、とにかくほぼ僕のファーストプランでOKをいただけたのです。

映画タイトルロゴ。

Title-logo-ヨコ

そのティザーがこれです。

ティーザー

撮影前でしたが、僕なりのこの映画のイメージをビジュアルにしたつもりでした。
このティザーが増刷するくらいに人気だったらしくて、すんなり本番のビジュアルも僕が担当することになったのです。

ラフ制作の100本ノック!

撮影が終わり、映画の編集が進む中、映画のビジュアルポスターの制作が始まりました。
しかも好評だったティザーの路線を引き継ぎましょうというスタンスも決定してましたから、僕は最初に感じたベクトルに大きな誤差はないと思っていましたし、実際に僕の示すアート・ディレクションはこの映画のイメージの一端をすでに担っていましたから、大いなるパッションで制作に入っていったんですね。

しかしです。
ここからが今回の本題なんです。笑
実際の映画の制作が多くの場合どうしてるのかは知りませんが、企業や大会社にありがちな問題点がこの現場にもあったのですね。
それは、多くの人が関わるが故に、決定権のある箇所に至るまでの過程が、忖度や思いつきや個人の好みなどというたくさんの障壁を作り出していたんですね。
僕が自信を持って出したファーストプランや、その他それに準じたアザーバージョンは、間違いなくこの映画を語るビジュアルだったんです。
だけども、10人に見せたら10人の意見が生まれ、それを作って欲しいと言われ、それを提出したらまた10人が10人分の意見を言い、またそれを作って出して、また10人の。。。。。という地獄ループが始まったのです。
しまいには、上層部たちが当時大ヒットしていた『ゴースト ニューヨークの幻』という映画の感じがいいんじゃないか(全然違げーーし!)とか、国内でもヒットしてた『黄泉がえり』の感じがいいんじゃないか(まったく堤さんのことをわかってねーじゃねーか!)とか言いだす始末。
もうラフ提出の100本ノック状態!
僕が泣きそうになりながらもコツコツ提出したラフ制作はなんと実に60パターンを越えていたんです!(なので現実には60本ノックなんだけど 笑)

流石にもう堪忍袋の尾が切れましてね。笑(遅いって?w)
ついにお願いをしたんですね。
「これを全部、最終決定権のある人に見せてください!それで絞られた1案をブラッシュアップさせてください!」
その決定権のある人が部長なのか社長なのか誰なのかは僕は知りませんが、とにかく担当者が見せてくれたらしいのです。
すると、「これに決まってるじゃないか!」と指し示したのが。。。

そう。
それは一番最初に提出したファーストプランだったんですね。
Oh! My God!!!!!!!!

そして最終的に完成したビジュアルがこれです。
ほぼファーストプランの出来です。笑

恋愛冩眞-本ポスター22-P

自分がティザーの頃から感じてた方向性が間違ってなかったという自信と共に、クリエイティブのシンパシーとか理解力とかリスペクトがない状態でクリエイティブが行われると、そのメッセージやテイストがドンドン蹂躙されて、作品にとってもすごく残念なものになり得るんだな、と実感したんですね。
その時に出した迷走著しいラフたちが今残ってたら面白かったのですがね。笑

いたこ的クリエイティビティ

デザイナーのクリエイティブというのは、ある意味「いたこ」的な側面があります。
それが商品や商売のためのクリエイティブの場合は、デザイナーのクリエイティビティが、その商品や商売を促進する役割を担います。
でも、この映画や音楽のビジュアルワークスというのは、その大元自体がすでにクリエイトされたモノなんですね。
映画でも音楽でも、その作品の持つ世界観やメッセージをビジュアルに表現しなければなりません。
それはもう「憑依」と言っていいクリエイティビティなんですね。
もちろんその表現はデザイナーに委ねられるわけですから責任は重大です。
いや、そんなに重いものではなく、逆にそれが面白いというか楽しいことなんですね。
いわばクリエイティビティとクリエイティビティのコラボなんです。
それぞれの持ち場で1つの総合芸術が作られてゆく感覚。
その中の一員として持ち場を任される責任とやり甲斐感。
クリエイティブから派生するクリエイティブワークが楽しいのはそういうことなんだと思うんですね。w
なので、そんなクリエイターの直感やアイデアや融合性を信じて欲しいと思うのです。
多くの場合、クリエイターのファーストプランが一番いいものだったりしますからね。

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その後、バナーポスターといってビルに垂れ下がった巨大なビジュアルのデザインや地下道や鉄道用のビジュアル、そしてパンフレットやDVDまでビジュアルを担当させていただきました。

恋愛冩眞バナー02-1

パンフ-cover1

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とっても大変だったけれど、とっても楽しかった仕事でした。
残念ながらピンポイントになってしまったんですけど、もっとやりたかったなぁと今となっては思います。w

仕事をしていると、色んなことに巻き込まれます。
疲弊して狼狽してクタクタボロボロになることもあります。
だけど、振り返った時に、やはりそれらの苦難の果てにやり遂げた仕事は、単純に自信や引き出しになるし、絶対に無駄にはならないと確信を持って言えるのですね。
任されて、戦って、ボロボロになってみましょうか。
きっとそれらはかけがえのない大きな自信になりますから。

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ちなみに、恋愛寫眞には小説の『恋愛寫眞 もうひとつの物語』がありますが、これは本作とのコラボレーション企画で生まれた後発の『恋愛寫眞』であって、決してこの映画の原作ではありません。本作が堤監督のオリジナル映画作品で、後発の小説はのちに『ただ、君を愛してる』というタイトルで改めて映画化されました。


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