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ミモザの園へ

僕だって漫画で育った世代なんです。実は。(笑)
小学生の頃に『ドカベン』や『キャプテン』などの野球マンガで野球の全てを教わりましたし、『ブラックジャック』や『750ライダー』で男の美学を学びました。
『サイボーグ009』や『人造人間キカイダー』などで善悪の曖昧さを知り、『あばしり一家』や『ハレンチ学園』でエロの初心を教わり、『デビルマン』や『魔王ダンテ』で人間の狂気を知る世代なんですね。
そうなんです。
僕は『巨人の星』や『あしたのジョー』や『ダイガーマスク』世代のちょっと後の世代なんです。

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漫画週刊誌を欠かさず購入するほどのお金持ちではありませんでした。
でも折りにつけ話題作はとりあえず目を通す感じでしたし、漫画を購読している友達も多かったので読ませてもらってました。
もちろん時代がそうだったという感じです。
インターネットもビデオもない。
自分が自分の時間にチョイス出来る楽しみは音楽と漫画しかなかった時代だったんですね。
もちろん、ここには書き切れないほど様々な漫画を読んできましたよ。
でも先に上げた漫画はほぼ小学生時代に夢中で読んだ作品です。
その後は次第に読む漫画は厳選されて、「琴線に触れる作品を読む」というスタイルに当然変わってゆくわけです。

そんな中、振り返れば、僕の価値観や何かに対するベーシックなスタンスに影響を与えたなと思える作品もあったりしますね。
未だに『アキラ』を越える衝撃には出会ってませんが、あの作品はエンターテインメントでした。
描かれた世界も哲学も、すべてが衝撃でしたがあくまでも壮大なエンターテインメント作品。
それよりも作品的には小さくとも、僕の心に深く届き、僕のベーシック・ワールドの一端を成しているかも知れない作品。
そんな作品が僕にはいくつかあります。
そのひとつが吉田秋生さんの『カリフォルニア物語』です。

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僕がこの作品を読んだのは高校生の時でした。
主人公・ヒースが故郷のカリフォルニアからドロップアウトして逃れてきたNY・マンハッタンで過ごした青春物語。
青春と言ってもすべてがちゃんと結ばれないし報われない世界。
壊れてしまってから大切なものを見つけてゆくというデリケートなリアリティに溢れた作品です。
特に吉田秋生さんの人物描写の上手さに虜になった僕は夢中でこの漫画を愛読しましたよ。
先日観た『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でもそうだったように、出てくるセリフもいちいちやっぱりスクリーンで観てきたアメリカそのものだったんですね。笑
そして、憧れのアメリカとはまったく違う、当時のアメリカが抱えるもう1つのアメリカの闇が物語のベースにちゃんと敷かれていて。
当時「これがリアルなアメリカの影であり、どうしようもない現実の群像なのだ」などとしたり顔で感じていました。
昔憧れていた「海と太陽と音楽のLA」なんてアメリカの本質とは違うよななんて思ったりなんかしてね。笑
そんな海外への憧れなどとは無関係に描かれる圧倒的な人間描写はえぐるような悲劇で読む者を襲います。
深い哀しみとやりきれない「現実」。
そして人と人の間に横たわる「想い」。
この作品の続編的な物語『BANANA FISH』は未だに高い評価を受ける吉田秋生さんの名作ですが、僕にはこの作品のヒースとイーヴの想いに打ち震えるのです。

「運命ってのはさ・・・あるんだよ どうしようもないことってのはあるんだ・・・おまえは十分してやったさ」
「なにを? オレはなにもしていない」
「イーヴはおまえと友だちになって救われたんだよ 言ってたじゃないか・・・”オレをバカにしなかったのはあんただけだ”って」
「なにもしてない・・・オレは他人なんか救えない・・・ 自分のめんどうだって満足に見られないのに・・・・・」
「なにが救いになるかは本人にしかわからんさ そうだろ?」

度重なる失うものへの後悔や絶望に見舞われながら、ヒリヒリするほどの日々をなんとか生きてゆくヒースがなにかを見つけてゆく青春の日々。
人は分かり合えないことに翻弄されて現実をなんとか渡ってゆくもの。
そしてそれを失って初めて、それがどれだけ大切だったかを知る生き物。
この作品はそんな作品に思えるのです。

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この『カリフォルニア物語』のスピンオフとして描かれた『夢の園』という作品があります。
本編では描かれなかった、ヒースと兄の想いを描いた美しい物語です。
ヒースが兄・テリーと育った庭でかくれんぼの時に必ず隠れ場所にしていたミモザの木。
トウモロコシ畑を見ると『フィールド・オブ・ドリームス』を必ず思い出すように、ミモザの花を見ると、いまだに僕は密かに(笑)、必ずヒースのことを思い出してるんです。
そして、人の想いの切なさと純粋さに想いを馳せているのです。

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